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なぜか惹かれる

※婦好視点

 婦好は己の内にある感情を顧みた。


(なぜサクに惹かれるのだろうか)


 色白の肌、鏡のように世界を映す澄んだ瞳。


 無垢で清凉なる中に、蒼い炎を宿す魂。


 その瞳に己を映していたい、と願う。


 



 この感情はなにに起因するものなのか。


 仮説も立てられないようであれば危険である。


 深入りしてはいけないと本能が警鐘を鳴らす。


 恋や、愛は、繁殖のための原動力である。


 では、同性に対するこの感情は?

 慈愛? それとも、憐憫?


 サクは。

 従順なふりをして、反抗的。

 いままでにそのような者は居なかった。

 感情が揺さぶられる。



(だが、それだけではないように思う)



「婦好さま」

 ふいに、リツに呼びかけられる。

 

「ん、なんだ?」


「どうしたのです? 窓を見て、にやにやして……。あーーあ、サクの体育を見ていたのですね。逆上がりもできないなんて、情けない」


「できないことを、必死に足掻く姿はいじらしいな」


()けますね」


「リツでも妬くのか」


「それは、……妬きますよ」


「ならば気をつけなければならないな。サクには、近づかないほうが良いのかもしれない、か……」


「そうですよ。やっとわかってくださいましたか」


「しかし、そのようなこと。わたしらしくない」

 席を立つ。


「婦好さま?」



「リツ。なにがあっても、リツとわたしの過去が消えるわけではない。どんなに気になる人物が現れようとも、リツを無碍に扱うことはない。信じて、わたしの好きにさせてほしい」



 ◇◇◇



 婦好はサクの教室へ足を運ぶ。


「サクに会いたくなった。いま、良いか?」


「は……、はい。なにか、ご用事でしょうか」


「用事がなくては会いにきてはだめか?」


「いえ……しかし、クラスだと、気恥ずかしくて」


「サク。わたしについてこい」



 非常階段をのぼり、屋上の扉を開ける。



「屋上には初めて入りました。しかしここは、立ち入り禁止のはず」


「毎朝、後輩が屋上の学園旗を上げている。わたしは生徒会長(責任者)として、鍵を預かっているのだ。私用で使ったのは初めてだ。公私混同だな」



 婦好は、屋上の扉の上部に設置されている監視カメラに向かう。


「学園長、聞いているな。屋上を少し借りるぞ」


 カチリ、と音を立てて電源を落とした。


「そんなところに、監視カメラがあるのですね」


「この学園の長は変態(かわりもの)だ。至るところにあるから、気をつけなさい」


 



 サクの髪がそよぐ。


「屋上の風は気持ちがいいですね」


「サクとともに、空を眺めたかった」


「では……」

 サクは、ちょこん、と座った。


「?」

「膝枕、……です。お嫌でしょうか。空を見たいなんて、きっと、受験勉強で気がふさがっているのだと思いまして」

「では、遠慮なく」


 婦好は寝転がり、サクの膝に頭を乗せた。

 

「細いな。もっと食べなさい」

「そうでしょうか」

「失敗した。なにか、食べ物を持ってくればよかった」



「食が、進まないんです」

「なぜ?」


「近頃、胸がくるしくて」




「婦好さまを思うと」




「本当に、サクは可愛い」



 婦好が髪を撫でると、サクの大きく潤んだ瞳と細く小さな唇が恥じらう。



「サクのことは以前より知っている気がする。入学より前に、わたしと会ったことはあるか」


「いいえ」


「では、なぜ、こんなにも気になるのか」


「婦好さま……」


「サク。目を、よく見せて」



 婦好はサクとまっすぐに向き合った。

 サクの両頬に婦好の手が添えられる。



「そのように見つめられては、恥ずかしいです。まるで、心を覗かれているようで」


 サクは目を逸らす。


「だめだ。()らさずに、(こた)えて」



 薄茶色の瞳が、サクの真っ黒な瞳と交わり続ける。


 長い睫毛が瞳だけではなく、その白肌に影を作る。


 その瞳は太陽を受けて深く煌く琥珀のようであるようにサクは感じた。



 いつまでそうしていただろうか。


 目と目を合わせることは、思考を、すべてを曝け出すに等しい。


 どっどっ、とサクの全身に血が沸き、巡るようであった。



「もう、……お許しください……っ」




 サクは咄嗟に唇で婦好の頬を抑え、その胸に抱きつく。

 滑らかな白肌の(ほほ)に触れるだけのキス。


 なぜ、そのようなことをしたのか、サク自身にもわからず、赤面した。



「……ふ、こうさまが、悪いのです……」



「なぜだろう、はじめてではない、気がする……」


 婦好は己の胸に飛び込んだサクをぎゅっ、と抱きしめる。


「わたしたちは、過去に、なにかがあった……?」


「過去……?」


「しかし、このような形で、会いたくはなかった」



「えっ……」



 サクは婦好の胸から離れる。



「それは、どういう意味でしょうか」



「すまない。わたしも、感情の整理ができていないのだ」





「しかし、これだけはわかる。過去のわたしが、過去のサクを求めている」




 婦好は、右手でサクの左手首を掴み、ぐい、と引き寄せた。



「サクが、悪いのだ」


 豊かな胸に、サクの顔が埋まる。




「本当は()()()を奪いたいが」


 婦好はサクの唇を指でなぞる。



「これで許す」



 学園で最も美しい生徒会長は、少女の黒髪と(ひたい)に、口づけを落とした。


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