11.
「し、失礼致しました!」
私は慌てて謝罪する。
「セリオス殿下の前で話し込むなど、申し訳ありません。」
王子への挨拶の場で不敬にも程がある。自分の度重なる失態に、気持ちも頭もどんどん下がっていく。
「いや・・・顔を上げてくれ。最初に話を振ったのはこの男の方だ。君はそれに応えただけなのだから、気にしなくていい。」
王子の優しい言葉に、心が救われる。
「悪かったよセリオス。リザベルとは施設で出会ってさ。公爵家の令嬢なのに、ちっともお嬢様っぽくないんだぜ。教会にドレスを寄付したり、施設の奴らに勉強も教えてくれてる。お前にも会わせたいと思ってたんだ。」
レガスが私の紹介をする。2人の気安い口調から、険悪な関係では無いことが窺えほっとした。
「そうか、彼女の事だったか。確かに普通の令嬢とは違うみたいだな。」
そう言ってちらりと私を見る王子と目が合う。
本当に見れば見るほど綺麗だなと感嘆してしまう。
えっと・・・。
恋愛初心者の私がこんなラスボス級の美少年を攻略できるのかしら?
今更ながら厳しい現実を突きつけられ、軽く絶望しかけているとセリオス王子が口を開く。
「俺も、名前で呼んでもいいだろうか?」
「勿論です。お好きなようにお呼びください。」
「分かった。では、リザベルと呼ばせてもらう。」
そう言って表情を緩ませる。
笑顔、可愛いーーーー!!!
私の中の内なる母性が目を覚ましかける。
もう攻略がどうとかよりもただただ眺めていたい!
王子の微笑に心を打たれていると、レガスが気怠そうに伸びをしながら私を見る。
「・・・腹減った。挨拶も終わったんなら、何か食いに行こうぜ、リザベル。次から次へとやって来るから食いそびれてんだよ。別に構わないだろ?セリオス。」
「・・・ああ。俺はまだここを離れられないがな。」
「美味そうなものがあったら持ってきてやるよ。」
「相変わらず自由ね、レガスは。でも確かに美味しそうなスイーツが沢山あって、私も気になってたの。」
「よし、じゃあ行こうぜ。」
王子に会釈し振り返ると、まだまだ列は途切れそうもない。
相手をする王子の顔がどんどん無になっていく。参加者のほぼ全員と挨拶をしないといけないのだから、疲労も溜まるだろう。
応援の意味も込めて見つめていると目が合い、僅かに微笑まれた。
破壊力!!!
「何してるんだよ。置いてくぞ。」
胸を押さえて動かない私を、レガスが不審そうに見ている。
「今、行く・・・あ、ちょっと待って!」
ふと先程から静かだった父様の存在を思い出し辺りを見渡せば、少し離れた人目のつかない場所で誰かと話をしている。何やら珍しく難しい顔をしているが、仕事の話だろうか?
邪魔にならないようそっと近付く私達に気付いた父様が、しばらく2人で楽しんでおいでと言うのでそうする事にした。
庭園にも驚いたが、スイーツも本当に素晴らしかった。
あまりの量の多さに目移りしてしまう。
その中でも特に気になる数種類をまずはお皿に乗せた。
「んー!この桃のタルト最高に美味しいっ!」
「ははっ。リザベルは本当に美味そうに食べるな。そんな令嬢他にいないぜ。今日の茶会では、皆セリオスや良いとこの坊ちゃん達に媚びを売るのに必死だってのに。」
「ええ!?それとこれとは別でしょう?確かにこういう場で自分の将来の相手を見つけるのは大切な事だと思うけど。でも私は美味しいスイーツとの出会いも大切にしたいわ。はむっ・・・!これも美味しい!」
「お前・・・食い過ぎ。もう無くなりそうじゃねーか。ったく、仕方ねーな。」
レガスが呆れながらも、間も無く空になりそうな私のお皿に気付き、新しいケーキを取りに行ってくれた。
口は悪いけれど、本当は優しいのよね。
「ああ、ここにいたんだね。リザベル。」
紅茶を飲みながらレガスを待っていると、後ろから父様の声がした。
「父様!お話はもう───・・・」
済んだのですか?と言う言葉は最後まで紡がれる事なく、私は息を飲む。
振り向いた私の目にまず飛び込んだのは、燃えるような真っ赤な髪の大柄な騎士だった。