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01

 俺、氷室(ひむろ)冬一郎(とういちろう)は運命の赤い糸が見える特殊能力を持っていた。


 けれどそんな能力を持っていても意味が無い事が多い。

 

 例えば友達に付き合っている彼女がいた時、二人が運命の赤い糸で繋がっていなかった時はどんな顔をすればいいのか分からなかったりする。


 高校生のほとんどのカップルは運命の糸で繋がっていない。


 そして、そんな俺にも運命の糸でつながっている相手がいた。




 放課後までそいつはやって来る。


「ちょっと、早くしなさいよ!」

「ご、ごめん……」


 幼馴染の杉山(つむぎ)だ。美人でモテるはずなのに恋人を作る事なく毎日、俺をこき使っている。

 買い物も食事も勉強も、何なら家にいる時も常に一緒だ。


 普通のラブコメなら紬が俺に惚れていると勘違いする所だが、それはありえない。もちろん俺が紬に惚れる事もありえない。


 何故なら……。


「さっさとしろって、言ってるでしょ!」

「ウッ……!」


 急いで準備していると腹に蹴りを入れられた。

 靴の尖った先がめり込み、痛みで膝を付く。


 紬はチッ、と舌打ちをしてカバンを突き出した。


「ほら、カバンも持ちなさい!」

「はぃ……」

「返事は!?」

「っ、はい!」


 このままではまた蹴られるため、痛みを我慢して立ち上がる。

 俺に持たせる前提のためか、かなり重たい紬のカバンも一緒に持って急いで後を追った。


 放課後に買い物に行かない日は、いつも俺の部屋か紬の部屋のどちらかで過ごしていた。


「ふうっ。相変わらず辛気臭い部屋ね~」


 余計なお世話だ。


 紬は当然の様に俺のベッドに座った。

 俺は部屋の主だと言うのに肩身を狭そうに床に正座して座っている。


「ん~……。あれ、何これ?」


 紬は引き出しを漁り出して、一冊の本を見つけ出した。


 それは昨日、届いたばかりのラノベ『信じられないかもしれませんが、なんでもお金で解決しようとするちょっとズレてるお嬢様が俺の彼女なんです』だ。

 ずっと楽しみにしていたラノベでまだ読んでいない。

 今日読もうとしてとっておいたのだ。


 だが紬はそれを浮気の証拠を見つけた嫁ののように突き出した。


「ねえ、なんでこんなものがあるの?」

「それは……」

「おかしいよね? 私が全部捨てたはずだよね?」

「ずっと楽しみにしていて……」

「は? 私が読むなって言ったものを何で読んでるの?」


 そう。俺は紬に強制的に「ラノベを買わない」と言う契約されていた。


 紬以外の女の顔が俺の部屋にあるとイラつくらしい。

 

 理不尽な理由だが俺には受け入れるしかなかった。


 ハッキリとしない俺にイラついたのか、紬がラノベを開いて真ん中からビリッ、と破いた。


「ねえ、約束して?」

「え?」

「もう読まない?」

「それは……!」

「読まないって約束して。しなさい。しろ」

「分かり、ました……!」


 「ふんっ」とボロボロになったラノベをゴミ箱に放り込んで、紬はベッドに寝転がった。


 悔しさで拳を握りながら、何も言い返せずに我慢した。






 紬とは家が隣同士だから、夜遅くまでいつもは過ごしていたが、今日は紬の好きなドラマがあるために家に帰った。

 

 紬がいなくなった部屋には俺が取って置いたお菓子の空袋や勝手にクローゼットから取り出して散らかしたままの服、そしてゴミ箱に入れられたラノベがやけに目に入って来た。


 沸々と怒りが湧いて来る。


「クソッ!」


 手近にあったクッションを壁に向かって放り投げ、ポスンッとバウンドして床に落ちた。

 

 力が抜けた様に膝を付く。


 いつもこうだ。


 紬は俺の生活圏にズカズカと踏み込んできて、自分勝手なルールを押し付けて、俺の人生を大きく変えて来た。


「何で俺と紬が……ッ!」


 俺の薬指に結ばれている運命の赤い糸が忌々しく見えた。


 紬と結婚するイメージなんて浮かばない。浮かぶわけがない。


 でもきっと今と変わらないんだろう。


 暴力を振るわれて、虐げられて、自分勝手に振り回される。


 でも、俺はそんな人生は絶対に嫌だ!


「こんなもの、こんなもの切ってやる!」


 引き出しからハサミを取り出す。


 分かってる。どうせ切れないって事は。


 それでも、例え無駄でも俺は運命に抗ってやる!





 バチンッ!







「切れ、た……?」


 あっさりと薬指に結ばれた運命の赤い糸が切れてしまった。

 指に結ばれていた赤い糸は解れて、床に落ちて消えた。


 本当にあっさりと俺と紬を結んだ、忌々しい運命の赤い糸が切れてしまった。


「自由だ、俺は……これで俺は自由なんだ!」


 もう俺は紬に縛られない。運命の赤い糸には縛られない。


 やっと、これで――――。




『もーっ! ダメじゃない! 運命の赤い糸を切るなんて!』




 突然、そんな声が聞こえた。


 部屋を見渡しても誰もいない。


 ただ、よく見ると部屋の時計が止まっていた。

 

『こんちゃ~っす!』


 声と同時にピカッと光り、一瞬だけ目を閉じてしまった。


『ワタシ、運命の女神様よーんっ!』


 そして目を開くと麗しい美女が立っていた。


 桃色の髪と濃桃色の瞳、そして天女の羽衣の様に薄い服を纏った、現実離れした美しさを持つ美女だった。


「運命の女神様……?」

『そっ! ついでの縁結びの神様でもありま~すっ!』

「縁結びってそれじゃあ」

『そうよ~んっ。私が貴方と紬ちゃんの運命の赤い糸を結びました~っ!』


 やっぱりか……。

 この女のせいで俺は……。


『も~、ダメよ~っ! せっかく可愛い女の子と運命の糸で結んであげたのに~っ!』

「ふざけるな! あの女の本性を知らないからお前はそんな事が言えるんだ! 俺が今までどれだけ苦労して来たか……!」

『あの子にも困ったものよね~。ツンデレとかヤンデレってレベルじゃないわよ……』


 はあ、と女神が深くため息を吐いた。


『まっ、いいか!』


 だが、次の瞬間には手を叩いて表情を切り替えた。


『罰として変わりに運命の赤い糸を新しく結んで置いたからねっ!』

「は?」

『今度はちゃんと幸せになるのよ! ちゃ~んと、可愛い女の子だから!』


 そう言い残して徐々に女神の色素が薄くなっていく。


「ちょ、待て待て! お前、そんな事が許されるわけが――――!」


 うふっ、と女神がウインクをすると同時に部屋が光り、俺は意識を失った。








 気持ちよく寝ていたいのに、スマホから鳴るアラーム音が嫌でも朝がやって来た事を無慈悲に知らせる。


「……起きた」


 スマホのアラームを停止させて、誰もいるわけでもないのに口に出して目が覚めた事を報告した。


 間違えてスヌーズにでもしてしまえば、何度もあの音を聞かねばならないから、何度も画面をタップして停止させた。


 昨日の事は夢だったのではないか? と疑問が出たが、自分の薬指を見て夢じゃないと気付く。




()()()()()()()()()()()()()()()




 そう。俺の薬指に結ばれた運命の赤い糸が増えていた。


 ()()()



ここまで読んでいただきありがとうございます。

作者のモチベーションアップに繋がるので、ブックマークや高評価、感想など是非よろしくお願いします。

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