子供ですね…。
どうしたものかと思いながらもエメロードは、ここが踏ん張りどころだとは理解している。
なので…本当に、面倒だが…アルコバレーノの言葉を、待った。
「反抗期と言ったら『何か言った事に対して、拒否や抵抗すること』とは、聞いたのだが…スフェールはどちらかと言うと、『イヤイヤ期』なような気がする」
「……いやいや、ですか。例えばどのような状態の時でしょう?」
「……とにかく全てがイヤなんだそうだ。現状では、『公務が面倒、それに伴う勉学もイヤ』『社交もイヤだから外交なんてもっとイヤ』と」
「大変、申し上げにくいのですが……」
「なんだね、エメロード」
「王太子殿下は、ほっとけば良いのではないでしょうか?そもそも、反抗期等は自然に精神が成長すれば落ち着くものでしょうし、今回の場合もそれに当てはまる事です。なので、このまま好きにさせてあげましょう!」
エメロードも最初こそは言葉に落ち着きがあったのだが、語尾が段々と息巻いて行く。
仕方がない。面倒なのだから。
ここで、王太子殿下をほっておけば、エメロードは晴れて自由の身。
大好きな自領に帰る事が出来るのだ。
話を聞けば、聞くほど面倒な事を放置して。
「それがだな。近々、隣国の王子が使節団として、訪問することが先日決まったんだ。勿論、私もホスト側としてもてなしはするが、主な付添などにはスフェールになる」
「つまり、それまでに王太子殿下のイヤイヤ期を、終わらせないといけない…と言う事ですか?」
「うむ。そうなるな」
「因みに、使節団がこちらに来られるのは、いつぐらいになるのでしょうか?」
「先日話が決まった状態で、こちらに来るメンバーの選定等があるだろうから…早くても二ヶ月、遅くても三ヶ月後と言ったとこだろう」
それまでに殆ど顔を合わせても、社交辞令しか話した事のない王太子殿下の信用を得て、更に更生させるだなんて、無謀としか言いようがない。
(何故、こんな時に来てしまうの!使節団!!承認する方もする方だわ!)
エメロードの脳内には、『オワッタ…』の四文字しか浮かばない。
そこへ、ノックが。
イリアが対応し、入室して来たのはこの国の宰相、アンテ・レクテュエルだ。
彼もエメロードの父、ノレッジの友と言える人だ。
勿論、エメロードとも仲が良い。
「エメロード嬢、久方ぶりだね。元気そうで何よりだ」
エメロードが、挨拶をしようと立ち上がりかけたのを手で制止し、アンテはエメロードを懐かしむ様に、微笑んでくる。
彼と会うのも数年ぶりだろうか?顔に疲れが見える。
十中八九、王太子殿下の事でだろう。
彼の采配が無ければ、既に王太子殿下のイヤイヤ期は、社交界で噂の的だ。
それが表立って出ず、何事もないように過ごせているのは、彼のおかげだろう。
「アンテ小父様、お久しぶりです。小父様は……気そうではなさそうですね」
その言葉に、アンテはハハッと苦笑いで返してきた。
「再会したことを喜んではいるし、もっと話をしたいところなのだが…陛下、そろそろ公務に戻って下さい」
その言葉に、アルコバレーノは嫌そうな顔をした。
それはそうだ。本来なら王太子殿下がするはずの公務も、現在はアルコバレーノが受け持っているのだろう。
幾ら王太子殿下の分が国王よりも少ない…と言っても、自分の公務と合わせれば膨大だ。
国王陛下は忙しい職業なのだ。
「仕方がない、では行くか。エメロード、この話は女官長もしっている。何か私に伝えたい事があれば彼女に言ってくれ。優先的に時間をとる様にするから」
そう言ってアルコバレーノと、アンテは部屋を後にした。