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第5話 下山と理不尽な現実

 山から降りると、私達は荷物と戦利品の分配を始めた。


 「先生、こんなにお肉もらっちゃっていいいの?殆ど先生が1人で仕留めたんじゃない?」


 「ああ、構わないよ。山では一蓮托生。生きて帰れたら平等に分けるのが決まりだ。ミコトだって頑張って小鳥やリスを狩れるようになっていたじゃないか。」


 そう、私はあれから必死で弓を練習して、元々の素質もあったのか無事に小動物なら狩れるようになっていたのである。


 力が弱いので狸や狐以上の大きさだと仕留められないが、その命中精度にはロッソ先生も目を見張るものがあったのか、凄く褒めてくれた。


 「そうですけど、何か先生に悪いわ。」


 「気にするな。それは集落のジジババに渡してくれたら仲間皆の口に入るようになるだろう。それに、もし悪いと思うなら、是非守護の役目について俺に楽をさせてくれよ、ガハハハッ!」


 ロッソ先生はそう豪快に言ってくれる。


 「はい!絶対に守護の役目に就きたいと思います!」


 「わ、私は美味しい野菜を作ってお届けしますね。」


 ユイちゃんはやっぱり守護の役目は向かないと思ったらしい。


 後は集落まで戻れば久しぶりに人里で安心して眠れると足取りも軽く、私はユイちゃんと手を繋いで集落への道を歩いていた。


 とても充実した気分だった。


 山での生活は最高だった。


 頼りになる大人に指導されてメキメキと上達した弓。


 自分で狩って自分で捌いて自分で火を熾して焼いたリスの肉は達成感と相まって今までで一番美味しかった。


 初めて川で魚を捕まえて食べたのも美味しかったし、山の恵である野草や木の実なんかもあって最高だった。


 何より、狩りをしているときは余計なことを考えないのがいい。


 集中して獲物と相対していると、奴隷の身分も何も忘れてしまう。


 私は絶対に守護の役目に就いて山で生きるんだって硬く決心した。


 すると、道の反対側から今度は街へ戻るのであろう兵士達が5人連れ立って談笑しながら歩いてきた。


 ここで目を合わせたり目立ってしまうと何をされるか分からないと言いつけられているので、2人で道の端に寄って頭を下げて兵士たちが通り過ぎるのを待った。


 「いやいや、なかなか具合良かったよな。」


 「お前激し過ぎだって、ギャハハハ!」


 何の話かは分からなかったが、兵士達は楽しそうに笑いながら去って行くかと思った。


 しかし、私達奴隷少女が生きる世界はそんなに優しくはなかった。


 「おい、こいつらすげえ荷物担いでるじゃん。肉だよ肉。守護の役目の帰りか?」


 「お~本当だな、つるペタのチビガキには勿体ねぇ。俺たちに寄こしな。」


 何てことだ、せっかく先生と私で仕留めた獲物を寄こせと言ってきた。


 「はい!こちらです。どうぞ!」


 ユイちゃんは躊躇わずに渡している。


 知っている。


 奴隷としてはユイちゃんが正しいことを。


 でも、どうしても納得がいかなかった私は私は黙って下を向いてやり過ごそうとした。


 「おいおい、寝てんのか?まあいい、寝てるなら黙って頂戴するまでだ。」


 ああ、初めての獲物なのに・・・・思わず奪われないように袋を握る力に手が入る。


 すると、兵士のテンションが変わった。


 「てめえ、俺たちに逆らうのか?逆らったらどうなるか分かってるんだろうな?お前らは俺らの奴隷なんだよ。お前らのものは俺らのもんだ。その肉も、お前らの命も、お前らの穴っぽこもなぁ!」


 「ギャハハハ、穴っぽこは余計だろ?さっきの女なら兎も角、こんなつるペタのチビガキなんぞ入れられやしねぇぜ!」


 ああ、こいつらはきっとこの道の先で私達の仲間の奴隷の女の子を弄んだ帰りなんだと瞬間的に理解した。


 きっと年上のお姉さんの誰かを。


 5人がかりで、きっと力ずくで。


 そして私達からも奪うんだ。


 ヘトヘトになるまで山を回って狩ってきた獲物を。


 涙が止められない。


 でも、またユイちゃんを巻き込む訳にはいかない。


 だから凄く嫌だけど肉の入った袋を差し出した。


 顔は下を向けたままだった。


 だって顔を上げたら怒りのあまり暴れてしまいそうだから。


 ユイちゃんが私の代わりに必死に謝ってくれているみたいだけど、耳に入ってこない。


 「ケッ!分かりゃいんだよ。俺らが機嫌が良くて良かったな。お前らなんか殺そうが奪おうが自由なんだからよ。」


 「おいおい、あんまり殺すと労働力が足りなくなって領主様に怒られるぞ。」


 「ケッ!知ったことか。どうせドンドン産まれるんだ。牛や豚と変わんねぇよ!」


 「分かった分かった。まあいい、さっさとこいつを肴に一杯やろうじゃないか。こんな田舎町じゃあせいぜい飲んで食ってヤッてないと退屈して死んじまうからな。」


 結局通り過ぎるまで私は一言も発せず、ひたすら下を向いていた。


 ユイちゃんが話しかけてくるけど、何を言っているのか分からない。


 どうやって帰ったのかも覚えていないけど、気付いたらもう朝で、いつもの大人部屋で寝ていた。


 そして、朝食の時に病人部屋に新たに女の子が入ったという話を聞いた。


 大人部屋で色々教えてくれた仲の良いお姉さんだった。


 私は絶対あの兵士達を許せそうにない。


 体の奥底にまた何かぐつぐつと煮えたぎるようなドロドロしたものの存在を感じた。

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