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第2話 守護の役目の研修

 翌日からまた同じような日々が繰り返された。


 朝から働き、川で水浴びをして夜を大人部屋で過ごす。


 幸い、鞭で叩かれることは殆どなかった。


 それもそのはずで、結局あまり鞭で叩くと生産性が落ちるので、初日は洗礼ということでほぼ全員が叩かれているが、余程のことがない限り市民も奴隷をむやみに叩いたりはしないらしい。


 もちろん、例外はいつだっているが、私は真面目に働いていたので何とか鞭を免れていた。


 夜に初日に説明してくれた男は中々優しく、先輩大人女性も巻き込んで色々教えてくれるので子作り行為に対する嫌悪感は薄まっていった。


 とはいえ、まだ参加する勇気が湧いてこないので休憩スペースで教えてもらったり話を聞くだけだったが。


 休憩中の先輩大人女性に色々テクニックを教えてもらったり、気持ち良い体験談を聞くのは結構楽しかった。


 ただ、初体験の時の痛い話を聞いたときは血の気が引いた。


 相手にはなるべく小さい人を選ぼうと心に誓った。


         ・

         ・

         ・



 忙しい農作業の日々を繰り返し、収穫の日を迎えると山のように積まれた食べ物には心が浮かれた。


 しかし、その殆どを持って行かれた時には心が沈み、また私の中に疑問が生まれた。


 「なんで?なんで威張り散らしているだけの人が実際に育てた私達より沢山持って行くの?」


 ミコトの心は幼少の教育を経ても折れていなかった。


 純粋な子供の目で見たことに対して純粋な疑問を浮かべる。


 それを口にしないだけの知性があったことがミコトにとっては幸いだった。


 そうでなければ、とうの昔に心が壊れるまで鞭で打たれていただろう。


 だが、沸々と心の中に溜め込んだ疑問は、徐々に変質していくことになる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 適性を見定めるために新成人はグループに分かれて色々な仕事を体験していくのだが、草むしり・剪定・収穫・穀物の脱穀・乾燥などの加工・家畜の世話と回っていったミコトとユイのグループの次の仕事は守護だった。


 農業専業都市と言っても、盗賊や魔獣から町を守り、犯罪などから治安を守るための兵士も常駐している。


 作物を荒らし、人を襲う野生の動物が出てきて奴隷達や市民を困らせることがあっても、「自分たちの仕事ではない」と兵士たちは見向きもしてくれない。


 むしろ、奴隷の女を襲って辱めたりするなど、無頼漢と変わらない上に軍として警察権も持っている張本人であるから非常に(たち)が悪い。


 治安を守ると言いつつも、それは貴族を主とした市民以上を守るということであって、奴隷は対象外だ。


 むしろ、奴隷が反乱を起こさないように居るというのが本音なんだろう。


 なので、野生動物から畑と仲間の命を守るのは奴隷にとって大事な仕事なのだそうだ。


 小ぶりの弓矢と山刀を装備して馬に乗った守護人について役目について教えてもらう。


 私の守護の役目研修の先生役についてくれたのは、いかついオジサンだった。


 目つきが鋭く、腕の太さが目立つ。


 大人部屋でも中々これほどの体格の立派な人は少ないよな~なんて思っていると、新成人集合の号令がかかったので従った。


 「いいか、守護の役目は一番危険な仕事だ。兎や鹿は怖くはないが、素早いので逃げられると厄介だ。何より猪や熊はデカいし強い。猿は早くて爪や牙が鋭い。一撃でこちらを殺してしまうだけの力を持っている。だがしかし、何より恐ろしいのは魔物と盗賊だ。」


 そう言って真剣な顔で見られると怖い。


 何とも言えない凄みがある。


 「俺たちが使える武器は弓矢と山刀とナイフだけだ。これでは盗賊や魔物とは戦えない。従って、それらを発見した時の仕事は戦闘ではなく兵士への報告だ。彼らがそれらの脅威からは守ってくれる。我々の仕事はあくまでも動物から作物を守ることと、盗賊と魔物に対する偵察だ。分かったな。」


 そう言って凄んだ後、オジサンは突然表情を崩した。


 「だがな、この役目にしかない旨味というのも確かにある。何か分かるか?」


 見当もつかないので私は皆と一緒にキョトンと見つめるしかできない。


 「それはな、肉が沢山食えることだ!仕留めた獲物は我々守護の役目の者で捌いて食うことが許されている。勿論食い切れない分は世話役のジジババに渡して皆の飯になるが、腹一杯肉を食えるのは俺たちだけだ。」


