第61話 変革への交渉
翌日、ゴンゾは朝からいつも通りの仕事をこなしていた。
特に変わったところは見られない。
これは駄目だったかな?、と思ったのだけど確認のため昨日と同じように夜1人なるところを見計らってオムと声を掛けた。
「こんばんは。昨日の返事を貰えるかな?」
「ああ、あんた達か。そろそろ来る頃だと思ったよ。1つだけ条件がある。」
「何だい?」
「一緒に行くのは俺だけじゃない。俺と、家族と、俺を慕って頼っている奴隷仲間も一緒だ。だが、俺たちはどうやって自分たちで飯の種を稼いだらいいのかも分からない。それでも置いていくわけにはいかない。あんた達にこの状況が何とかできるか?」
「全部で何人になりそうなんだい?」
「そうさな、全員が一緒に来てくれるかは分からんが、ざっと100人は下らんだろう。それに加えて子供らも入れたら150人にはなるだろうな。」
「子供達?子供部屋の子達も連れて行くというの?」
思わず私が口をはさむ。
「ああ、見放す訳にはいかんだろう。」
「ふむ・・・これは思ったより大事になりそうだな。」
オムが腕を組んで考え込み出した。
「だが、予定が早まったと考えればそれでいいか。ゴンゾ、今から私達を集落に連れて行ってくれないか。そこでじっくりと今後の予定を話したい。」
「ああ、いいだろう。こんなことは勢いだけでやったって絶対俺らが皆殺しになって、他から奴隷を移してきてまた元通りになるだけだ。」
そう言って歩き出したゴンゾに私達もついていく。
最初にオムに聞いていた作戦では、ここでゴンゾ、他の町でも何人か次期王候補を引き抜いて一緒に旅をして結束を深める一方で現体制に不満を募らせて反乱軍を組織する予定だったんだけど、ゴンゾの言う大所帯だと流石に旅は辛いものがある。
無言で歩くオムは何か考えがあるんだろうけど、私には分からない。
集落に着くと、ゴンゾの家族の住む部屋へと通された。
周囲からは訝しむ視線が投げられたが、ゴンゾが纏め役として信頼されているからなのか、特に何かされることはなかった。
通された部屋にはゴンゾの奥さんと思われる女性と子供達なのだろう若い男が1人と女の子が2人、3人とも私よりは年上っぽいな。
纏め役の個室と言っても特別なものは何もなく、私達は床に丸くなって座った。
場を仕切るのはゴンゾだ。
「さて、お前たちに昨日聞かせた話を持ち込んだ2人を連れてきた。オムとミコトだ。こっちは妻のイライザ、長男のゴンズ、長女のテラと次女のヒナだ。」
「ご紹介に預かりましたオムと言います。リーダーはミコトですが、お話は私の方でさせてもらいます。」
「なんだ、この子がリーダーだったのか?」
「ええ、じゃあ自己紹介がてらにその辺のいきさつと我々が何を目指しているのかをお話ししましょう。」
「頼む。俺からも話したんだが、いかんせん自分自身が消化しきれてないからうまく伝えられなかったかもしれんからな。」
「ええ、勿論です。人生を賭ける選択を迫るのに説明が足りなくては話になりませんからね。」
そう言ってオムが全員に目を順番に合わせていくと、それぞれ神妙な面持ち頷いた。
ことの大事さだけは間違いなく伝わっているんだろう。
そんな中、オムが変わらぬ明るい口調で話し始める。
「改めまして、私の名はオム。元は王都で研究員をしていました。歴史、人の営み、魔物に植物など研究したいテーマは枚挙に暇がなく、ただ知ることだけが私の喜びでした。しかし、私は知り過ぎてしまったのです。と言っても難しいことを知ったというよりも権力者の恥ずかしい秘密やら不正の秘密を知っただけですけどね。
それで、秘密の露見を恐れた人に嵌められて地下牢に幽閉されておりました。そこを助けてくれたのがミコトって訳です。」
