46.ステラ・メイシー(2)
「ステラ!大丈夫だったかい⁉︎何ともないんだね⁉︎ああ、本当に良かった!」
「お父様…苦しいです。」
家に着くなりお父様に力強く抱きしめられ、今度は別の意味で命の危機を感じる。
「貴方、ステラが潰れてしまいますわ。」
「す、すまない!心配で心配で、つい力が入ってしまった。君が拐われそうになったと聞いた時は、心臓が止まるかと思ったよ。」
「本当に、貴方が無事で良かったわ。ステラは私達の大切な宝物なんだもの。」
「…っ。ご心配をお掛けしてすみませんでした。」
温かい両親の言葉に、涙が込み上げてくる。
本当に、何事もなく帰れて良かった。
あのまま拐われていたら、命はなかったかもしれない。これも全て、助けてくれた彼のお陰だ。
彼と言えば
「……。」
「どうしたんだい、ステラ?やっぱり、どこか怪我でもしたんじゃ…?」
突然黙って俯いてしまった私を心配して、お父様が顔を覗き込んできた。
私は慌てて首を振る。
「いいえ!本当に何もないの。ただ…」
「ただ、何かあったのかい?」
「ステラ、どんな些細な事でもいいのよ、話してちょうだい。」
2人に促され、私は先程助けてくれた彼の事を話した。そして、フレッドが失礼な発言をして、彼を傷付けてしまったことも。
「うーん。確かにフレッドの言い分も一理ある。」
「お父様まで!」
「勿論、その彼が悪い人だと決めつけているわけじゃないんだよ。ただ、そういう事を考える奴もいる、というのはステラも理解してほしい。我々貴族は、いつ誰に足元をすくわれるか分からないんだよ。気を許したら、いつでも引きずり落とされる。そういう世界なんだ。」
「…ええ、分かっています。」
そう。貴族と聞くと、一見華やかな世界を想像するけれど、実際はそればかりじゃない。
裏では悪い事をしている人だって大勢いるし、そんな人達に騙されて落ちていった人を何人も知っている。
でも
「彼は…違うわ。絶対にそんな人じゃない。私には分かるの。」
お父様の目を見てはっきりと答える。
私の言葉に応じるように2.3度頷くと、お父様が執事のロブを呼んだ。
「すまないが、今から言う特徴の男性を探してくれないか。なるべく急ぎで頼む。」
「お父様…?」
「大事な娘の命の恩人なんだ。お礼もしないまま、というわけにはいかないだろう?」
そう言って片目を瞑るお父様に、思わず抱きつく。
「さすがはお父様だわ!ロブ、私が特徴を伝えるから、ぜひよろしく頼むわね!」
「お任せください。」
それから数日、私の元に2つの知らせが入った。
1つは、私が探していた彼が見つかったこと。
そしてもう1つは、私を襲った男の雇い主が判明したこと。
その雇い主は
フォリス公爵家の令嬢だという事だった。
「って、ちょっと待ってください‼︎私じゃありませんよ⁉︎」
まだ話の途中だったけど、衝撃的な言葉を聞いて思わずステラ様の話を遮る。
確かにゲームでのリザベルだったらやっていただろう。いや、実際にやっていた。だからこそ私は接点を持たないようにしていたのに、何故そんな事に⁉︎
「大丈夫よ。落ち着いて、リザベル様。私は貴方が依頼したとは思っていないわ。それにこの話は数ヶ月前の事よ。リザベル様の反応を見る限り、フォリス公爵からは何も聞かされていなかったのね。驚かせてごめんなさい。」
「父様は…当然知っているんですよね?」
「ええ。うちのお父様曰く、騎士団から事情を聞かれたフォリス公爵は、ドス黒い怒りのオーラを纏いながら淡々と否定していたそうよ。その場にいた騎士達は震え上がってそれ以上追求することができなかったとか。」
「ど、ドス黒い…」
父様…。
まぁ、それだけ私の事を信じてくれているんだと喜ぶ事にしよう。
「その男は、実際に私に会って依頼されたと言ったんですか?」
「いいえ。フォリス公爵家の遣いの者に依頼されたと。雇い主はリザベル様だと、遣いの者は言ったそうよ。そして、何かあった時の責任は全てお嬢様がとるから心配しなくてもいい、と言われたんですって。おかしな話よね。」
「それは…おかしな話ですね。それを信じちゃう方もどうかと…。」
「あと、私を人気のない所に連れて行けば後は代わりのものが来るって伝えられていたみたい。つまり共犯者も近くに居たって事になるんだけど、結局それらしい人はいなかったのよ。」
「ステラ様が助けられたのを見て、逃げちゃったんでしょうか。」
「分からないわ。最初からいなかったのかもしれないし。」
な、謎すぎる。
どうして私の名前を使ったのかも分からないし。
私に恨みがある…?
だとしたら、これから先も何かしら起きるかも…。
「そんなに不安そうにしないで。大丈夫。リザベル様は、自分が思っている以上に強い味方が沢山いるわ。」
「どういう事ですか?」
「今回の事件で、家族であるフォリス公爵の発言だけで貴方の容疑が晴れると思う?普通は、娘を庇っていると思われるだけじゃない?」
「た、確かに。」
言われてみれば、それだけで済む話じゃないわよね。でも、私は何も聞かされていないし。
「ふふ。公爵以外にも、貴方を擁護する人がいたのよ。ライアン騎士隊長と、その息子のレイド様。そして、セリオス殿下よ。」




