婦好戦記 解説(その1 物語構造について)
『婦好戦記』
最後までお読みいただけたでしょうか。
作品の解説をいたします。
※ネタバレ警報を発出いたします。
筆頭読者のひとりである浪間さまが考察をしてくれたので、
いろいろと種明かしをします。
どうせ来年にはわたし自身も忘れてれるので。
最後まで読んだ人しか読まないでください!!!
まれに解説系を読んでから作品を読むかどうかを判断をする方がいますが、その場合は止めません。自己責任でお願いします。
特に最終章「天命を賭する」。
終盤にかけて、作者が何を仕掛けたのかについてです。
--目次--------------------
①作中の「呪い」について」
②作者が本当は逃げ出したい、まじで危ない話
③婦好の死について
④解説したい台詞について
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【①作中の「呪い」について】
呪いがあるかどうかはわかりませんが、マイナスの魂エネルギー……はい。余計にファンタジーになってしまいました。
いわゆる「関羽様の呪い」です。
作中の呪いは、その人が最も愛する大切なものに悪さをします。
<発生 キビ→呂鯤>
第二章でキビが死に、呂鯤に呪いをかけます。
呂鯤さんは自分が一番大事な人なので、めちゃくちゃ苦しみます。
<移動 呂鯤(+キビ)→婦好>
第七章で呂鯤にかけられた呪いは、(呂鯤+キビ)の呪いとなり、婦好さまに襲い掛かります。
以後、婦好軍の不運が始まりました。
婦好さまの大切な人の犠牲ーーリツ・ギョクの死、レイ・サクの危機です。
<移動 婦好(呂鯤)→サク>
婦好の呪いは「解呪の式」でサクが受け止めます。
婦好様はもともと処女信仰の強い人です。
でも呪いのせいで感情をコントロールできませんでした。
呂鯤さん「酒・名声・女」の人ですからね。
なので、サクが交わったものはなにかというと……まあ、そういうことです。
あの話は婦好さまとリツに焦点がいきがちですが、実際は(呂鯤+婦好)×サクの三者の話だったりします。
---6/7追記---
宇美さまの感想を読んで、誤解を生む書き方になっているのではと思い追記します。「呪い=心理的な悪さ」をしているだけなので、きっかけに過ぎません。きっかけがなければ、ふたりは生涯交わらなかったのではと思います。
大事なことなので二度言います。
婦好さまは処女信仰の人です。
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以後はずっとサクが呪いを背負っていました。
<移動 サク(呂鯤)→「悠久の大地」>
サクは婦好を探すなかで、「悠久の大地」に文字の呪いをかけます。
呪いをすべてかけ終えて、婦好との再会を果たすのです。
「悠久の大地」はいまも呪われています。
ちなみに、作中「血を舐める」という行為も因縁を受ける構造となっています。
【②作者が本当は逃げ出したい、まじで危ない話】
こんな辺鄙なURLだから言えますが、第六章・第七章・第八章は明確に反戦を謳っています。
第六章で、婦好さま(陽華さま)の出自の半分は新疆ウイグルって、ちゃんとみなさまには伝わりましたでしょうか。
はい。
現代の新疆ウイグル問題を意識しています。
そして、第八章。
奇しくも現代の問題を反映することとなりました。
商 =ロ〇〇
鬼方=ウク〇〇〇
微王=プ〇〇〇
微王の狂人化はプ……様の……
はい! 解散です!
ありがとうございましたーーーーー!!!
会盟のシーンでは『戦争の終わらせ方』を書いたつもりです。
当然2018年連載開始当初は2022年がこんな世の中になるとは思いませんでした。
もともと、終盤のどんでん返しでは
商(悪の帝国)
婦好軍(悪の手先)
サク(悪の手先の参謀)
という構想のもと書いていたのですが、こんなにも現代社会を反映できる作品になるとは考えてもみませんでした。
はい、危険な話でした。(強制終了)
【③婦好の死について】
連載開始当初のプロットでは、婦好さまには亡くなっていただく予定でした。
死というイベントがなければ、婦好という人物を二人にした意味もないし、
絶対的な婦好さまの死がなければサクが歴史として『婦好伝』を残せないからです。
<想定外①>
婦好さまは強すぎてなかなか死んでくれなかった。
会盟で半狂乱の微王があんなことになっちゃったんですが、
婦好さまに傷を負わせる理由付けがめちゃくちゃ大変でした。
何度となく書き直し、今後も書き直すかもしれません。
ちなみに、主人公三人はそれぞれ身体の一部損なっています。
婦好さまは子宮、サクと弓弦は性器です。
婦好戦記は性差がテーマの根幹にありますから、
やはりその部分を失っていくというのは運命付けられている話の運びになっています。
<想定外②>
サクの想いが強すぎた。
婦好さまを作者という死の淵から生かしたのは紛れもなくサクです。
婦好さまを生かすことでしか、作者のわたしに対して、
カタルシスの調整を一切してくれなかったのです。
生かすとしても、最終話は本当はもっとぼやかして
狂人化したサクの幻覚レベルに描く予定でした。
しかし理由を明確に開示したほうが最終話としてはいいのではという葛藤があり、
作者の解像度の調整により、婦好さまの言い訳のシーンができあがりました。
婦好さまが人間らしいというかかっこ悪くなるので、
今も削除するか迷うシーンではあります。
幻覚説でも美しいと思うのですが、このへんは好みですね。
最終的に婦好とサクが見たものは、なんでしょうか。
大海と書きたかったのですが、これもぼやかしました。
黄河か。長江か。大海か。。ご想像にお任せします。
わたしは出身が埼玉県なので、安易に海にロマンを求めがちですが、
中国人は別に海にロマンはあまり感じなかったようですね。
さて、彼女たちの今後ですが、司馬遷のように各地を転々と流浪すると思われます。
望白のところへ遊びに行って、「イチャイチャすんな殺すぞ」と
ブチ切れられるのは予定された未来です。
【④解説したい台詞について】
言わせてください。というか、書いておかないと、わたしも意図を忘れるので……
最終話の婦好さまの最後の台詞です。
作中で最もキーとなる台詞です。
「サク。婦好ではないわたしを見つけ、本当のわたしとともに歩んでくれてありがとう」
表の意味は、「婦好軍の婦好さま」としての肩書きや権力を婦好がすべて失ったとしても、一人の人間として、伴侶として選んでくれたことをサクに感謝する、という意味です。
裏の意味を解説します。
サク=読者です。
婦好戦記は歴史ジャンルです。
歴史上の人物を記号ではなく、人間として生かすのが目標でした。
だから、もしこの台詞に違和感を覚えないでみなさんが読めたのであれば、
ひとりの女性が、婦好という記号から解放されて、
生きた人間として読者のなかに存在してくれたことを示しています。
わかりやすく翻訳すると、
「読者のみなさん。歴史の記号ではなく、人間としての精神性を認めて追体験してくれてありがとう」
なのです。
歴史小説を書いている方はわかってくれると思います。
ともすると、人間性ではなく、記号に忠実に書こうとしてしまうこともありますから。
わかりにくい、誰にもわからない情緒を詰めました。
この一文を違和感なく言わせることができただけで、婦好戦記は満足です。
あと2回ほど解説予定です。
2回目は時代考証について。
3回目は浪間さんへの回答です!