【11:伊田天美、再び】
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
ゆるゆると進んでおりますが、そのうち大きな動きも出てきます。
今はゆるりとお楽しみください。
◆◇◆
翌日の昼休み。健太と弁当を食べて、弁当箱を鞄にしまってると、また頭の上から声がかかった。
「空野君。今日もカフェ・ワールド行こう!」
にっこり笑いかけるのは、また伊田天美だ。二日連続だけど、そんなに僕に興味があるのか? いったい何を知りたいんだろう? たいして面白いことなんてないけど。
広志は不思議に思いながらも承諾した。
広志はカフェ・ワールドのカウンターで、昨日と同じくアイスコーヒーを注文した。コーヒーのグラスを受け取って、カウンターの端まで移動し、四角い容器の中からミルクポーションとガムシロップを取る。
「空野君! 間違えちゃダメだぞー!」
背後からの声に振り向くと、後ろに立つ伊田さんがにやっと笑ってる。昨日広志がミルクと間違えてガムシロを取ってしまったから、注意をしてくれたらしい。
「あ、ありがと」
「どういたしまして」
(伊田さんって、割とお節介焼きなタイプなのかな? 同い年だけど、姉さん女房って感じ? しっかりしてそうだもんなぁ)
でも身長はちっちゃ目で、150センチちょっとくらいか。茜もちっちゃいけど、あんまり変わらない感じだ。それにショートカットいうことも合わせて、大人っぽくもあるけど、可愛くも見える。
昨日と同じ壁際の二人席に移動して、向かい合って座った。
「今日はなんの話?」
「何か話がないと、お茶に誘っちゃダメなのかな?」
「いや……そんなことはないけど……」
真顔でそう言う伊田さんに、広志はちょっと戸惑った。すると彼女は急ににやっとして「あはは」と笑った。
「あのさ。今日は空野君に相談ごとをしようかと思って」
「相談ごと? 何?」
「今、私、記録が伸び悩んでるんだよねぇ。どうしたらいい?」
「はっ?」
記録? 何の?
広志は一瞬ワケがわからなかったけど、ああ、陸上部だし競技の記録かと気づいた。
「伊田さんって、200メートル走をやってるんだったっけ?」
「そだよ」
「で、相談ってのは、その200メートル走の記録が伸び悩んでるって話?」
「ご名答! 名探偵!」
伊田さんは人差し指を広志に向けて、ウインクする。名探偵なんかじゃないし。
「さすが空野君だ。鋭い洞察力!」
(いや、誰でもわかるでしょ?)
「あの……伊田さん?」
「なに?」
伊田さんは楽しそうににこにこ笑ってる。
「なんで僕に相談するの?」
「だって昨日空野君が、相談ごとがある時はいつでもどうぞって言うから」
「はっ?」
広志は動きが固まった。理解不可能。思考回路停止。
「相談しちゃダメ? 空野君って嘘つき?」
伊田さんは眉をしかめて、悲しそうな顔で広志を見つめる。美少女は悲しそうな顔をしてもとても魅力的に見える。
「あ、いや、そうじゃなくて。陸上競技のことなんて、専門外の僕になぜ相談するのかなぁって……」
焦る広志を見て、伊田さんはぷぷっと吹き出した。そして声を上げてあははと笑ってる。
「え?」
「冗談だよ。空野君って、真面目だねー」
(冗談か。焦ったよ)
大きな目を細めて笑う伊田さんは、ホントに楽しそうだ。
「そうだよね。陸上の記録を僕に相談するなんて、やっぱり冗談だよね」
「いや、そうじゃなくて、『空野君って嘘つき?』って言ったのが冗談。記録の伸び悩みを相談したのは本気だからっ」
(ん~、やっぱり伊田さんは謎。どうすれば200メートル走の記録が伸びるかなんて、僕が知るはずがないのは、伊田さんもわかってるくせに)
「伊田さんって、僕をからかってる?」
「ううん、からかってなんかないよ」
「じゃあどうゆうこと? 陸上の記録の伸ばし方なんて、僕はわかんないよ」
「技術的なことを相談したいんじゃなくてさ。モチベーションが上がりきらないって言うか、なんかやる気が出ないんだ。どうしたらいい?」
伊田さんは真顔で、じっと広志の目を見つめる。その綺麗で大きな瞳に、広志は吸い込まれそうに感じた。とても魅力的な目だ。
「ああ、そういうことか。でも僕は伊田さんのことを全然知らないし、どうしたらいいのかアドバイスしにくいなぁ」
「じゃあ、私のことをもっと知ってよ」
ニコッと笑う伊田さんの笑顔に、広志は思わずドキッとした。
本作をお読みいただいている皆様に大変感謝しております!
次話も伊田さんがグイグイ来ます。健康美少女ファンの方、お楽しみに!




