月下想雪
強い寒波に覆われても、空が晴れていれば、月は冴え冴えと明ります。
やがて来ると聞いた雪雲は、まだ、山の向こう側で気配を覚えません。
空にある月に尋ねてみたくなりました。
自分のこころの中の雪は、尋ねるまでもなく降り続いています。
もう、汚れてしまった雪です。
凍てつく空の目に見えぬ 寒気に、いまは覆われて
昨日零れた鉢植えの 水も夜半に凍りつき
拉けば、夜にこだまする
夜が晴れれば、地の熱は 空に溶けいで、底冷えの
地表に霜の降りる頃
満ちたる月は西の空 静かに夜を照らしゆく
風がなければ、流れゆく 雲はゆるりと空にあり
月の光は、薄雲の 変わる形に、物の怪の
妖しき目ともなりはてる
月は、流れる雲のうち 小さき虹を身に纏い
少し温んでいるような 光に、夜を浮かべては
浮かべぬ我をあざ笑う
雨は降るかと尋ねれば いまは遠くを降る雪の
あの山越えて流れきて 朝の明ければ、ここいらも
白く染まると月は言う
染まるものなら、降り来ては 儚く消ゆる初雪の
眞白さよりも、降り積もり、泥に汚れてゆく雪を
我は見たくも思い立つ
雪を夢みる西国の 青き冬にも雪よ降れ
雪よ降れとぞ、希う 我が心には、降る雪の
すでに汚れてあるらしい