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2.不思議の国と大賢者

 次世代体感型VRMMO――――――――《NEVER END ONLINE》

 通称、NEO。

 人間族、エルフ族、獣人族、妖精族、竜人族、天使族、悪魔族、妖怪族の八つの種族から成り、剣と魔法、銃とスキルによる戦略に彩られた無限の可能性。

 果てのない広大な世界を舞台にした冒険が売りの、今世界中で人気を博しているゲームだ。

 NEVER ENDの名の通り、このゲームには明確なエンディングが存在しない。明確なストーリーも無ければラスボスも居ない。

 進化する種族、スキル、武器。二人と同じキャラクターが存在しないとまで言われる。またアイテムコレクトや称号の解禁などバトル以外の要素も豊富で、それ故に多くのユーザーに支持されている。

 完全攻略という概念が無いこのゲームで、プレイヤーたちは各々の自由を掲げる。

 アリスたち三人も同じ。

 彼女たちがこのゲームに足を踏み入れたのは、自分自身の夢のためであった。




 【屍龍の窟】。

 入り口からボスの部屋までは一直線だが、壁、床、天井から絶えず毒が滲み出ており、毒耐性のスキルが無ければ深奥にすらたどり着けない隠しダンジョンの一つ。

 アリスたちは全員【状態異常耐性】系のスキルを有しているため、毒など怖くない。

 なお、このダンジョンの解放条件はパーティーメンバーに天使族がいることとなっているが、一度入った後は単独での行動が可能なため、ソロでボスに挑むことも出来る。

 ダンジョンに挑戦して一時間ほどが経過。三人はそれぞれ五回以上ダンジョンをクリアしていた。

 肉が腐り紫色の腐食液を撒き散らすドラゴンを倒して、ココアは唸った。

「ぅあー!素材は集まったけどシズクのそれアリなの?!ボスんとこ行かないで入り口から狙撃するなんてー!三十秒でクリアするなんて反則だよ反則ー!」

「攻略出来る仕様なのですからアリでしょう」

 むーとジト目を向けるココアに、シズクはしてやったりと言わんばかり意地悪く笑った。

 文句をつけるココアも三分弱でクリアしているのだが。並のプレイヤーが平均三十分を要することを考えれば、このタイムも充分異色だ。

「シズクちゃんほどとはいかないけど、私も頑張っちゃうよ」

 その場で軽く跳ねてストレッチ。ゲームの中で筋を伸ばすことにさしたる意味は無いが、やる気の表れというやつだろう。

 真っ直ぐ全速力で駆けボス部屋へ。



 荒れた伽藍堂の中心に、天井からべチャリと落ちる巨大な物体。不快感を覚える腐った肉の匂いを放つそれは、緩慢な動作で起き上がり、窪んだ眼窩でアリスを見やり吼える。

 屍龍カンタレラドラゴン。

 二つ名(ネームド)持ちの強力なモンスターであるが、今までですでに三十体は撃破しているそのモンスターを見て、アリスはある違和感を覚えた。

「あれ…?なんかちょっと違う…?」

 肉体の腐食度が進行し、噴き出る腐食液は紫というより血のような赤。

「【鑑定】」

 人間族の固有スキル【鑑定】。モンスターに対してステータスを閲覧することが出来るスキル。

「屍龍王カンタレラドラゴンアーク・・・ユニークモンスター?!」

 一定の条件、確率で出現するユニークモンスターは、通常のモンスターよりもステータスが高い。

 それがボスともなれば脅威度は跳ね上がる。

 アリスが剣を抜くと、カンタレラドラゴンアークは骨が露出した鎌首を上げ、赤い猛毒のブレスを吐き出した。

 半円形のドームを時計回りに大きく回り、ブレスが届かない距離まで壁を蹴って駆け上がる。

「【エアロリープ】」

 スキルを発動し間合いの外から剣を振る。

 剣筋に添って放たれた斬撃がドラゴンの首元に直撃した。HPバーは微々たる程しか変動しない。

「元々物理攻撃は効きづらかったけど、もっと硬くなってる。なら・・・」

 背後に着地し剣先を下げたまま前進。

 尻尾の先から放たれた腐食液を身をよじって回避し、間合いに捉える。

 剣を逆手に持ち替え、ドラゴンそのものではなく地面に向かって勢いよく突き刺した。

「【シャドウリリース】」

 剣を模した幾本もの影が地面から突出し、ドラゴンの身体を貫いた。【闇魔法】による攻撃は効果的なようだった。

 剣を抜くと影も消える。HPバーが一気に半分まで減少したことで、カンタレラドラゴンアークは翼を広げ空中高くへと上昇した。

 皮膜が破れた翼をはためかせ、辺りに腐食液を散乱させる。更に追撃のブレス。

 降り注ぐそれらに回避の手段は無い。

 本来ならばシールドやバリアといった全方位型の防御で無ければ対処出来ないそれに対し、アリスは上空に手を翳した。

「【ブラックホール】」

 アリスを中心に闇が展開。

 渦巻く超重力が瞬く間に猛毒の霧と腐食液を吸収し呑み込んだ。

「【グラビティコア】、【形状変化】」

 朽ちた身体の真下に掌に収まる程度の黒い球体が出現する。

