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エンドロールが流れた後で  作者: 柏木 遊
幕開け
13/19

商人

ガラガラと、音は大きいがゆっくりとした速度で車輪が回った。

幌が付いている荷馬車をカポカポと、これまた呑ん気な調子で引くのはかなりの体躯を誇る、老いた芦毛の馬である。

しかし、芦毛の馬の、その黒い潤んだ瞳は穏やかさと知性を感じさせ、全体の面立ちもまた、優しげな貌をしている。なんでも、軍馬の家系でありながら、優しすぎて騎馬用に出来ないと、安く売りに出されていたのを主人が買い取れたらしい。

「穏やかな気性ですが、だからこそ扱いやすく、力も体力もあるいい馬でなんです、こいつは。大飯喰らいが玉に瑕ですがね」

とはその主人の談だ。

あれから魔物を倒して解体してを繰り返し、乍ら道を進んだ。ナハティガル達が途中商人の護衛の仕事を掴めたのはラッキーだった。

「ああ、そろそろシラカワの城壁ですよ」

馬の主であり、白髪頭の商人の老人が馬の手網を引きながら言った。

「ええ、その様ですね」

荷馬車の前に着いていたカメリアがニコリと愛想良く答えた。

その携えている杖から見るに、商人はカメリアをかなり高位な魔法使いなのだろうと思っていた。

「マゴットさん」

カメリアが商人に問いかけた。

「何ですかな」

「私達のこと、警戒してないの?」

「ほっ、素直なお嬢さんですな。まあ、していないと言えば嘘になりますが、冒険者はね、拗ねに傷がない方が珍しい職種ですし、雇っていた冒険者に襲われていたあの時、助けていただいた恩くらいは返したいじゃないですか」