 「凄い!お肉を沢山食べられるんだって!」


 ユイちゃんが目をキラキラさせながらこちらを見てくる。


 私だって興奮する。


 お肉なんて配給のスープに干し肉が少しばかり入ればいい方で、それでも貴重だ。


 もちろん、牛や豚や鳥を育ててはいるけど、そういった家畜のお肉は基本的には私達奴隷の口には入らない。


 殆どが貴族、そして大商人が食べられればいい方だ。


 市民は通常野生の動物を狩って食べる。


 そして、奴隷はせいぜい狩った動物の腐りやすい内臓や干し肉を作ったときに出た端切れの肉がスープにたまに入る位だ。


 「勿論、お前達も見習いとはいえ守護の仲間だ。獲物が取れたらきっちりと山分けで腹一杯食わせてやる。特に女の子はこの機会にしっかりと食べておけよ!」


 「はい、何で女の子は特別なんですか?」


 思わず手を挙げて質問してしまった。


 一瞬鞭で打たれるかと思ってビクッとしたが、そんなことはなかった。


 「この役目には強さがいるからな、女の子でこの役目につけるのは中々いないんだ。弓に才能があるとかなら別だが、そんな子は何年かに1人か2人出る位だ。」


 「そうなんですね。私お肉一杯食べたいから守護の役目に就きたいです。」


 「ハハハハハ!面白い!嬢ちゃんに務まるかは俺が見届けてやろう。夜勤も山の巡回もあるから音を上げるなよ!さあ、1ヶ月しっかりと働くんだ。」


 おお!っと他の役目にはないご褒美をぶら下げられた私達は大いに沸き立った。


 その後、大人1人に子供2人の班に分かれて広大な畑の見回り組(早番と遅番)・山の見回り組のそれぞれの3組に分かれて遅番は夜に備えて休み、昼番は早速仕事にかかった。


 基本的には各役目を1週間交代で回していくらしい。


 私の最初の役目は山の見回り組だ。山には獣も魔獣も多く生息し、腹が減ると実りある畑やそこで働く人間を求めて降りてくるらしい。


 なので、事前に狩るのが主な仕事ってことだと教えられた。


 約1週間山に籠ってぐるりと回り、危険な魔物や獣を見つけては駆除していくという役目の中でも最も大変なものらしい。


 子供用の弓矢と小さなナイフと山刀を装備すると、何だか強くなった気がしてウキウキした。


 山に入る時には畑仕事と違って監視の市民や貴族がいないから奴隷同志気が楽だし、鞭で打たれる心配がないだけでも一番良い役目なんじゃないかと思う。


 音を出さないように静かに歩く歩き方を教わったけど、全然できない。


 先生って凄い。おっきいのに歩いていて殆ど音がしない。


 他にも獣道や木についた爪の後などの痕跡を頼りに獲物を探していくやり方を教えてくれる。


 正直、殆ど分からないところもあるけど、新しい知識にワクワクする。


 「ユイちゃん、面白いね。私今までで一番守護の役目が楽しいわ。」


 私は一緒に守護の役目の組になったユイちゃんに小さな声で話しかけた。


 ユイちゃんは茶色の毛と瞳が特徴的な子供部屋時代からの私の友達だ。


 「そ、そう・・・ミコトちゃんは凄いね。私は山の中が怖くて仕方ないわ・・・」


 「え~ユイちゃんは守護の役目嫌なの?」


 「嫌って言う訳じゃないけど、私は畑で剪定とか収穫とかしていた方が楽しかったわ。」


 そう言えばユイちゃんって喧嘩とか嫌がる大人しい子だから、武器とか持ってても似合わないかも。


 私は畑の草取りとか虫取りとかよりも山の中が凄く楽しくて気持ち良かった。


 休憩の時間には先生が弓矢の使い方を教えてくれた。


 初めて矢を射ったときは凄くドキドキした。


 全然的には当たらなかったけど、ビュッて矢が飛んでいくのは凄く気持ち良かった。


 先生がバンバン的に当てていくのがカッコイイ。


 絶対私も守護の役目に就きたい!


 心の底からそう思った。

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