 超重力の塊に引き寄せられドラゴンは落下。肉が潰れた音が響く。

 それに向かって一直線に駆け、細身の剣の形を変える。速さに特化したそれから、破壊力を重視した大剣の形状へ。

 その一撃は命を刈る死神の鎌。

「【グリムアリア】」

 大剣が肉を抉り骨を断つ。

 首を刎ねられ、カンタレラドラゴンアークはHPが尽き、身体は粒子へと還っていった。

 部屋の毒が消えていき空気が澄んでいく。

「ふぅ……疲れたぁ」

 大きく息を吸い込み剣を下ろす。

 部屋に明かりが灯ると、部屋の中心に宝箱が出現した。

 自分の前に現れたパネルをタップする。




 《レベルが上がりました》

 《ドロップアイテムを取得しました》

 《称号【死霊の主】を取得しました》

 《称号【魔を討つ者】を取得しました》

 《ユニークスキル【死霊術】を習得しました》

 《アドミニストレートスキル【大賢者】を習得しました》




「レベル上がってる。ドロップアイテムは…あ、レア素材が多いや。あとは…剣と称号とスキル…ん?なんだろこのスキル」

 アリスは素材と武器を【アイテムボックス】に収納し、ひとまず二人の元へ戻ることにした。




「遅かったじゃん。どしたー?」

「ユニークモンスターが出てきたんだよ。それでちょっと手こずっちゃって」

「まあ、ボスのユニークモンスターは珍しいですね。呼んでくだされば駆けつけましたのに」

「あ、忘れてた…」

 アリスはアハハと頭を掻いた。

「てかソロで討伐とかさすアリ!ユニークモンスターならドロップもいっぱいでしょ!どんなのゲットした?」

「うんと、素材がいっぱいと、称号に…この剣」

 ストレージから手に入れた両刃の剣を取り出す。



 《死と祝福の剣》

 MP+400 STR+250

 レアリティ:S

 内包スキル【デッドリーイノセンス】…攻撃に毒属性を付与、自分よりレベルの低い相手に対して確率で即死を与える。



「状態異常特化の武器って感じ?え、めっちゃ強くない?」

「壊れ性能ですね。さすがユニークモンスターのドロップ」

「それとスキルが二つ」



 【死霊術】

 ユニークスキル。

 【死霊の主】を設定しているときのみ使用可能。

 レベル×1の死霊兵を任意数召喚し操作する。

 


 【大賢者】

 アドミニストレートスキル。神の権能の一つ。

 万物の解析、統合、分解、進化を司り、神性領域にて新たな叡智を創造するスキル。

 習得条件:ユニークボスモンスターを単独かつ一定時間内、ダメージを受けずに、スキル、魔法の使用が十回以下で討伐。



「ひゅー!ユニークスキル!これアリスしか持ってないスキルってことだよね!すごー!しかもめっちゃ強そうだし!んーでも、こっちの【大賢者】って何?」

「アドミニストレートスキルという単語も聞いたことがありませんし…もしかしたら、アップデートで新しく追加された機能なのかもしれません」

「確かめたいけど今日はもう遅いし…また明日にしようかな。とりあえずこの【死霊の主】って称号だけセットしておこっと」

「なら明日アリスんち遊び行っていい?」

「うんいいよ」

「ではまた明日。おやすみなさい、アリスさん、ココアさん」

「おつー」

「おやすみー」

 三人は別れを告げ、その日はログアウトした。




 ゲームの外の世界にて。

 管理者たちは屍龍王の撃破にざわめいていた。

「マジッスか…。あれ倒せるプレイヤーなんて居たんスね」

「そりゃ倒せるのは倒せるでしょうけど…行動パターンのプログラミング知ってても、ソロでなんてとても倒せないわよ」

「じゃあチーターッスか?」

 粗野っぽい男性が、椅子の背もたれに体重をかけながら。

「んなわけねえだろ。それならおれらがとっくにBANしてるっつの。てか、出現確率低すぎてそもそも出会わねえよ」

「ッスよね」

 少女の戦う姿をモニターで見つめる。

 何度見直しても目を疑うばかりだ。

「この子、一、二時間くらい前にPvPしてたわよね」

「ログありますよ…ってうおっ、至近距離でサブマシンガン躱してる。なんだこの動き…これスキル使った動きじゃないッスよ」

「紛争地帯で生きてきましたみてーなプレイングしてんな。てか後の二人もヤベーぞ。強えってか上手えわ」

「ていうか、どうするの?持っていかれちゃったわよ、アドミニストレートスキル」

 女性はデスクでキーボードを叩く男性に訊ねた。

 男性は手を止め、眼鏡を外し、愉快を口元に表した。

「もちろんいいさ。いずれ誰かの手に渡ることを想定した力だ。あれを手に入れるだけの器だってことだろう。楽しみに待とう、そのプレイヤーが【大賢者】をどう使うのか。そのプレイヤーの名前は?」

「アリス」

「アリス、か」

 パソコンに転送されたデータを閲覧する。

 管理者たちに注目さているとは露知らず、三人は各々の夜を過ごしていくのであった。

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