【38:三大美女の一人、八坂 見音】
広志が伊田さんの部活を見に行く道中、三大美女の一人「八坂 見音」とぶつかってしまった場面の続きです。
広志にぶつかられて倒れた八坂 見音は、立ち上がって制服のスカートとジャケットに付いた砂埃を両手でパンパンと払うと、広志をキッと睨んだ。
広志の目の前まで歩み寄ってきた見音の取り巻き男が、忌々しげに広志に詰め寄る。
「おい、お前! 見音様を呼び捨てにするなんて、馴れ馴れしいヤツだ」
見音を助け起こした男も、広志に歩み寄ってきた。
「そうだぞ! お前は誰だ?」
よく見ると男子は二人とも、さすがにイケメン三銃士には劣るけど、まあまあのイケメンだ。しかし取り巻き感が半端ない。
広志には見覚えのない顔で、違うクラスの者のようだ。
「あ、僕は空野 広志。今八坂さんと同じクラスなんで、名前を知ってたから、ついつい呼び捨てで言っちゃった。ごめんね八坂さん」
「空野君。名前のことはいいわ。それより……」
見音は真っ赤な顔をしてる。それより……ってなんだろと広志は考える。でもわからない。
「それより……見たでしょ?」
「な、何を?」
あれだけインパクトの強いものをさっき見たばかりなのだから、広志の脳裏にはまだあの白いものが焼きついてる。今度はさすがになんのことなのか、一瞬でわかった。だけど広志は、反射的に『何を?』と言っていた。
「何をって……まあ、いいわ」
広志の顔をじっと見た見音は、何か汚いものでも見るように顔を歪めた。
(ああ、八坂さんに嫌な思いをさせて、申し訳ないことをしたなぁ。せめて『見てない』って即答すべきだったか)
「ちゃんと前を見てなくて、ぶつかっちゃってごめんな」
「見音様に近づくなっ!」
広志が謝りながら見音に一、二歩近づこうとすると、取り巻きのイケメン二人がぱっと間に割って入って叫んだ。
(はっ? なんだこいつら? SPかよっ!?)
「なんで?」
広志が素直に疑問を口にすると、イケメンの一人が答える。
「見音様は美しくないモノがお嫌いなんだ。だから近づくな」
「はーーーーっ?」
確かに僕の顔は美しくはないけど。だけどそんな言い方ってあるだろうか?
広志は怒るとか気分が悪いというよりも、なんだかワケがわからない。
「こらこら、鈴木君。私は『美しくないモノが嫌い』なんじゃなくて、『美しいモノが好き』なのよ。間違えないで!」
「あっ、すみません見音様」
「そうだよ鈴木。お前はいつも間違えてばかりだ」
「なんだよ佐藤。お前に言われたかないよ」
取り巻きのイケメン二人は、どうやら鈴木君と佐藤君というようだ。世界高校の制服を着てるし、本物のSPというわけじゃなく、ここの生徒のようだ。
「鈴木君。そんな言い方をしたら、空野君に失礼でしょ。悪かったわね、空野君」
「あ、いや。僕は別に失礼とか思ってないから大丈夫」
「そう。ありがとう」
見音は言葉では申し訳なさそうで、笑顔も見せてるけど、どうも表面的に取り繕ってる感じがする。笑顔がなんとなく作り物みたいに見える。
鈴木って男の言うように、見音は広志を『美しくなくて嫌い』と思ってるんだろうか? 取り巻きも二人ともイケメンだし。
広志はさすがに身の程をわきまえてるから、自分をイケメンだとか美しいなんて、これっぽっちも思っていない。だけど。さすがに──
もしも自分が美しくないモノと思われて避けられたのだとしたら、さすがに広志はちょっとだけショックだった。
うん、ちょっとだけ。
広志は自分の見た目とかは、あんまり気にしない方だから、ちょっとのダメージで済んでる。
──なんにせよ、八坂 見音。よくわからない子だ。
そう思って見音の顔をボーっと見てたら、見音は顔を逸らした。
(まあいっか。こんな所で時間を無駄にしてる場合じゃない。伊田さんと凜の部活を見に行くのを、危うく忘れるところだったよ)
「じゃあ八坂さん、またね」
広志は手を上げて、ワールドスタジアムの方に向かって駆け出す。見音は黙ったまま、広志を見送るだけだった。
伊田さんの部活を見学した後、またまた偶然八坂見音と出会う広志。
次回「八坂 見音再び」です。
お楽しみに~




