【42:平凡男子がそんなにモテるはずがない】
見音達と広志達が話してて、伊田さんまでもが広志を好きだと言い出した場面の続きです。
伊田さんが、見音達の前で広志のことを「だーい好きだぁー!」なんて言うもんだから、広志は恥ずかしくてたまらない。
「い、伊田さん。嬉しいけど恥ずかしいから、みんなの前でそんなことを言うのはやめようね」
「あはは、言っちゃった〜」
伊田さんは「いっしっし」と笑って頭を掻いてる。また伊田さんが暴走気味だ。
「もしかしてあの冴えない男は、実は凄いヤツなんじゃ?」
「実はすっごい大金持ちとか? それともああ見えて、凄いスポーツ選手? あ、天才的な頭脳の持ち主かな?」
「いや、頭悪そうに見えるし、それはないんじゃないか?
(頭が悪そうに見えるって……酷いな。まあ否定はできないけど)
鈴木と佐藤がまた勝手な想像をしてる。広志は、あははと苦笑いするしかない。
「いや僕は大金持ちでもないし、凄いスポーツ選手でもないよ。もっと言えば芸術的な才能もないし、勉強も……これは、まあ普通だよ」
一応勉強は普通だと主張しといた。これはホントの話だ。成績は中の中。広志にとっては、この主張で精一杯。
「マジ?」
「うん、マジだ。僕はめーっちゃ普通で平凡だよ」
「じゃあなんで、そんなにモテるんだよ?」
鈴木も佐藤も不思議そうな顔をしてるけど、広志自身も不思議で仕方ないのだから、答えようがない。
──というか、自分はホントはモテるはずがない。だけど奇跡的に、たまたま凛と伊田さんという奇特な人と出会っただけ。ということはやっぱり凛は、それと伊田さんも変わり者なんだろなぁ。
広志にとっては、そう考えるしか納得のいく答えは出ない。
どう答えたらいいのかわからない広志が黙りこくってたら、それまで無言だった見音が、急に訝しげな声を出した。
「それ、ホントの話なの? 空野君が特に何も凄いものがないなんて話。嘘でしょ」
「えっ? いや、ホントだよ」
「でも実は、何か凄いことを隠してるんでしょ?」
「ホントに何もないって」
「信じられないわ」
見音が思いのほか食い下がる。冴えない平凡男子がなぜかモテるなんて、そんなことはあり得ないと言いたげだ。鈴木と佐藤も横から見音に賛同する。
「そうだそうだ。特に何の取り柄もないのに、イケメンじゃない男がモテるはずはない!」
「やっぱり涼海さんと伊田さんが、俺らを騙そうとしてるに違いない!」
彼らの暴論がまた出た。伊田さんが苦笑いしながら、彼らにクイズの出題みたいに訊いた。
「さて問題です。私たちがそんなことで君達を騙して、私たちは何の得があるんでしょうか〜?」
「ん〜っと、何の得もないな」
「うん、何の得もない」
「ピンポ〜ン! 大正解!! 君たちすご〜い!」
伊田さんがニコッと笑って、鈴木と佐藤に向かって盛大にパチパチと拍手を送る。伊田さんのあまりに可愛い笑顔を見て、彼らはぱぁっと表情が明るくなった。
「おおっ、正解だって! 鈴木やったな!」
「おお、やったぜ佐藤!」
二人はピョンピョン飛び上がってハイタッチしてる。彼らは性格が悪いんじゃなくて、ただ単に極めて単純なんじゃないのだろうか。
「はしゃぐのはおやめなさい!」
見音にピシッと言われて、二人はまたしゅんと大人しくなった。なかなか厳しいお嬢様だ。
「あなた達がホントのことを言わないなら、まあ仕方ないわ。今日はそれを信じてあげる」
見音は薄く笑いを浮かべて言った。なぜだかわからないけど、彼女はあくまで広志には何か特別なことがあると、疑ってるようだ。さらに見音は伊田さんのことも疑った。
「伊田さんがホントに空野君を好きなのかも、疑わしいけどね」
「なんで? ホントだよー」
「ふーん。じゃあ人気総選挙で、空野君に投票したらいいのに」
「ああ、前の委員長選挙の時は投票しなかったけどね。本番の時は、絶対空野君に投票するよーっ!」
「ヒロ君、良かったね! これで三票目だね!」
凛は嬉しそうに言うけど、広志はあたふたし始めた。
「あわわ、良くないって! またややこしくなるよ! 伊田さん、やめてよ」
「やだよー! 私は空野君に投票するからねー!」
「もしかしたらヒロ君。本番では一位になっちゃったりして?」
「凛もなんてことを言うんだ!? そんなことは、あるはずもないだろ!」
「えーっ? わからないぞぉー空野君!」
わいわいキャイキャイと騒ぐ広志達三人を、鈴木と佐藤はとっても羨ましそうに眺めてる。あまりに楽しそうな三人の姿に、彼らもつられてついつい笑顔が漏れる。
「た、楽しそうだ……」
「ホントだ。あんな美女二人とじゃれ合うなんて」
「ふーん。じゃあ、あなた達も混ぜてもらったら?」
この日一番の冷ややかな見音の声が、二人の笑顔を引き裂いた。鈴木と佐藤は引きつった顔になって、あわあわと大いに慌てた。
見音は取り巻き男子に冷たく当たったり、優しくなったり。
次回「見音様が一番です」をお楽しみに!