長男のゴンズが身を乗り出してきた。
「地下牢からどうやって助け出したんだ?」
「そこは私から話すわ。私はミコト、元は穀物生産の町、サラヘの奴隷だったわ。奴隷が嫌になって死んだことにして逃げ出して、フリーランスとしてエランの町で仕事をしていたの。そしたら王族から依頼が来て、うまく達成はしたんだけど、その過程で王子を廃人にしちゃったのが気に入らなかったみたいで牢屋に入れられたわ。捕らえられるときに私の大切な友達を殺されたショックで隙を作ってしまったの。
それで牢屋に入れられたんだけど、気が付いて腹が立ったから抜け出して出口を探していたらオムに出会ったってわけ。本当はこっそりとオムとも抜け出したかったけど、実際には兵士を1人を除いて皆殺しにして逃げ出したわ。方法はまだ秘密ね。」
「み、皆殺し・・・」
「ええ、その力にすっかり惚れ込んだ私がこうして押しかけて一緒に行動させてもらっていると言う訳です。ミコトの力はあまりにも強力ですが、詳細は今は伏せさせて下さい。ただ、私の見立てでは1人で充分王都を制圧できるくらいの力を持っているとだけ申しておきましょう。」
「う~ん、それはちょっと信じられないね。こんな小っちゃな女の子じゃないか。」
「まあ、どうしても信じられなければ何かの形で力をお見せしましょう。ですが、今はもう少し話を続けましょう。
長きに渡る獄中生活で飢えと渇きに参っていた私をミコトは救ってくれました。ミコト、その巾着から何か食べ物と飲み物をお出しして。少し長くなりそうだよ。」
確かに、何もないまましゃべり続けるのは喉が渇くし、小腹も空くだろうから、私は水の入った壺と果物をいくつか輪の真ん中に置いた。そしてコップと柄杓を出して水を注いで渡してあげる。
皆目が真ん丸になっていた。
「ふふ、驚いたでしょう。これも彼女の力の一端です。さて、喉も潤ったところで続きを話しましょう。」
それからオムは同じ要領で牢で助けられたこと。
その後の圧倒的な武力について興奮気味に語った。
私自身オムの視点での語りを聞くのは初めてだったのでかなり恥ずかしかったけどね。
「さて、ここからが本題です。ミコトの目標は奴隷制の撤廃と王権の打倒。しかし、ミコトは見ての通りの少女で、圧倒的な力は持ちますが、現在安定して運営されている国家を奴隷制廃止という大改革を行った上で平和且つ豊かに治めていく自信はない。そこで出番なのがゴンゾさんです。」
「親父がどうだってんだ?」
「ゴンゾさんは類まれなる義侠心とリーダシップをお持ちのお方だ。奴隷制にも強い憤りを持っておられる。」
「当たり前だ!俺達誰もがこれ以上奴隷の扱いを受けたいなんて思っていない!だからこそ苦労してここまで築き上げてきたんだ!」
これまで静かにしていたゴンゾだけど、話がここに及んで語気を荒げてきた。
「そうでしょうとも。我々としてはその恩恵を大陸全土の奴隷にまで広げて欲しいと思っています。あなたに王になってもらってね。」
「もちろん、その話は受けるつもりだ。だが、家族と仲間の安全が最優先だ。俺が革命者になる以上絶対に王国は潰しにかかる。その時に守るべきものが真っ先に犠牲になったら何のために革命を起こすのか分からなくなるからな。」
「もちろん、それはその通りでしょう。ですが、このまま何もしなくてもゴンゾさんのご家族はそのうち酷い目に遭うと思いますよ。」
「何?どういうことだ?」
「ゴンゾさん一家の特別扱いは一代限りってことですよ。息子さんが跡を継ぐにしても、その家族までしか特別扱いはされません。娘さんたちは普通に奴隷部屋に戻ることになります。さて、そこでどうなるでしょうか?
