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エンドロールが流れた後で  作者: 柏木 遊
幕開け
14/19

またね

「とまあ思っているでしょうね」

カメリアがしたり顔で言った。

「あの狸爺もそうだが、あの門番しれっと銅貨一人分多く取ってったのも私は納得できんがね」

「ああ、一人鉄貨二枚なのにね」

一人分多く取りやがってと、ナハティガルは悪態付いた。

「私たちのお金では無いし、入場税はマゴット待ちだったのだから別に良いじゃない」

「ありゃ次もやるつもりだぞ」

「その時はその時よ、あの時ごねるのは得策ではないわ。それに、この都市、と言うか国は割と弁舌の技量や知恵が尊ばれるのよ。それこそ次は無いわ。コテンパンに返り討ちにしてやりましょう」

「…、それもそうだった」

言葉とは裏腹に、今だ不服そうなナハティガルにカメリアはやっぱり入場の時は何があっても黙ってなさいと釘を刺しておいてよかったわねと思った。

あの時余計に目をつけられる必要はないし、心象を悪くするのは避けたかった。

「あのね、一度でもそうと認識すれば、そこを疑ったり修正したりするのは難しいわ。それこそ、あんな端金で儲けたつもりになってるような人間ではね。あの時はただの流れの人間って認識させるのが優先事項だったの」

カメリアは視界の端にチラつく毛束を耳に掛けた。

「まあわかったよ。じゃあこの後どうするつもり?マゴットの身辺でも洗ってみるかい」

不毛な争いの予感にナハティガルは雑に切りかえた。

「そうね。ほんとあんなに()()()()()に会えてラッキーだったわ。徹底的に洗ってとっかかりを掴むわよ」

「しかし、一体どこで行き先がバレたのやらな」

「それは考える必要があるわね。まあ、先ずはやつを丸洗いにして、どんな情報が出てくるか、ね」 

ニヤリとカメリアは唇を歪ませる。

「全く、君は悪巧みをしている時が一番いい顔をしているよ」

「あらそうかしら?ねえ、ちょっと話は変わるけど、ラバルは上手くやっていけるかしら」

「心配?」

ナハティガルはカメリアの顔を覗いた。策略家の皮を脱いだ、麻呂眉を八の字にしている悩ましげな美少女がそこにはいた。

「ええ、そりゃまあ。ある意味素直すぎる子だから…杞憂ならばいいのだけれども」

「そうかい?私は彼なら上手くやると思うがね。奴隷は主人の所収物だが、その主人んが死んでしまったのだから、意外と逃げ切れるかもよ」

「あー、それもあったわね。っていうか貴方も大概だから。私は普通に孤児院でやって行けるかが心配なの!」

「チャンスは十分でしょ、あとは本人次第」

「薄情者」

カメリアは拗ねたように言うと、それにナハティガルは応えた。

「なんとでも。でも、まあ彼ならなんとかなるでしょ、根はとてもいい子だし、強い子だよ、ホントにね」

表情は相変わらず食えない顔をしているが、声色は存外優しかった。

「貴方のその謎の信頼マジで何処から湧いてくるの…?」

「…、野生の勘☆」




時は少し遡り、ラバルと別れる前のことである。

ヒヤリとラバルの顔が青褪めていた。

原因は、本作の主人公である。

いや、いつか言わねばならないことではあった。しかし、モノには言い方というものがある。と、カメリアは思っていた。

ダラダラと、連れてはいけないの一言が言えなくて、今日まで至ってしまっていた。そして其れが良くないことにはカメリア自身気が付いてはいたが、どうにも言えないままでいた。

