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7.不思議の国と雪の剣士

「【フレイムランス】!」

「ぃよ、っと」

 炎の槍を叩き落とし逆袈裟に鎌を振り上げる。

 ココアが残った一人を倒すべく武器を構えたところ、横から飛来した銃弾が側頭部を射抜き、先に倒されてしまった。

 銃声の方を見やると、シズクがしてやったりの顔でニヤニヤしている。

「はー?おいしいとこ取りされたんですけどー。マジ解せんわ」

「先に横取りしたのはそっちです。これで向こうの生存は一人。おそらくというか、十中八九リーダーのエレンさんで間違いないでしょうけど」

「あーね。チッ、メインディッシュはアリスかー。だとは思ってたけど」

「加勢はどうします?」

「行くのは行くけど、べつに要らないっしょ」

「そう言うと思いました」

 参りましょう、シズクは武器を収納し、ココアもそれに合わせてアリスの元へ向かった。

 勝利を確信しているわけではない。

 負けるはずがないという自信を抱いているだけだ。

 自分たちのリーダーこそが、本物の最強であると。





 一度。二度。三度。

 剣と刀をぶつけ合い、耳が痺れるほどの音を鳴らす。

 武器が折れそうなほどの鍔迫り合いから一転、互いに距離を取り剣を高く掲げた。

「【百合之太刀】」

「【エアロリープ】」

 氷の斬撃が空を舞い、真空の斬撃と穿ち合い爆ぜる。

 氷霧を突き破りエレンが剣を引いた。

「【群玉六花(ぐんぎょくりっか)】」

 迸る冷気が尾を引き空気中で煌めく。雪の結晶を描く六連撃に対し、

「【グリムアリア】」

 黒の一閃をぶつけるアリス。

 氷と闇のエネルギーが幻想的に散った。

(他のギルドとの映像データとオーマたちとの戦闘から鑑みるに、私と似た…いいえ、ほぼ同様と言っていい、剣を主軸に魔法で随所を補う戦闘スタイル。STRよりはAGIとDEX値にステータスを振っている印象です。そして厄介なのが)

 エレンが鋭い突きを放つ。

 アリスは右足を軸に身体を回転させて突きを回避し、勢いを殺さずに横薙ぎに剣を振る。

 よもやそれが、エレンの誘いだとは勘付かない。

「【玲瓏睡蓮】」

 空に咲く氷の蕾が剣戟を阻み、衝撃により開花した睡蓮の花弁が爆散した。

 カウンター型の【氷魔法】だ。

「っ、危なかった…」

 いち早く察知したアリスは花弁の一枚、身体を凍らせる霜の花粉にやられることなく距離を取って整息した。

(カウンターすら避けるこの反応速度…)

 身の毛がよだつような精錬された動きに美しさすら覚え、エレンは思わず見惚れ感嘆のため息を漏らした。

「これだけ攻め立てているにも関わらず、攻撃が当たらないというのは初めての経験です。そういうスキルなのか、単純に目が良いのか。俄然アリスというプレイヤーに興味が湧いてきました」

「アハハ…普通のプレイヤーなんですけど…」

「それでは、私は普通のプレイヤー一人に1ダメージも与えられない無能になってしまいますね」

 能面の下でクスッと笑う。

「ええ、いや!そんなつもりじゃ!」

「フフ、冗談です。ついからかってしまいました。申し訳ありません。無礼でしたね。戦闘中だというのに気分が高揚してしまったようです」

 やはり楽しいですねと、エレンは刀身を鞘に収めた。

「強い方と戦うのは」

 カラン、下駄を鳴らす。

 一足でアリスとの間を詰め、鞘内で加速させた刀を抜き切る。

 技の名前を【雪月花】。エレン渾身にして最速、斬った対象を凍結させ、ステータス値を低下させる居合の技である。

「!」

 それを避けられたことは無く、今回も確実に喰らわせたはずであった。

 エレンの目にアリスの姿は無く、当の本人は宙空。160cm未満の小柄な身体を前転させながら、エレンの空いた背中を下から上に斬り付ける。

 血のように赤いダメージエフェクトが走った。



(避けた…?私の動きを予見でもしていない限り、そんな動きが出来るはずがない。これはシステムに縛られたゲーム内の動きでなく、彼女自身の能力。攻撃を見切る目も、体捌きも、全てが純粋なプレイヤースキル…)

 予想だにしない回避と反撃に、エレンは顔色を変えた。

 魔法で距離を取るべく、五指を広げアリスの方に手を翳す。

 アリスの剣は魔法の発動よりも速い。エレンの左肘から先が宙へ飛んだ。

「っ!」

 HPは半分以下まで削られたが、それを好機とスキルを発動させる。

「【羅刹】!」

 蒼白のオーラが立ち昇るそれは、HPが最大値の半分以下になったとき発動する。MPを最大値の半分回復、全ステータスを上昇、更に攻撃範囲を拡大する妖怪族の固有スキル。

「【彼岸の矢】!」

 これ以上長引かせては危険だと直感したエレンは、氷の矢でアリスを牽制しつつ距離を取り、自身の最強の魔法を発動させる。

 部屋は吹雪が吹き荒れ、周囲を凍てつかせていく。

 床に咲くのは大輪の氷の花。

 そしてエレンの背後には、氷の月を背負う美しい姫が顕現した。

「【怪異招来:輝夜姫(かぐやひめ)】!」

 祈りを捧げる手を解き、慈愛に満ちた眼差しでアリスに手を伸ばす。

 姫の御手は触れたものを絶対零度で凍てつかせ破壊する。

 未だ破られず、使用したバトルでは負けたことの無い、エレンの正真正銘の切り札。

 それを使って尚、エレンは勝利を確信出来ず、喩え難い不安を感じていた。

 その正体はすぐにわかることになる。

 このアリスという少女は、まだまだ底を見せてはいない。

 吹雪を掻き消すように、アリスから漆黒のオーラが立ち昇る。

 神々しくさえある姫の手を、巨大な骨の手が弾いた。

「【死霊術:黒の巨兵】!」

 深い闇から姿を見せる、黒い骨の巨人の上半身。

 よくよく見れば一体の骸骨が何体も組み合わさっている。

 異様と不気味なスキルに、エレンは一瞬怯んだ。

 巨人は氷の姫を両手で掴むと、氷菓子でも貪るように頭から喰らった。

「こんなことが…」

 愕然とするも、それで勝敗が決したわけではない。

 アリスは最後までエレンから目を離さず、訪れた好機を着実にものにせんとした。

「【アクセラレーション】!」

 距離を詰め、白銀の世界に黒を引く。【アクセラレーション】を最速の移動技とするなら、これは【剣術】スキルにおける最速の剣技。

 一撃の攻撃力は低いもの、レベルに応じて連撃の回数が増える、まさにアリスにとっての必殺技である。

「【アルフィリアス】!!」

 超高速の剣。

 その様、まるで流星。

 反撃を許さずエレンの身体に深い傷を負わせHPバーを割る。

 油断せず最善を尽くしたエレンは、その結果に愕然としながらも、いっそ清々しい思いで氷の結晶が煌めく空を仰いだ。

「完敗ですね」

 刀を鞘に収め、

「参りました」

 手を重ね丁寧にお辞儀をしながら消えていく。

 アリスはグッと柄を握り、天高く黒い刃を突き上げた。

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