【30：伊田さんはまっすぐな性格？】
とうとう広志に告白をした伊田さん。
神社の休憩所で、二人で話をしているシーンの続きです。
伊田さんの口から「私と付き合ってほしいです！」という思いもよらないストレートな要望が飛び出したのを聞いて、広志は固まってしまった。
「え？ いや、あの……伊田さん？」
「あ、ごめん！ 私何を言ってるんだろ？ 空野君に酷いことしたくせに、付き合ってなんて虫が良すぎるよね。テンパっちゃって、変なこと言っちゃった。ホントにごめんなさい」
「いや、そうじゃなくて。酷いことしたとか、ホントに僕は何にも思ってないから」
「じゃあ付き合ってほしいとか言ってもいいの？」
「あの、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……」
「うん」
「僕が凜のことを好きだってことは、伊田さんは知ってるよね？」
「うん、知ってる」
なぜか伊田さんは、あっけらかんと答えた。それならば、なぜ伊田さんは付き合ってほしいなんて言うのか？ テンパってるからなのか？ 広志には理解できない。
「僕が凛を好きなのを知ってて、それでもそう言ってくれるのは嬉しいんだけど……なぜ？」
「だって空野君は、涼海さんと付き合ってるわけじゃないんでしょ？」
「まぁそうだけど」
「涼海さんと空野君は付き合えない理由があるって言ってたよね？」
「うん。みんなの前で、凛がそう言ったね」
「だったら私と付き合ってほしいって、お願いしてもいいかなって思ったんだ」
伊田さんはまっすぐな目で広志を見つめてる。冗談とかではなく、本気で言ってるようだ。
「あの……伊田さん」
「はいっ！」
「僕が凛と付き合えない理由はね、凛とだけ付き合えないんじゃなくて、どの女の子とも付き合えないんだ」
「えっ？ そ、そうなの！？」
「そうなんだ」
伊田さんは呆然とした表情で広志を見つめた。彼女はトンだ勘違いをしていたようだ。
(そういえば妹の茜の事情は、伊田さんには言ってなかった。だから伊田さんはそんな勘違いをしたのか？)
それにしても、自分が凛を好きだってことははっきり言ってあるのに、それでも付き合ってと言ってくるなんて珍しい子だと広志は思った。
伊田さんには悪気はなさそうだし、どこまでもまっすぐな性格なのかもしれない。いや、伊田さんって、案外抜けてるのかも？ それはそれで、ちょっと微笑ましいけど。
でもそんなことは言ってられない。伊田さんのことは素敵な人だと思うけど、付き合うことはできないと、きっちりと言わないといけない。
──広志は心の中で、そう呟いた。
「この前カフェでは、事情は話せないって言ったけど、伊田さんがそこまで僕のことを言ってくれてるから、ちゃんと説明するよ」
広志は妹の茜が精神的なダメージを受けて、それを広志がケアしてるうちに、兄の広志をまるで恋人のように想ってしまってること。広志が他の女の子と付き合うなんてことになったら、また茜が精神的に病んでしまいそうだということ。
だから茜の心がもっと回復して、兄離れができるようになるまでは、広志は誰とも付き合わないって決めてることを伊田さんに説明した。
その話を聞いてるうちに、伊田さんの瞳がどんどん潤んでくるのがわかった。付き合えないとわかって、悲しんでるのだろうか。
「そ、空野君……」
「な、なにかな？」
「空野君って、やっぱりめちゃくちゃ優しくて、いい人だぁ～」
伊田さんはとうとう涙をぼろぼろこぼして、泣き出してしまった。伊田さんはどうやら悲しんでるんじゃなくて、感動してるようだ。
「わかった！ わかったよ、空野君。可愛い妹さんのために、私も我慢する」
「あ、ありがとう」
「妹さんの心が回復して、空野君が彼女を作れるようになったら、その時こそ私は改めて空野君の彼女に立候補したい！」
「へっ？」
広志が凜を好きだってことは、伊田さんはわかってるって言った。だとすれば、話の流れから言って、広志が凜と付き合えないのは茜の精神状態のせいで、茜の心が回復したら凜と付き合いたいと思ってることはわかるはずだ。
今まで気づかなかったけど、もしかして伊田さんは、やっぱりちょっと抜けた女の子なのかもしれない。
いや、それとも自分の気持ちに正直で、まっすぐに思いをぶつけるタイプなのか？
いずれにしても、誤解を招かないように、自分の凛に対する想いを、ちゃんと伊田さんに言わなきゃと広志は考えた。
あまりに真っ直ぐな性格の伊田さんの暴走は続く！
次回31話は、ズバリ「伊田さん、暴走する」です！！
お楽しみに～