答えは簡単です。これまでの特別扱いを妬んだ奴隷女性からも嫌がらせを受けるでしょうし、町の人からも普通の奴隷以上にきつい扱いを受けるでしょう。」
「な、そんなばかな?」
「当然です。支配者側は特別扱いで支配を逃れる人間を増やす訳にはいかないんです。そうしないとどんどん奴隷が増長してしまうのを恐れているのです。」
「じゃあ、どうすれば?」
「なので、簡単です。あなたが支配者側に回ることです。ですが、それだけのことをやる以上は危険はつきものです。もちろん、圧倒的な武力を誇るミコトがいるので勝利は揺るぎません。しかし、単に彼女の力だけで相手を倒しても、その上にゴンゾさんが立つのを誰が認めてくれるでしょうか?誰がゴンゾさんの改革に耳を貸してくれるでしょうか?」
「そ、それは・・・・」
「ゴンゾさんが今の地位を築くためには自ら血と汗を流して頑張ったのを見た奴隷仲間が納得しているからです。ゴンゾさん自身が苦労して自分たちが不当な扱いを受けないように頑張ってくれている姿を見ているから特別扱いを受け入れているのです。
奴隷仲間でもこうですから、町の人にとって突然元奴隷のゴンゾさんが上に立つには自分の力で打倒したという事実が重要です。
ですので、もちろん最善は尽くしますが、絶対に安全と言うのは保証できません。それでも立ち上がるというのでなければ、このお話はなかったことにして下さい。」
「むぅ・・・・」
ゴンゾさんは黙ってしまった。
「あなた、この話お受けして下さい。」
すると、そこまでずっと黙っていたイライザさんが突然口を開いた。
「イライザ、お前?」
「オムさんの言う通りです。このままでは私達に明るい未来はありません。今はあなたのお陰で私も子供達も普通の奴隷以上の暮らしはさせてもらっています。そのことには本当に感謝してもし切れません。
ですが、そのすぐ横では同胞の子達が性奴隷に連れていかれたり、妊娠させられて帰ってきたりと、私達の若い頃と何一つ変わりません。」
「分かっている。だからこそお前たちだけでもと!」
「それでは駄目なんです。このままでは私や子供達の心が折れてしまいます。」
「どういうことだ?」
「今までは私達のために頑張ってくれているあなたに申し訳ないから言わずに参りましたが、私達は日々苦役に苦しむ奴隷仲間に対して申し訳ない気持ちで一杯なのです。あなたへの感謝と、仲間への罪悪感に挟まれて苦しくて仕方ありません。増して、子供達がこのまま苦役を味わわずに大人になっては奴隷仲間に受け入れられるはずもありません。」
「むぅ・・・・」
「ですので、お願いです。私達のことは気にせず立ち上がって下さい。私達も今まで沢山楽をさせて頂いた分、戦います!」
「そうだ、親父!俺だって戦うぜ!」
「「私だって」」
「お、お前たちまで・・・じゃあ一体俺が今まで頑張ってきたことは何だったんだ・・・」
「無駄ではありません!あなたがこうして良い暮らしを味わわせてくれたから、それを守るため、広げるために戦う気になったのです。もちろん、他の仲間だってあなたが見せてくれた良い生活を勝ち取るための努力を見ています。皆を極力守ろうとしてくれていることも。だから、皆感謝しているし、自分たちでも勝ち取りたいって思ってる。だから一緒に戦って下さい!」
イライザさんが溜め込んできた思いを一気に破裂させるような勢いで捲し立てる。
子供達も目の色が変わっているし、ゴンゾもさっきまでの迷いが見られない。
「お前たちの気持ちは分かった!俺はもう迷わない。おめえらも聞いていただろう?」
そう言ってゴンゾは立ち上がって部屋のドアを開けると、そこには大勢の奴隷達が気まずそうに立っていた。
「ふん、薄っすい壁の部屋じゃあ筒抜けだわな。お前らはどうする?俺はやる!戦って自由と平等を手に入れるぞ!」
「おお!その言葉待っていたぞ!俺らだっていつまでもこんな生活を送りたくないし、子供達にさせる訳にはいかねぇ!」
「「おお!」」
熱が伝播して部屋中に熱気が渦巻く。
ゴンゾに皆命を預けるという。
何という信頼感だろう。
この熱量に私も胸が熱くなる。
オムを見ると、私と目が合い、微笑みながらしっかりと頷いた。
ここから私の復讐と奴隷解放の戦いが始まる。




