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そこまでするか?

 

 エメロードは今日も鼻歌まじりで、王太子宮の廊下を闊歩する。

 それに続くのは、イリアだ。


 数日前の、エメロード曰く『我儘な子供には、お灸をすえなきゃね』事件から、エメロードとイリアは王太子宮では言わずもがな浮いた存在だった。

 だが、エメロードはそんなことを意にも感じていなかった。

 “寧ろ邪魔が入らないのなら好都合”と思っている。

 そして今日も朝から、スフェールをいびりに行くのだ。


 勿論、スケジュール全て押さえてある。

 何処にスフェールが行っても、エメロードは現れた。


 スフェールからしても、エメロードは段々と恐怖の対象になってきている。

 何故ならば、急に予定を変更しても、その先々に現れる。

 最初はカイユーが、共謀しているかと疑っていたが、それもない。

 なのに何処からか情報を聞きつけてやって来る。

 これはもうストーカーの域だ。

 これを恐怖としない者はいないだろう。



 さて、今日のエメロードの最初の行先は、王太子宮の中庭だ。

 スフェールは数日に一度は、朝から鍛錬と称して体を動かしている。

 朝と言っても早朝、日が昇ってきて幾ばくも無い時に、エメロードは現れた。


「まぁ、殿下。おはようございます。今日も晴れ晴れとした良い天気になりそうですわね。殿下は朝の鍛錬ですか?確かに日頃から部屋に籠ってばかりでは、体が訛ってしまいますものね。とても良い心がけですわ。ただ・・・先程からジズマン様との打ち合いを見させて頂いておりましたが・・・型に嵌り過ぎてはいませんか?殿下では実践に出られても、新兵の足を引っ張りそうですわね」


 この言葉にスフェールは、最初の辺りの言葉ではちょと気分を良くしていた。

 ここ数日顔を合わせるエメロードには、最初から貶されてばかりだったのだ。

 だが、その続きの言葉では、気分が落ち込に最後には怒りに変わる・・・。

 これぞ正に、上げて落とす。


「・・・其方は今日も朝から絶好調のようだな。何もこんな早朝から私に嫌味を言うために、朝早くから起きたのだろう。ご苦労な事だ」


「お褒めに預かり光栄ですわ、殿下」


「誰も褒めてはいない!」


「其方と話していると、気分が悪くなるだけだ!カイユー行くぞ」


 そう言い放つとスフェールは、カイユーを置いて歩いて行ってしまった。

 残されたカイユーと言うと


「おはようございます、エメロード嬢・・・今日もご苦労様です」


「カイユー様、おはようございます。カイユー様もご苦労様です。ところで・・・先程、殿下にご注意したことですが、カイユー様にも言える事ですわ。もう少し、実践向きの訓練をされた方がよろしいのでは?」


「えぇ、そうなのでしょうが・・・殿下は、王太子ですよ?前線に出ることはまずありません。身を守れる最低限で問題ないのでは?それに、エメロード嬢が言われるほど、殿下も弱くはありませんよ」


「そうですか・・・わかりました。カイユー様が言われるなら、これ以上何も言いませんわ。ただし、これからも殿下の欠点に付いては、進言させて頂きますね」


 そうエメロードはにっこりと良い笑顔で、カイユーに言い放った。

 実はエメロードもこの状況を楽しんでいる。

 何せ普段は絶対に、この様な言葉を言える立場のない人に、堂々と嫌味を言えるのだ。

 楽しいと思える以外ほかないだろう。

 スフェールと、カイユーには全く楽しい要素はないのだが・・・。



 *  *  *



 一方、スフェールは朝から見たくもない顔を見て、憤慨していた。

 朝、何時もより目が早く覚めたスフェールは、「今日は天気も良さそうだし、体を動かしては如何でしょうか?」と言う、女官長の言葉でカイユーを伴い、朝の鍛錬に出たところだった。

 勿論、エメロードはこんな早くに行動していないと思い、ここ数日の鬱憤を晴らすつもりでもあった。

 それがどういうわけか、現れたエメロード。


(今朝、起きて直ぐに決めたことだぞ?!それでなくとも女の支度は時間がかかると聞く。なのに何故こうも私の行く先々に現れるのだ!?明らかに何かが可笑しい・・・)


 そう心の内で思うのに、スフェールには心当たりがない。

 これはもう、予知と言ったものなのか?とも思い始めている。

 実際は、エメロードの優秀な影とイリアと言うメイドのなせる業なのだが・・・・。


 だが、スフェールも何だかんだと言いながらも、ここ数日は怒りと共にちょっとだけ気分が晴れていることも自覚している。

 怒りの方が八割を占めてはいるが・・・。


 何せ、今までは居なかったのだ。

 スフェールに面と向かって、嫌味を言う者など。

 しかもそれが、女性と来れば尚更だ。


 今までスフェールに寄って来る女性と言えば、自分を美しく着飾り、媚を売ってくる。

 そして水面下では、女同士の足の引っ張り合い・・・そんな者達しか見てこなかった。

 確かに、スフェールの目に留まれば次代の王妃、国母となる。

 それなりの地位と、それに伴った教養が必要とされる。


 それにしても・・・と、スフェールは思っていた。

 あのギラギラとした、獲物を見る目で迫って来られると、興味を引くよりも恐怖を植え付ける方が早いだろう。

 それに比べて、エメロードはそう言った目をしていない。

 ただ、そこに安心はするものの、あの口の悪さはいただけないのだが・・・。


 それに対してスフェールも、今まで態度に出したこともない怒りや、怒鳴り声等を発しているので、心ばかりかは、鬱憤を晴らせているのだが・・・。

 それが分かってもいるので、ほんのちょっと・・・本当にちょっとだけ、エメロードに会うのが楽しみになっている。

 決して、マゾになったつもりはない。決して。


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