2.
「んぅ。ここは・・・私の部屋?」
なんだかついさっきもこんなことがあったな、と思いながら目を覚ます。
今回はベッドの上だったので、お尻は無事だ。
まぁそんなことはどうでもいい。
さっきの記憶は間違いなく"私"のだ。
正確には"前世の私"だけど。
こんなことって本当にあるのね。
「お嬢様、ご気分はいかがですか。」
侍女の声にハッと我にかえる。
そうだ。前世の記憶が蘇った衝撃で意識を失ってたんだった。
「だ、大丈夫よ!ありがとう。もう下がっていいわよ、リンナ」
そう声を掛ければ、侍女が驚いた顔をする。
「お嬢様・・・熱でもおありでは?」
え?熱?いや、いたって元気なのだけど。
そう考えて、気づいた。
私ってば今までリンナにお礼を言ったことがなかったわ。と言うか、誰にも言ったことないかも・・・。やってもらって当たり前精神だったからな、私。
しかもいつも侍女のことをアンタとか呼んでたから、名前で呼ぶのも初めてかも。
最悪すぎるついさっきまでの自分の性格を思い出すと目眩がする。
「熱はないわ。本当よ。ちょっとまだ少し気分が悪いから寝てるわね。また用があれば声をかけるわ」
そう言って布団に潜り込むと、静かに返事をしてリンナは出ていった。
さて、整理しよう。
ここは前世で私がやっていた乙女ゲームの世界らしい。
私はこの世界の王妃・・・になる予定の人。
それ以外は、実はあんまりよく分からないんだよね。だって彼女、24歳という若さで亡くなってしまってて、ゲーム本編では登場人物達に思い出として語られるだけだったから。
まぁ、その思い出もなかなか濃いものだったけど。
王妃候補のライバル達を非道な方法で辞退させ、王妃になったとか。
庶民を嫌い、蔑み、税金をたんまり使って贅沢三昧してたとか。
王妃としての公務をほとんどしなかったとか。
気に入らないことがあるとすぐに怒鳴り、侍女達に当たり散らしてクビにしたりとか。(これまさにさっきの私)
他にも挙げればキリがないけど、わんさか出てくる。この手のエピソードが。
そして第一王子のカイル殿下が寂しげにヒロインに語ってたのよ。
───母上は、一度たりとも私のことを愛してはくれなかった。彼女の心は父上以外受け入れない。死ぬ間際まで私を見ることはなかったんだ───
カイルーーー!!!
儚げに微笑むカイル(スチル)に、何故私はそちら側に行けないのか、と恨めしく思ったものだ。
画面という障害がなければ今すぐに抱きしめるのに!!!
カイルはそんな母親でも愛してたし、愛されたかったんだよね。
だけど、最後まで愛されることはなかった。
誰にも弱みを見せず、王子としての役割を立派にこなす反面、母親に愛されなかった苦しさがずっと彼の心の中にあったんだ。
その寂しさを埋めてくれるのが異世界転移してきたヒロイン
な・ん・だ・け・ど!!!
ヒロインには悪いけど、私はカイルに寂しい思いなんかさせないし、そんな最悪な王妃になる気はない!!!
前世は田舎の平凡な女子高生(享年16)だった私だけど、今から頑張れば立派な王妃になれるよね!というか、カイルの為になるしかない!
そうと決まれば、まずは今までの行いを反省して、清く正しい令嬢を目指さなくちゃ。
我儘令嬢のリザベル・フォリス(7)が心を入れ替えた瞬間だった。