令嬢と陛下のお茶会
エメロードとイリアは、最悪の状態を想定して幾つかは対策を立てた。
役に立つかは別だが…。それでも無いよりは、ましだ。
そこへ再び来客を告げるノックが。
エメロードから目配せを受けたイリアがすかさず取り次ぐ。
現れたのは、正真正銘エメロードを面倒な事に巻き込んだ人。
アルコバレーノ・マリン・グラナート、グラナート国王その人である。
実はエメロード、国王とは面識がある。
小さい時はよくいろいろな話を聞かせてくれた。
為になる話も、子供ながらにそんなことまで話して良いのか?と思う話も。
「久しいな、エメロード」
その言葉に、淑女の手本の様にエメロードはお辞儀をした。
「国王陛下におかれましても、ご健勝のようで何よりでございます」
「あー…今日は、堅苦しい挨拶は抜きにしよう。前みたいに呼んではくれぬか?エメロード」
「わかりました。アルコ小父様」
そう言い、二人でフフッと笑った。
(小さい頃に戻ったみたい…。もう間違っても外で『アルコ小父様』なんて呼べないもの)
そう思った所で、未だに来客に席を勧めずもせず、立ち話をしていたことを思い出した。
アルコバレーノに席を勧め、イリアにお茶を淹れる指示を出すと、自分もアルコバレーノの向かいに腰を下ろした。
「さて、今回エメロードに送った手紙の事だが…その…ノレッジの反応はどうだった?」
「……お父様のことですか?手紙には、大変驚いていました。ただそれだけで、私がここに来ることに関しては何も」
そう、何も言わなかったのだ。
心配していたことも、私が王太子殿下に無理やり結婚を迫られたら……と言った事だ。
こちらで危険があるかもしれないから…とかでは決してない。
「そうか。ノレッジの事だ、エメロードに何かあったら私の暗殺でもと思っているのだろう?暗殺については困るが、まぁ何も起こらないので問題はない」
「あの…それは…」
……問題あると思う。
私について何かあった時の対処法は分かっているようだし、仕方がないと思っていてくれるなら、エメロードが途中で放り投げても良いのだろうか?と疑問に思ってしまう。
(そういう事なら私は喜んで帰りたいのだけれど…)
「と、まぁそれについては置いておいて、本題に入ろう。エメロードにわざわざ来て貰ったのは、手紙でも書いてあった通り『王太子の教育係』をして欲しい」
「それについてなのですが、小父様。王太子殿下に私が教育と言ったことを、出来る事がないと思うのですが?」
「うむ、それについてなのだがな、なんと言うか…スフェールは世を知らないのだ。あれは王妃が早くに亡くなったばかりか、唯一の王太子としてチヤホヤされてきた。だが本人にも周りが持ち上げている事も分かってはいたから、次期国王として恥ずかしくないように…と努力をしていたことも私は知っている。ただ…その…」
「その…なんですか?」
なんとも歯切れが悪い、アルコバレーノに続きを促すが、何度も言いかけては、口を閉ざす事を数回繰り返しやっと話すことを決心したらしい。
「あまり家庭内が上手くいっていないのだ。いや…あまりではないな、全くだ。私も国王としての立場があり、忙しい毎日を過ごしておったし、決してスフェールを蔑ろにしていたわけではないのだ。それでも王妃の代わりに…とまでは見てやってはおらなんだ。なので…その、スフェールは遅い反抗期に入ってしまったようなんだ」