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正々堂々

 

 パタン、と扉が閉まる。

 カイユーとの話し合いは十分だった。

 協力も取り付けれたし、王太子殿下スフェールの行動もよく分かった。


(それにしても・・・カイユー様はよく、あんなに覚えていらしたわね)


 そうエメロードが思うのも仕方がない。

 何故なら、カイユーはスフェールが何時、何をしたか、何時、何を頼んだのかを記憶していたのだ。

 しかも遡る事、半月。

 しかも恐ろしいことに、一日のスケジュール全てを加えてだ。

 すごい記憶力!とエメロードが疑問に思うのも無理はない。


(でも、よくよく考えたらお父様やお兄様は、半年前までの献立なら簡単に言えたわね。領の税収等は少なくとも五年は記憶しているのだから、カイユー様は普通なのね。私も興味のあるものは、見たら忘れないし)


 エメロードは自分が・・・基、家族全員が他者とかけ離れている事には、なかなか気が付かない。

 ちょっと感覚がズレているのかもしれない・・・。


「ジズマン様と無事に協力関係が築けたのは良いですが、今後の予定はどうしますか?ジズマン様のお話では王太子殿下は未だに、お嬢様の存在は知らないそうですし」


「そうね、まぁ昨日の今日で・・・と思わないし、まだ知らないの?!とも思うわね。どちらにせよ、自分のテリトリーだからと気を抜かずに、もう少し危機感を持って欲しいわね」


「まぁ確かにそうですね。王宮なんて目の届かない場所?本当にあるの?って所ですからね。今の状態を見られて一番困るのは王太子殿下ですものね」


 昨日の一件から、スフェールに対しての心証が頗る悪い。

 あの状態の『王太子殿下』を見たら誰もが、気分を害されるだろう。

 自分からは近づきたくはない。


 今後について考えるエメロードだが、取り敢えずは


「昼食にしましょう。午前中いっぱいをカイユー様と話してしてしまったし・・・。それにしても・・・カイユー様はあんなに長く席を離れていて、大丈夫だったのかしら?」


「そう言えばそうですね・・・なんならアーベントに確認してもらいますか?」


「・・・そこまでは必要ないわ。ご本人でどうにか出来ないのであれば、今後、協力してもらうと言っても、『話を聞く』程度になってしまうし」


「それもそうですね」


「それよりも、王太子殿下には午後のお茶の時間に会いに行こうと思うの」


「お茶の時間ですか?」


「そう!だからその時に、その場所に居たいわ」


「・・・・わかりました」


 そう言いつつも、どこか納得のいかない顔で、イリアは昼食の準備に向かった。




 *  *  *




 エメロードの前には一つの扉が。

 そっと開けると王太子スフェールの声が聞こえる。


「なんだ?この菓子は?甘過ぎるぞ!それに、このお茶はなんだ?渋すぎる!」


 今日は菓子が甘くて騒いでいる。

 予想するに、菓子が甘いためお茶は渋めの物になっているのだろう。

 両方を口にしているのだから、分かっているはずだ。


「まぁまぁ、殿下。お気に召さなかったのなら、新しい物を用意しましょう。ご要望はありますか?」


 カイユーが宥めながら、新たな要望を聞く。

 ふと、スフェールの後方を見やった。

 それに気づいたスフェールも、後ろを・・・。


「ご機嫌麗しく、スフェール殿下。せっかく淹れてくださったお茶に、料理人が腕によりをかけて作ってくれたお菓子。そんなに、文句を言わなくてもよくはないですか?」


 そう言いつつ入室したエメロードは、先程スフェールが渋いと文句を言ったお茶のカップを取り、スフェールの頭上から注ぎ落した。

 次にあっけにとられたスフェールの口に、菓子を突っ込む。

 見事としか言いようのない、流れるような動作。

 その場に居る誰もが、今の状況を呑み込めてない。

 王太子殿下にお茶をかけ、菓子を突っ込んだエメロードとイリア以外は。


「・・・・!!!なんだ!!貴様!!!!」


 誰よりも早くに復活したのは、当事者であるスフェールだった。


「ご挨拶が遅れました、スフェール殿下。私、エメロード・クリスタリザシオンと申します」


 そう言って、湖の国の王太子、スフェール・エグ・マリン・グラナートにお茶をかけ、口に菓子を突っ込んだ令嬢は綺麗に微笑んだ。


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