然しながら、カメリアはこの男の性質を、というか他人、と云う概念が人間とは違う魔族であると云うことを忘れていた。

大抵のことは前世のおかげかやり過ごせるが、偶にぼろが出る。

今だって、なせ自分が怒っているかは解っていないだろう。

「ねえ、シャウラ、ほんと?」

ラバルの縋るような目に良心が痛む。

なまじ事実なだけ質が悪い。とカメリアはそこまで考えると、一つ溜息を着いてから場を納めようと口を開いた。

「落ち着いてよく聞いてね、ルスキニアが言った事は本当よ。今まで黙っていてごめんなさい。でも、貴方は、」

カメリアの言葉をラバルは遮った。

「やだっ、オレ、孤児院よりシャウラとルスキニアがいい。二人と一緒がいいの」

駄々をこねる様に言うラバルに、カメリアはかぶりを振った。

「私たちと一緒じゃ、貴方が危ない目に遭うのよ」

「それでも良い」

「だから、それがダメなのよ。貴方はまだ子供だから」

「子供じゃない、だから自分で決めたの。オレはシャウラとルスキニアに着いていきたい」

助けを求めるようにラバルの目がナハティガルを見つめた。

「ラバル、それじゃあ1つ私たちと約束をしようか」

「やくそく?」

「そう、いつかまた、私達はここを訪れるから、その時まだ君が私たちと一緒にいたかったら一緒に行こう。君はそれまでここで暮らす。どうかな、ラバル」

「うー、」

「必ず会いに行くよ」

ナハティガルはしゃがみ込んでラバルと目線を合わせて微笑んだ。ラバルの手をそっと優しく取り、両手でさする姿はこの惨状の元凶とは思えない。

ラバルのターキーレッドの瞳がナハティガルを覗き込む。その透き通るような鮮やさが、眩しくて、少し惜しく思えた。

それでも心が痛まないのは、疾うの昔にあの雪原の同胞にやってしまったからであろうか。

ナハティガルはカメリアに目配せをすると、もう一度ニッコリと口角を釣り上げた。

さて、もう一押しといった所か。

感情とは裏腹に、ナハティガルの頭は冷徹にこの場での最適解をはじき出していた。

一つ息を吸ってから、ナハティガルが言葉を紡ごうと決めた時である。

「ねえ」

先に口を開いたのはラバルであった。

「どうしたの」

ラバルは迷うように視線をさ迷わせた後。意を決したかのように、ターキーレッドの眼をナハティガルとカメリアに合わせた。

「オレ、もっと大きくなって、強くなったら、そしたら、また一緒にいてくれる?」

「ああ、きっと」

「もちろんよ」

「じゃあ、オレはオレで頑張るから、シャウラとルスキニアも頑張ってね。いつかまた、絶対会おうね!」

それから、ラバルは静かに孤児院のある区画まで二人と手を繋いで行った。

「また会いに来てね、絶対だよー!」

ラバルが孤児院の門の前で手を元気よく振る。

色々話して聞き込みをしてみた所、評判のいい貴族が運営に携わっているらしいそこならば、問題は無かろうとカメリアとナハティガルは安心して手を振り返す。

晴れ晴れとしたラバルの顔は、自然と二人を笑顔にした。

「また一緒に旅をしよう。達者でな」

「元気でね、また会いましょう」

「うん、またね!」

泣きそうな顔のラバルを残して、二人はその孤児院から遠ざかって いった。




それから孤児院にある区画から出て、宿を取り食事を済ませ今に至るというわけだ。

宿は繁忙期だったらしく、一部屋しか空いていなかったので、カメリアとナハティガルは一人部屋でもいいからと、何とか部屋をゲットしたのだった。

「という冗談はさておき、私、自分でも思ってた以上に彼の事気に入ってたかもしれん」

「そうね、さっきの言葉、昔の部下が聞いたら卒倒するんじゃない?」

「はは、違いない。しかし、シャウラとルスキニアも頑張ってね、か。私たちの事情は何も話してないはずなんだがねえ」

「普通にそのままの意味なんじゃなくって?」

いやあ、私もそうだとは思うのだがねとナハティガルは前髪を手であげると、元々あった敷物と、更に自前の毛皮やらを足して作った寝床に座り込む。

「あくまで私の勘なんだが、なんというか、妙に引っかかるんだよね。ラバルはどう自分の世界を言い表すかの言葉を知らないだけで、かなり聡い子だったし、勘もいい」

「辞めてよ、あなたの勘って妙に当たるんだから」

「そう?ま、辞めだ辞め。今日は色々あったし、明日は冒険者登録だし、毛皮やらの素材も売らねばならない。さっさと寝てしまおう」

がばりと毛皮を被るとナハティガルはそのままそこで寝転んだ。

聞き込みや情報屋で意外と時間を使ってしまい、宿をとる頃には日がとっぷりと暮れていて、今はもう寝るには丁度良い時間になっていた。

カメリアはナハティガルの横に敷いてある敷物の上に座った。

「ねえ、私の毛皮使う?」

「ありがとう、そうしようかしら。私、自分の毛皮持ってなくって。いつかこれも買わなきゃね」

「私が貸すさ、幾らでも」

眠たげな声で、ナハティガルが言った。

それに、いつまでもそういう訳には行かないでしょうにという風に、カメリアが緩やかに笑った。

「そう、とりあえずはいこれ。足りなきゃ足すけど、どうする?」

「いえ、これ一枚で大丈夫そう。ありがとうナハティガル、おやすみなさい」

「お休み」

カメリアが視線だけを動かして、部屋の中を見た。

昏い、夜が帳を下ろしている。

かつて古代の都市をベースにした二次元の世界だったそこは、今、現実になっている。

死んだ身であるので、人間だった頃の故郷には帰れないし、ここの故郷は焼けてしまった。

それでも何とかやって行けるものだから、情が薄いと言われるエルフであることを加味しても、カメリアは自分が存外ドライだったことを自覚した。

ばさりと毛皮ごと敷物に倒れ込み、髪を解く。黄金の絹もかくやと言うばかりの髪か広がり、辺りに波打った。

暖かい毛皮が身を包めば、早々にまどろみがやってきて、警戒の糸が解けたのが解った。

こんなこと、かつての仲間たちには怒られるだろうなあと、ぼやけた頭でカメリアは思う。

隣に魔族がいる所で安眠しようだなんて、本当にとんでもない事である。

魔族の危険性も、性質も、身に染みて分かっているし、前世が人間だとしても、安全性をどれほど担保できるかは分からない。

分からないながらも。

ナハティガル自身は何だかんだで信頼出来ていた。

だがそれでも。

どうしようもなく彼は魔族なのだった。

常々最悪は想定する。

カメリアは、それが遠い夢の様のままであればいいのに、と思うがそうはいかない。

社会に生きるものもしての責任がある。

そこまで考えて、あとは明日考えようと、カメリアは都市の少しばかりの凪いだ夜に身を任せた。

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