【44:二人揃って、もの凄く性格がいい】
八坂 見音達と別れ、広志と凜、伊田さんは帰路についた。その続きのシーンです
広志は凛と伊田さんと並んで校門を出て、駅までの通学路を歩きながら、二人に尋ねた。
「二人とも案外早かったね。部活の他の人たちは?」
「まだゆっくり帰ってくると思うよ。天美ちゃんが、空野君と一緒に帰れるかなぁなんて言うから、ちょっと急いで追いかけて来たんだ」
凛が「ねぇ〜っ」って言いながら、冷やかすような目で伊田さんの顔を覗き込んだ。伊田さんは顔を赤らめて、ちょっと焦ってる。
「えっ? ああ、そうだよー せっかく空野君が練習を見に来てくれたんだし、一緒に帰れたらいいなぁって思ったんだー」
「そっか、ごめんな。陸上部のみんなと帰るかと思って、先に帰ってきてしまったよ」
「でも追いつけたから良かったぁ〜」
いつも元気ハツラツな伊田さんだけど、ちょっとモジモジしてて可愛い。凛がにやにやしながら、横から伊田さんの脇腹を肘でツンツンつついてる。
自分を好きだと言ってくれる凛と伊田さんが、こんな風に仲良くしてるのってなんだか不思議だ。
きっと凛と伊田さんが、二人揃ってもの凄く性格がいいからこそなんだろう。広志は心からありがたく思う。
「僕こそ二人が来てくれて助かったよ。八坂さんの取り巻き二人が、なぜか絡んできてさぁ」
「なかなか面白い人達だね」
凛は普通に微笑んでる。彼らのことをホントに面白いと思ってて、嫌がるとかネガティブな感情は持っていないようだ。こういう優しいというか、受け止め幅が広いのが凛の凄いところだ。
「伊田さんもありがとう」
「いや、どういたしまして。空野君には色々世話になったからね。少しはお返ししとかなきゃ」
「えっ? お世話なんて、何にもしてないし」
「いやいや、空野君のおかげで、また陸上のやる気が出たし。ほんっとに感謝してる。やっぱり空野君に相談して良かったなぁ〜」
伊田さんはホントに嬉しそうだ。生き生きとした伊田さんを見ることができて良かったと、広志は嬉しくなる。
駅の少し手前の所の四つ角で、広志と凛は立ち止まって、伊田さんに「僕らはこっちだから」と、駅とは違う方向の道を指差した。
「えっ? 空野君の家ってそっち?」
「うん」
「てっきり、駅の近くだと思ってた」
「違うよ。この角を左に曲がるんだ」
「え〜っ、そうなの?」
驚く伊田さんに、凛が不思議そうに尋ねる。
「天美ちゃん、なんでそう思ったの?」
「だって私が足を怪我してた時に、何度も空野君が駅までカバンを持ってくれたから……てっきり空野君の家は、駅の方なんだと思ってた!」
伊田さんは目を見開いて驚いてる。そしてすぐに、恐縮した表情になって、肩をすぼめた。
「じゃあ、わざわざ私のために、駅までついて行ってくれてたんだ」
「えっと……そうだね」
それを聞いて伊田さんは、顔をくしゃくしゃにして泣きそうな顔になった。そして両手を出して、広志の手をガッシと握る。
「空野くーん! 知らなかったよ。ホントにごめん。空野君は、やっぱりめちゃくちゃいい人だ!」
伊田さんは握った広志の両手を上下にブンブン揺さぶりながら、広志の顔を見つめた。
「ま、まあそれほどでもないし、気にするなって」
「いや、ホントにありがとう」
伊田さんはウルウルした目で広志をじっと見つめて、握った手を離そうとしない。
「あの、伊田さん? そろそろ帰ろっか」
苦笑いの広志の言葉で、伊田さんはハッと我に返って手を離した。ずっと手を握ってたのを急に意識したのか、顔を真っ赤にして自分の両手を見つめて「ご、ごめん!」と謝ってる。
「いや、いいよ。じゃあまた明日」
「う、うん。空野君も凛ちゃんも、また明日ね!」
伊田さんは顔の横で手を振ると、さっと振り向いて、駅の方に向かってぱたぱたと走り出した。部活の時は華麗なフォームなのに、大きなカバンを抱えてるからなのか、こんな時はわちゃわちゃした走り方で可愛らしい。
「天美ちゃん、照れてて可愛いね」
「そうだね」
凛は目を細めて、手を口元にやってくすっと笑う。広志と凛は四つ角を左に曲がって、自宅の方に向いて歩き出した。
「あっ、そうだ凛」
「なぁに?」
「さっきグランドで、伊田さんと真田が何か言葉を交わしてたよな? 大丈夫かな? ややこしいことになってない?」
「ああ、あれね。真田君が、『なんで空野とそんなに親しげなんだ?』って訊いてきたんだ」
(あの時真田は、そんなことを言ってたのか)
広志は凛に、『伊田さんはなんて答えたの?』と訊いた。
真田と伊田さんはどんな話を交わしたのか?
次回「天美ちゃんならきっと大丈夫」をお楽しみに!




