心して行きましょう!
注意事項をグルナから聞き、現在の状況に嘆きながらもやっと王太子と、面談…基、給仕をしつつの偵察にイリアと共に来た。
そして現在、午後のお茶の時間なのだが……
「なんだコレは?この時期ならば、イノレック産の物のが美味いだろう!そちらを直ぐに用意しろ」
と王太子殿下が、目の前に居る侍女に言い放った。
因みにこれが二度目になる。
(確かに王太子殿下の言う通り、今の時期ならばイノレック産の物が旬なのだけれど!だけれど!なんなのあの態度は!せっかく用意して貰った紅茶に手も付けずに、次!とは、あぁ~勿体ない…!!あの一杯だけでも貴重な茶葉なのに……)
と、エメロードは王太子の素行に腹を立てつつも、論点がズレている状態である。
仕方がない。自分が大好きなものをぞんざいに扱われて、喜ぶ者などいないだろう。
それにしても…とエメロードはここぞのばかりと、王太子殿下スフェール・エグ・マリン・グラナートを観察する。
外見は一言で言えば、『物語に出てくる王子様』その人だ。
髪は淡い金髪に、空を映したような瞳。
女神に祝福されたような容姿で、微笑めば百人の老若男女問わずに、陥落する…と言われる。基、事実そうなのだが。
そんな“見ているだけで目の保養”な王太子殿下は、現在進行形で仏頂面だ。
(本当に何が気に食わないのかしら?)
そう思ってしまうのは仕方がない。
現に誰も大きなミスもしていなければ、不遜な態度も一切ない。
「スフェール殿下。我儘はそれくらいにしましょう」
「なんだカイユー。これ程のこと、我儘にもならないだろう?」
心底不思議に…ではなく、あの顔は分かってはいる様だ。
現にカイユーと呼ばれた騎士からの注意には、バツが悪そうな感じで答えてはいる。
エメロードは、チャンスではないか?と思った。
スフェールは現在、「誰にも注意が出来ない状態でここまで来てしまった…後には引けない…」と言った状態に陥っているのでは?と。
なんにせよ、遅いイヤイヤ期を伴った反抗期なのだ。
スフェール自身もいい大人だ。
きっと分かってはいるのだろう。
ただ収まり処が分からない…と言った事ではないか?と。
だがその考えが次の会話で霧散する。
「殿下、そろそろ公務の続きをしましょう」
「公務?必要な物は午前中に片付けただろう」
「それは“最低限のもの”になりますよ」
「はっ、そんなもの出来ると思っている連中が、やればいい」
そう言って話はこれまでだと言うように、そっぽを向いてしまう。
この会話を聞く限り、ただのイヤイヤ期ではないのでは?とエメロードは考える。
(イヤイヤ期と言うよりも、反抗期が強いかしら?イヤイヤ2:反抗8と言ったところかしら?)
全く以てイヤイヤ期と反抗期しか、スフェールには無いと思っているエメロード。
既に、スフェールを可哀想な目で見ている。
それにしても…とエメロードはスフェールの側に立つ騎士を見る。
先程、カイユーと呼ばれた人物だ。
エメロードから見るに、カイユーの言葉にはスフェールも渋々ではあるが、聞き入れているように見受けられる。
グルナからは彼の話は聞いてはおらず今後、彼を味方に付けたのならばいい方向に持って行けるかもしれない…と思えた。
なんにしても、王太子殿下スフェールの第一印象は、エメロードの中では全く以て良くなかった。