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「さ、食事に行きましょ!」
ぐいぐい背中を押され、案内されるまま一階へもどり、奥へ行く。
そこには、小さめの食堂があって、長方形の机が置いてあった。
すでに、シジェス様と、家令のひとが席についていた。
シジェス様は長方形の机の奥にすわっていて、その両脇に二つずつ、テーブルセッティングがされている。……って、あれ?
「お待たせしました」
「問題ない、さほど待っていない」
「ええ、女性の身支度は時間がかかるものですからね」
ミレイさんに、シジェス様と家令のひとが口々に言う。
二人とも、全然怒っていないらしく、家令さんは笑顔すら浮かべていた。
その微笑みはやっぱりとんでもなく綺麗で、同じ人間とは思えないくらい。
そして彼女は私の手を引いて、家令さんとは逆の席にやってきた。
「トゥーリちゃんはここね!」
ここ、と言われたのは、左斜め前にシジェス様、隣にミレイさんの位置。
で、でも……
「この邸では一緒に食事を摂る。慣れないかもしれないが、これが習慣なのでね」
おろおろしている私に、シジェス様が教えてくれた。
普通、主は私たちと一緒に食事をしない。そもそも献立も違うし。
さっきシジェス様が言ってたのは、こういうことなんだろうか。
ミレイさんに促されて、おっかなびっくり椅子にすわる。
「お待たせ、ご飯だよー」
聞こえてきたのんきな言葉遣いに、またぎょっとした。
とてもじゃないけど、給仕係が主に対してする感じじゃない。
トレイに料理を載せてきた男のひとは、慣れた手つきで皿を私たちの前に置いていく。
そして給仕を終えると、残っていた席にすわった。
……最後の席にすわったそのひとは、若い男性だった。
灰色の髪に青い目をしていて、ひとなつっこそうな顔つきをしている。
先に家令さんを見たせいか、すごく普通だな、と思ってしまった。
どちらかというとかわいい雰囲気な気がする。
「詳しい話はあとで、今は食事に専念しよう、……ああ、だが紹介だけは必要だな」
名前がわからないとやりづらいだろう、とシジェス様がぐるりと見渡すと、まず家令さんが口を開く。
「わたしはヒューイット。なのでヒューと呼んでください」
にっこりと再び笑顔をむけられて、どぎまぎしてしまう。
ヒューさんはこの家の家令的な仕事をしているらしい。
「次はあたし。あたしは略称はなくてただのミレイよ。よろしくね!」
はきはき喋るミレイさんは、雑用全般が担当らしい。
……ずいぶん大雑把な気がするけど……
どうやら料理が苦手らしく、そういうことになっているようだ。
「最後は僕だね、ジェイラスだからラス、よろしくー」
のんびりした口調のラスさんは、料理担当。
他に得意なひとがいないので、やむを得ずって感じらしいけど。
そして、主のシジェス様。この家は合計四人しかいないらしい。
簡単な紹介がすんで、早速食事になった。
今日の献立はシチュー、季節は春だけど、まだ寒い日もあるから、ほかほかと湯気を立てているそはとてもおいしそうだ。
ぱくっと一口食べると、暖かさにじんわりする。
「おいしいです」
すなおにそう口にすると、ラスさんが嬉しそうに笑った。
「おかわりもあるから、遠慮しないで食べてねー」
とは言われても……結構大きいお皿になみなみあるので、これでお腹いっぱいになると思う。
しかも、目の前のバスケットにも山盛りのパン。
一個で十分なんじゃ……と思っていたら、私以外のひとはみんな、どんどんパンを手にしている。
よく見れば、他のひとのお皿は私のよりもっと大きいのに、ほとんどカラになってた。
「おかわりもらうわね!」
ミレイさんがそう言って、皿を持って奥へ行く。
そして同じくらいの量を盛ってもどってきた。
シジェス様の時だけはラスさんが盛ったけど、それもかなりの量だった。
どうやらここでは、主人以外は、自分でおかわりをとりに行くルールらしい。
結局私以外は全員おかわりをして、たくさんあったパンもなくなっていた。
「全然食べてないねぇ、大丈夫?」
「ラス、おそらくこれが普通ですよ」
「えー、そうなの?」
心配げなラスさんに、呆れた顔でヒューさんが言う。
普通、かどうかはわからないけど、少なくともみんながたくさん食べるのは間違いないと思う。
「ええと、いつもよりたくさん食べたくらいで、おなかいっぱいです」
いつも調理場で一人で食べることが多かったから、誰かと食べるなんて久しぶりで、すごく食が進んだ。
ごはんもおいしかったし、とても幸せな気分だ。
正直にそう告げると、なぜかヒューさんたちが変な顔をした。
シジェス様だけは普通の顔だけど。……というか、シジェス様はあんまり表情が変わらないみたい。
お皿を片づけて、みんなの前にはコーヒー、私の前にはミルクだけが置かれた。
「さて、ではトゥーリ、話を聞かせてもらっていいかな?」
シジェス様に促されて、はい、とうなずく。
「わかりました。でも、説明が上手ではないので、わかりにくいかもしれません」
ごめんなさいと前置きをして、どこから話そうか少し考える。
かいつまんで言いたいけど、うまくまとめられる気がしない。
やっぱり、長くなっちゃうけど、私の生まれからじゃなきゃ、わかりにくいかな。