朗らかにマゴットはカメリアの問いに答えた。 

「貴方、あんまり商人に向いてないわね。優しすぎるもの」

路頭に迷っていた割に、良い人に拾ってもらえたと思う。

思い返してみれば、故郷が戦禍に焼かれ、何だかんだのエルフ生三度目の追放にしては幸先が良い。

「ほっほ、ああ、好いのですよ、寧ろ私はそうで有りたい」

「ねえっシャーちゃんはなにお話してるの?」

「相手を信用できるかどうかのお話だよ。あと、シャーちゃんは辞めてあげようか」

某赤がイメカラの流星さん。本人が知っているかは知らないが、それがナハティガルの中では一番に浮かんだ。偶然にも両方金髪だし。

「え〜!?」

荷馬車の後にマゴットの厚意で乗らせてもらっているラバルがはしゃいで質問して、その隣を歩くナハティガルはそれにのらりくらりと答えていた。

「ねえ」

「なんだい」

「呼んでみただけー!!」

「楽しそうだね」

それって楽しいの?と言う言葉は後でカメリアから叱られそうなので飲み込んだ。

何より大人気なさすぎる。

ラバルの白髪だと思っていた髪は、あれからプラチナブロンドだったと言うことが発覚した。

まあ、あれだけ汚れていればさもありなんといった所ではなかろうか。

「ねえねえ、城壁ってどれ位大きいの?」

「そうだねえ、とっても大きいんだよ〜」

最初こそ借りてきた猫の様だった子獅子だったが、元の性格はかなりワンパクな部類だった。しかしうざったいと思わせないのは天性のモノだろう。

「とってもって、どれ位?」

「妙に食いつくね、そうか、しかしどれ位だったか…」

最後にあそこに行ったのは、勇者一行と見える前のことだったので、城壁の高さなどはすっかり忘れていたナハティガルは記憶を探った。

「あっ!蝶々!!」

「おや、綺麗だね」

生き生きとした少年の表情を見るに、これなら何処でもやっていけそうだとナハティガルは思う。

「あっ、あそこにも蝶々いるよ!!」

すっかり壁の高さなんて頭から抜けたラバルははしゃいだ。

「残念、アレは蛾だ。ラバル、蛾と蝶ってのはね、止まり方が違うんだ。アレは羽を開いて止まってるから蛾に分類される」

「へーそうなんだ!ルウくん物知り〜〜」

「ルウくんは辞めてくれ。流石に恥ずかしい」

と言うかルースと呼ぶ様に言ったのだが、ガン無視であだ名を付けられるとは予想出来なかったのか、ナハティガルは少し動揺を見せながら、それを隠す様に口元に手をやった。

「じゃあルーちゃん」

「もっとダメだよ…ラバル…」

何がじゃあなのか。と言うか何処をこれでいけると判断したのか。真っ事子供は予測不可能な生き物であるとナハティガルは痛感した。

やいやいと後ろで盛り上がっているのを尻目に、馬車は進む。

森が開けると、思ったよりも高い壁が見えた。その先に続く丘には神殿らしき建物が見える。

ああ、そう言えばこんなんだったなぁとナハティガルは口元に添えていた手を離す。

隣のラバルをチラリと見ると、どうやら驚きすぎて声が出ない様だった。

「わあああっスッゴイ、すごいっ!!!でっかあ!!!」

心を表現するボキャブラリーが足りないのかな。

ラバルのそれが、なんだかとても子供っぽく可愛らしいとナハティガルは思った。

ナハティガルはラバルを観察し終えると、カメリアを見た。

しかし、その目に映る感情は特になく、淡々とマゴットと世間話をしている。

「子供はやはり見ていて飽きないね」

「そーお?」

「ああ、切実に思うよ」

別に子供好きという訳ではないが。やはり表情がコロコロ変わった方が見る分には気持ちが好いとナハティガルは思う。

話すのだったら対等に話せる方が楽しいと思うが、こう言う時に楽しめないのは好きではない。

カメリアは子供ではないのだから当たり前と言えば当たり前だが。

「いや俺も白けてる奴の一人だったな。引っ張られすぎたか」

「どーしたの?ルーくん」

「いやー?何でもないよ。それよりどうだい?驚いた?」

「うんっ!!すっごいねえ!!あんなにおっきい壁どうやって作ったんだろって位おっきくて、大っきいの!!強そう!!カッコいい!!」 

元々大きな丸い目を更に大きくしてキラキラと輝かせ、夢心地でラバルは思いの丈を語った。

「フフ、ラバルはあの壁が好きなんだね」

「すき?うん!ダイ好き」

「あはは」

そうこう雑談をしているうちに、城壁についた。

ずらりと並んだ人垣の最後尾に並ぶが、相当時間を食いそうな予感を一行はひしひしと感じた。

入場料は全員分をマゴットが払うという事で話はついているが、そもそも審査にを通らねば壁中には入れないので、そっとカメリアとナハティガルは互いに目配せをした。

カラカラと妙な緊張感を胎の裡に抱えながらも列は進む。しかし二人とも其れは気取らせなかったのは流石と言うところだろうか。

段々と列が縮まり、とうとう一行の番になった。

「次の者!」

高らかに衛兵が一行に呼びかけた。

打ち合わせはした。

準備は万全だ。

策もある。

さあ、ヤってやろうじゃないか。

という感じで昨晩話したナハティガルとカメリアだったが、さて、正気に返ってみると、やはり不安の種はあるわけで。

二人は五月蠅い心臓を宥めながら門へと向かう。

其れを知ってか知らずか、マゴットは大丈夫ですよと語りかけてくれたが、それどころではなかった。

「市民ではないな?何をしにきた」

「麦と、オリーブ、葡萄酒を売りに参りました」

門番の鋭い目がマゴットを射抜いたが、彼は其れをものともせずに答えた。

「わかった。後ろのもそうだな?帝国市民でないなら入場税を払ってもらおう。鉄貨十枚だ」

「分かりました」

じゃらじゃらと貨幣をマゴットは門番に渡した。

「通ってよし!」

「有難うございます」

すたすたと足早に一行は通り過ぎていった。

「意外にも上手くいったね」

「ええ、というか、流石に何某か突っ込まれるかと思ったんだけれど、何も無かったわね」

コソコソと話す二人に、マゴットが話しかけてきた。

「ご相談中にすみませんが、私も商談がこの後すぐにありまして」

「申し訳ないわ。ではここでお別れですね」

「ええ、皆さんの様な方に会えて本当に良かった。どうぞ、これが報酬です」

「あら?少し多い様だけれど…」

「皆さんの働きぶりと、命を救われた御恩がございますから。少し色を付けさせて頂きました」

「嬉しいわ、ありがとう。貴方ももう騙されちゃダメよ?」

「ほっほ、気を付けさせて頂きます」

「それでは、ありがとうございました」

「またいつでもお声がけください」

「じゃーね!!」

「皆さんも、お元気で」

そう言って手を振りながらマゴットは人混みに溶けいった。

「はー、ひと仕事終わったわね」

ため息をついたのはカメリアだった。

「ねえ、さっきの鎧着た人がさ、あの後イミンゾクの男とエルフ?のオンナはキョドウガアヤシイからキヲツケトケって言ってたけど、どう言う事?シャラちゃんとルーくんなんかしちゃった??」

ヒュッと妙な音が漏れたのがどちらかは分からなかった。

「oh…、目を付けられてしまったか」

「な、なんとかなるわよ、何事もなければだけれども…ふふ、てか貴方、ルーくんて、フフフフッ」

「辞めてくれ、カメ…「ルーくん?」ッサーセン」

「喧嘩はダメだよ!?」

「ッはは、そうだね!ナンデモナイヨ〜〜!」

「そうよー」

ラバルに胡乱な目で見られるが、大根芝居で強行突破するより他ない二人は、あははっと無感情に笑うのだった。

ナハティガルは早々にやらかした自身をなじる様なカメリアの視線と、なんだこいつらと言う観客の視線が痛く感じた。

「そっかー!よかった!!」

しかし、これまた節穴なラバルは上手く騙された。

「なにこのピュアっピュアな生き物」

「これはコレで心配になるわね。さてと、行くわよ、ギルド!いざ立身出世!!」

そして荒稼ぎよ!!と言う枕詞が聞こえそうなカメリアに、いや、目立ったらダメなんじゃないかとナハティガルは心の中で独りごちた。

「目立たない様頑張ろうね」

「俺も頑張るー!」

「いや君は孤児いn…ヒェッ」

「えっ」

「ちょっとお話しましょうかナハ…じゃなかった、ルスキニア?」

カメリアとナハティガルはラバルの顔が青褪めるのが分かった。

と言うかシャラだって間違えたじゃないかとは、口が裂けても言える空気ではなかった。

人間って難しい。

そう、元人間の魔族は心の底から思った。




場所は変わり、マゴットは人混みの中、馬車を引きながら進んでいた。

その中で、白い布を被った男に紙切れをすれ違いざまに渡した。

「ほっほ、しかし良い人過ぎる、ですか。さて、誰のことを言っていたのやら」

好々爺然とした顔は崩さずに、密やかに仮面の裏でマゴットは嗤った。

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