【55:広志に嫌味?それとも買い被り?】
見音の自宅でバーベキューパーティが始まりました。
高級食材が並んでるシーンの続きです
さっきから見音はなぜか『さすが空野君』とか言ってるけど、広志に嫌味で言ってるのか? それとも本当に買い被ってるんだろうか?
それにしてもなぜ三重県にこだわってるのかも謎だ。見音の出身地なのか?
「おいおい空野のヤツ。高級食材の産地までわかったみたいだぞ」
「スゲーな。もしかして空野って、見音様並みのお金持ちか?」
鈴木と佐藤がまたひそひそと話してる。
(いや、僕は何も答えてないし! 八坂さんが勝手に先回りして答えただけじゃないか)
広志が苦笑いを浮かべるのにも気づいてない様子で、見音はテーブルの方を指差した。
「じゃあ三人とも、そこの席にお掛けになって」
見音は自分も椅子に座り、鈴木と佐藤にも席に着くように促した。
見音を真ん中に、左右に鈴木と佐藤が座る。鈴木と佐藤は、なんとなく緊張したような面持ちだ。それと向かい合って、こちらも広志を真ん中に、左右に凛と伊田さんが腰掛けた。
テーブルの上には、既にお皿やナイフ、フォーク、お箸などが綺麗に並べられてる。バーベキューというより、ディナーをいただきに参りました、って感じだ。
これなら1,500円のコーヒーで手を打ってた方が、安上がりだったに違いない。
「あ、今日はお招きいただき、誠にありがとうございます」
高級食材と見音の上品な話し方につられて、広志もついついお上品な話し方になってしまう。
「いえ、どういたしまして。ゆっくり楽しんでいってくださいな」
見音はにっこりと笑った。だけど心からの笑顔というより、どこか取り繕ったようなよそ行きな感じに、広志は違和感を覚える。
「八坂さん、私達まで呼んでくれてありがとう」
「わーい、美味しそうなものばっかり! さすが八坂さんだ。凄いねぇ〜!」
凛と伊田さんはいつもどおりの感じで楽しそうにしてる。この二人は自然体というか、さすがだ。やっぱり自分の気持ちを素直に出してくれる人の方が、安心して接することができる。
(八坂さんも、時折見せる力を抜いた表情の方が可愛いのに)
「いえいえ、大したことないわ。私も涼海さんや伊田さんと仲良くなりたかったから、ちょうどいい機会だわ」
鈴木と佐藤は見音の横で、今のところ大人しくしてる。見音に言い聞かされたのだろうか。最後まで、大人しくしてくれてますようにと広志は祈る。
「じゃあそろそろ、バーベキューを始めましょうか」
「わーい、待ってましたっ! 私が焼こうか!?」
伊田さんが、ぴょんっと椅子から立ち上がって、見音に訊いた。
「あら、伊田さん。ちゃんと焼いてくれる人がいるから大丈夫よ」
(焼いてくれる人? もしかして鈴木と佐藤がこき使われるのか?)
そう思ってたら、見音は建物の方を振り返った。ちょうどその時に洋館の扉が開いて、黒いタキシードに身を包んだ一人の初老の紳士が現われた。
「紹介するわ。執事のセバスチャン」
セ、セバスチャン~!? 彫が深くてイケメンだけど、日本人ぽい顔をしてるから、まさか外国人だとは思わなかった。
「セバスチャンさんって、どこの国の人?」
「あら、日本人よ。本名は黒田 太助さんって言うの」
「なんで黒田 太助さんがセバスチャン?」
「だって執事といえばセバスチャンでしょ。だからそう呼ぶことにしたの。みんなもセバスチャンと呼んでね」
「はっ?」
(うーむ。八坂さんのセンスがよくわからない)
何はともあれ、豪勢な食材が山盛りの、見音宅のバーベキューパーティが開幕した。
「じゃあ乾杯をしましょう」
各自がペットボトルからグラスに、ウーロン茶やジュースを注ぎ終わったのを見て、見音が立ち上がった。グラスを片手に挨拶を始める。
「えっと、あの……きょ、今日は皆様お集まりいたたただき、まこっ、まこっ、誠にありがとうございます」
えらい噛み噛みだー!
見音って案外不器用なタイプなのかもと、広志は意外に思う。普段高飛車なのも、もしかしたら人とのコミュニケーションが苦手だからなのかもしれない。
「八坂さん。そんなにかしこまった挨拶しなくても大丈夫だよ」
凛が優しく見音に声をかける。チラッと凜を見て、見音は首を横に振った。
「あ、いや、大丈夫だから」
口では大丈夫と言ってるものの、とてもアセアセした顔をして、見音はもう一度仕切り直す。
「皆さま。きょ、今日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。皆さまにとって、良きことがたくさん起きますように祈念いたしまして、乾杯をいたします。それではカンパーイ!」
今度は上手く言えた。見音の発声に合わせて、全員でお互いにグラスをカチンと合わせる。
それにしてもオヤジの宴会みたいな挨拶だ。これが上流階級のやり方なのか?
「凄い立派な挨拶だねー! さすが八坂さん!」
「えっ? いや、これくらい朝飯前よ」
伊田さんの言葉にクールを装ってるけど、ヒクヒクと引きつりながらも笑顔を見せてるし、見音は満更でもなく喜んでるみたいだ。「おほほ」とか笑ってるし。
そして彼女はホッとした顔を見せて席に着くと、黒田さんに向かって言う。
「ではセバスチャン。焼いてくれるかしら」
(マジでセバスチャンで通してるよ。真顔で言ってるし)
セバスチャン……いや黒田さんは「かしこまりました、お嬢様」と答えて、手慣れた手つきで食材をバーベキューコンロの上に並べていく。広志達はその様子をつい熱心に見入ってた。
「ところで空野君」
急に見音に呼ばれて、広志は彼女のほうを振り向いた。
見音が広志の家庭事情を訊いてきた。きっと金持ちなんだろうと思ってるようだ。
「空野君のお父様はどんなお仕事?」です。
お楽しみに~っ!




