【41:世界三大美女の揃い踏み】
見音と取り巻き男子が広志と話してるところに、凛と伊田さんが突然現れた場面の続きです。
突然現れた三大美女の二人を目の当たりにして、鈴木と佐藤がびっくりした顔であわあわと慌てだした。
「あっ、伊田さんも一緒なのか」
「うんっ!」
驚く広志に、伊田さんは笑顔でこくっと頷くと、ショートカットの髪がふわりと揺れた。
「うっわ、世界三大美女の揃い踏みだ〜っ!」
「ホントだ! 滅多に見れない光景!」
そう言えばそうだ。同じクラスだけど、この三人が一緒に近くにいるのは見たことがない。確かにこの三人が近くにいると壮観だ。もしも女性アイドルグループが隣にいたとしたら、アイドルの方が惨敗するに違いない。
「うわぁ、涼海さんの実物を初めて近くで見たけど、可愛いなぁ……」
「伊田さんもくりくりした目で、ボーイッシュで可愛い……」
鈴木と佐藤がため息をついて口々に言うのを聞いて、見音は二人をキッと睨む。二人はマズイって顔で、シュンとして見音から顔を逸らした。
「いや、やっぱり見音様がダントツで一番だな」
「そうだ。見音様の美しさには、誰も敵わないよな」
急に取り繕う二人の様子を見て、広志はおかしくなって、笑いをかみ殺すのに苦労する。
「で、何の話?」
凛がみんなを見回して、小首をこくんと傾ける。その可愛い姿に、取り巻き君達はまたドギマギした表情を浮かべてる。
「その話は、もういいじゃないか」
広志がそう言ったのに、見音に見事にスルーされた。
「いえね。涼海さんが空野君を好きだって話」
見音は淡々とした顔つきで、広志をチラッと見た。見音はいったい何を言いたいのか? 本音のところがよくわからない。
「うんそうね。私はヒロ君が好きだよ」
凜のその言葉を耳にして、鈴木と佐藤は目を丸くして、お互いを見合った。広志は小っ恥ずかしくて仕方ない。
「マジかよ? 聞き間違いじゃないよな?」
「信じられないけどホントみたいだ!」
凜は見音に向かって、微笑みながら問いかける。
「で、私がヒロ君に弱みを握られてると?」
「まぁ、そうね。違うのかな?」
「さっき言った通り、違うよ」
「ふーん。じゃあ涼海さんは、変わり者なのね」
見音はまるで珍しい生き物でも見るような目で、凛の顔を眺めてる。凜はちょっと驚いた表情を見せた。変わり者なんて言われるとは、思いもよらなかったようだ。
「変わり者?」
「ええ、そうね」
凜と見音のやり取りを聞いて、鈴木と佐藤が顔を近づけて、ひそひそと言い合う。
「涼海さんって、変わり者なのか?」
「あんなに可愛いのになぁ」
凛と見音のやり取りは、周りから見たら緊張感があふれてる。とは言っても凜はいつも通りの優しい話し方で、見音が突っかかるような感じなのだけれども。
広志は、凜は変わり者なんかじゃないと言おうとしたけど、自分を好きだということは、やはり凛は変わり者なのかもしれないなぁと考え込んでしまった。
その凍りつくような雰囲気をぶち破ったのは、伊田さんの明るい声だった。
「凛ちゃんは、変わり者なんかじゃないぞぉーっ!」
突然の声に全員が伊田さんを見ると、彼女は相変わらずにこにこしてる。腰に手を当てて胸を張って、自信満々な佇まいだ。
「ふーん、なんでそんなことを言えるのかな?」
見音は訝しげに伊田さんに訊いた。ちょっと薄笑いを浮かべてる。
「だって空野君は、とってもいい人だもん。好きになるのも当たり前だぁ!」
見音はきょとんとして、伊田さんの顔を見つめてる。鈴木と佐藤は、伊田さんの言葉に驚いて、またひそひそ話を始めた。
「伊田さんがあんなことを言ってるよ」
「きっと伊田さんは、涼海さんをかばうために、ああ言ってるに違いない」
「凜ちゃんをかばう? そんなこと、ぜーんぜん考えてない。だって私は、ホントに空野君を素敵だと思ってるんだぁ!」
伊田さんの言葉に誰もが固まって、しばらく沈黙が流れた。そして我に返ったように鈴木と佐藤がひそひそ話しを再開した。
「あのスケベ男、なんと伊田さんにまで素敵だなんて言われてるぞ」
「うらやまー!」
「あらま、伊田さんまでどうしたの? 大絶賛ね。まるで伊田さんまで、空野君を好きだって言わんばかりだわ」
見音の言葉を聞いて、鈴木と佐藤は二人とも青い顔で、お互いを見合った。
「まさか伊田さんまで、あのスケベ男が好きだなんて、あり得ないよなぁ?」
「まさか。あんなに冴えない男がそんなにモテるんなら、天と地がひっくり返るぞ」
相変わらず酷い言われようだと、広志は一人苦笑い。
「ん~、私が空野君を好き……ちょっと違うなぁ」
伊田さんが首を傾げて、なんだか迷うように呟いた。
「やっぱり違うんだって」
「そりゃそうだろ。ちょっと安心したぞ」
伊田さんはにっこり笑って、高らかに宣言した。
「私は空野君を好き……じゃなくて、だーい好きだぁー!」
「な、なんだってーっ!?」
「やっぱり天と地がひっくり返った~!!」
鈴木と佐藤が両目をひん剥いて驚きの声を上げた。
ちょっと暴走気味の伊田さんまで好きだと言うのはなぜなのか、見音は疑ってかかる。
次回「平凡男子がそんなにモテるはずがない」をお楽しみに!




