【29:伊田さんの告白3】
伊田さんが広志に近づいた理由を告白するシーンの続きです。
伊田さんは、はっきり言った。『しばらくは空野君のファンだった』と。
なぜ過去形なのか、広志は疑問に思って、どういうことかおそるおそる伊田さんに尋ねた。
「えっと……しばらくファンって、どういうことかな?」
「え? あ、いや、その……最初は空野君って優しくて、、一生懸命でいい人だなってファンになったんだけど……」
「あ、やっぱり僕なんて、ファンになるほどでもないって気づいたんだ?」
(だろうなぁ。伊田さんほどのモテモテ女子が、僕なんかのファンでいてくれるはずもないし)
「あっ、いや、そうじゃなくて!」
伊田さんは顔をぶんぶん左右に振って否定した。
「それから後はファンと言うよりもね、あの……その……」
「ん?」
「カバンを持ってくれたり、御守りを買ってくれる姿を見て、ドキッとして、きゅんときて……」
伊田さんはホントに顔を真っ赤にして、あたふたしながら一生懸命話そうとしてる。今まで照れ顔は何度か見たけど、これほどあせあせしてる伊田さんを見るのは、広志にとっても初めてだ。どうしたんだろう?
「ふぁ、ふぁ、ファンというのを超えて、そらっ、そらっ、空野君のことが、ほ、本気で好きになっちゃいましたっ!!」
「えっ?」
「ああ、とうとう言ってしまった~~!!!!」
(え? え? え? マジっ!?)
伊田さんは両手で顔を抑えて、俯いてしまった。そしてそのままじっとして動かない。
広志もどうしたらいいかわからずに、俯いたままの伊田さんの姿をぼんやりと眺めていた。
こんな美少女が僕のことを本気で好き?
マジっすか?
超美少女の凜が、僕を好きだと言ってくれてることは確かだ。だけど凜は幼馴染で、見た目がどうのとか言う年頃になる前からの付き合いだ。
だからこそ見た目じゃなくて、僕の性格を知ってくれて、好きだと言ってくれてる。いや、これはまさに奇跡なんだと思ってる。
だけど伊田さんはまだ知り合ったばかりだし、こんなに美少女で人気のある伊田さんが、僕のことを好きになるなんて考えられない。
これはきっとドッキリカメラに違いない。そうだとすると、あの巫女さんも仕掛け人なのか?
──広志の頭の中には、そんなことがぐるぐるぐるぐると巡って、思考がまとまらない。
広志が呆然と伊田さんの姿を眺めていたら、伊田さんはおそるおそる顔を上げて広志を見た。伊田さんの顔はまだまっ赤っかだ。
「あの……空野君?」
「え? ああ、伊田さん。伊田さんも人が悪いなぁ。僕をからかわないでよ。もしかしてドッキリカメラ?」
「いや、こんな一般人のところにドッキリカメラは来ないし!」
「え? ああそっか。じゃあドッキリカメラじゃないんだね」
伊田さんは広志があまりにあたふたしてるのを見て、ぷっと吹き出した。
「違うよ。空野君ってやっぱり面白い。本気の本気の本気で、私は空野君が好きだよ!」
「えっと……えっと……だとすると、真田のことは?」
「ありがとう。空野君のおかげで、真田君のことは吹っ切れた!」
「そ、そうなの?」
「うん! 空野君のことが好きだって自分でわかったら、もう真田君に気に入られたいなんて気持ちは、綺麗さっぱりなくなったんだ。だから、もう人気総選挙のことはどうでもよくなったって言ったでしょ?」
「うそっ!?」
「ホントだよっ!」
伊田さんはようやく笑みを浮かべて、照れ臭そうに広志を見てる。
広志はこんなに素敵な伊田さんに本気で好きだと言われて、嬉しいことは嬉しい。
いや、正直に言って、めちゃくちゃ嬉しい。
だけど──単純に喜んではいられない。凜の顔が頭に浮かんだ。
「あの、伊田さん。伊田さんがそう言ってくれるのはとーっても嬉しいんだけど……」
「あ……」
広志の言葉を聞いて、伊田さんは動きが固まって、顔を曇らせた。
「ごめん、空野君。そうだよね。ダメだよね」
最初に広志が伊田さんとカフェ・ワールドに行った時に、彼女は広志に凜のことが好きなのか、ストレートに訊いてきた。広志はそれに対して『そうだよ』と即答した。
だから伊田さんは、広志が凜を好きだとわかってるはずだ。それで伊田さんは、『ダメだよね』とわかってくれた──と広志は思った。
「だって私は空野君を騙すなんて、酷いことをしたんだもんね。こんな私だから、空野君に嫌われてるに決まってる!! ごめんね空野君! 空野君を騙した上に、好きだなんて言ってごめん!! 迷惑だよねっ!」
伊田さんはまた両手で顔を覆って、俯いてしまった。今度は肩がひくひくと動いてる。泣くのを我慢してるようだ。
このままでは大泣きしそうに見える。こりゃまずい、と広志は焦る。
「いや、伊田さん! そうじゃない。僕は伊田さんを嫌ってなんかいないよ! それどころかとーっても素敵な女の子だと思ってる! 正直に言ってくれたところも、凄くいいと思ってる。だから僕みたいなヤツを好きだなんて言ってくれて、嬉しいよ!」
俯いた伊田さんの背中に手を当てて、広志は慰めるように一生懸命彼女に声をかけた。伊田さんはゆっくりと顔を上げて、広志を見つめる。
「ホント?」
「ああ、ホントだ」
「ホントにホント?」
「ホントにホントだよ」
「良かった……」
伊田さんはほっとした表情を浮かべて口を開いた。
「じゃあ私と付き合ってほしいです!」
「え?」
伊田さんの口から、思いもよらないストレートな要望が飛び出した。
伊田さん、ちょっと暴走気味です(^_^;)
次話『伊田さんはまっすぐな性格?』をお楽しみに~!!




