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宇宙戦争

作者: 城元太

 ある日突然宇宙人が攻めてきた。


 宇宙人は手始めに世界最強と言われるアメリカ海軍第七艦隊の直上で小型核爆弾を爆発させ、人的被害は生じなかったものの、電磁パルスによって地球人の最強兵器が無力化される様子を世界中に示した。そして地球人が抵抗を続けるならば、今後も大量殺戮を伴う総攻撃を行うと宣言する。

 緊急に召集された国連総会では、宇宙人に対し徹底抗戦を唱え、世界を上げた総力戦の実施を決議した。

 だが、この時非常任理事国として参加していた日本は、憲法第九条を理由に参戦を拒否、後方支援としての自衛隊の派遣のみを承認したため、国際社会に於いて強い批判を浴びる。

「日本人はエゴイストだ」

「この様な事態に平和憲法など意味を成さない」

 繰り返される批判にも、当時日本のA首相は頑として意見を曲げず、決して自衛隊の宇宙戦争参戦を承認しなかった。

 国連会議の間にも宇宙人は地球侵攻を続け、やがてロシア共和国のシベリアに橋頭堡を確保、北極圏から次第に地球各地への侵略の魔手を伸ばした。

 手始めに餌食となったのは、東ヨーロッパ圏である。アメリカ第七艦隊と同様の電磁パルス攻撃を実施した後、トライポッドを主兵装とした地上軍を以てウラル山脈を越え、モスクワを蹂躙し、ロシア軍を壊滅させた後、たちどころに黒海周辺まで侵出した。

 迎え撃つEUの混成部隊も敵うことなく、宇宙人は東欧諸国及びアラビア半島周辺まで制圧。アラビア湾の低空地域で、宇宙人は再び爆弾を炸裂させた。分析の結果、使用された爆弾は電磁パルス弾に非ず中性子爆弾であり、限定された破壊力と生物の細胞のみを着実に殺傷する性質により地上の生物は死滅。砂漠の熱砂の中、干乾びた死体が無数に晒された。

 電磁波の影響を受けない旧時代的な兵装をかき集め、アメリカ軍、及び極東地域に生き延びていたロシア軍、そして中国軍などの連合部隊がシベリアの宇宙人基地を急襲するが、兵力差に勝る宇宙人には歯が立たず、部隊は電磁バリア―に阻まれ近づくことが出来なかった。このとき自衛隊はやはり後方に控え、一切戦闘に参加することは無く、日増しに国際社会からも、そして日本国内からも宇宙戦争への参戦を促す議論が巻き上がって行った。

 宇宙人は次に、地球上で人口の集中するインド半島への大規模攻撃を行った。更に性能を強化した電磁パルス爆弾とともに中性子爆弾を首都デリーで多数炸裂させ、インド・パキスタン・バングラディシュ人口の約七割を殺戮した。一時的にムンバイに首都機能を移動させたインド政府は悲鳴をあげた。「誰か我が国を救ってくれ」と。しかし聖なる河ガンガーが赤褐色に染まりインド洋に注いでも、それを救う神は訪れなかった。

 この頃より宇宙戦争からの戦禍を逃れるため、北半球から南半球、特にオーストラリアや南米方面への移住が相次いだが、次いで攻撃を受けたのは衛星軌道上の宇宙人の母船から放たれた重粒子線によるブラジルへの攻撃であった。地球上で人口の集中する大都市リオデジャネイロ付近を中心に照射された光線は大量の死者を生み、南米地域であれ地球上に安全な場所が無い事を思い知らされた。

 この頃次の標的と目されていた地球上で人口の集中する中国では、未だに参戦しない自衛隊に業を煮やし、盛んに戦闘参加を促すようになる。だがA首相は「日本は戦争の惨禍を二度と繰り返しません」を唱え続け、やはり参戦を拒んでいた。

 予想された如く、宇宙人は最大規模の中性子爆弾攻撃を中国本土上空で炸裂させた。

 十一億人の人口を失い、完全に国家機能を無くした中国も沈黙した。

 隣国の惨禍に対し、次なる標的が日本にある事を悟ったA首相は、遂に決断をした。

「日本政府は、自衛隊を中心に地球防衛軍を結成し、その総力を以て宇宙人掃討の為に参戦します」

 ここに、地球の残された兵力を結集した『地球防衛軍』が立ち上がったのだ。


 幸いにして、アジアから切り離された日本列島を宇宙人は見落としていたと思われた。同様に攻撃を免れて来た東南アジアの人々と協力し、新たなる大東亜共栄圏部隊の編制を行う。

 電磁パルスの通じない前時代的な武器は数少ないが、日本には内之浦ロケット発射場を例にするように、それまで培われてきた固体燃料ロケット技術があった。固体燃料ロケット技術を応用し、自衛隊を主力とした地球防衛軍は宇宙人の基地を奇襲、最初に敵の出鼻を挫くことに成功した。

 勢いに乗った地球防衛軍は、死屍累々のインド半島を北上、ヒマラヤ山脈を越えチベット高原に到達。ポタラ宮を基地としてシベリアの宇宙人基地と対峙する。

 断続的に攻撃される電磁パルス爆弾を無力化する干渉兵器を、日本の最高の技術力が実現。更には東海村臨界事故で学んだ中性子の危険性を充分に知る日本を主力とした地球防衛軍は、シベリアの宇宙人基地を包囲するため巨大な熱線放射塔を戦場に投入した。

 中性子爆弾も電磁パルス兵器も無力化された宇宙人は次第に後退。遂には宇宙に逃げ帰る。追撃の手を緩めない地球防衛軍は、国際宇宙ステーションを前線として成層圏上の宇宙人母船を攻撃、これを見事撃破する。

 自衛隊の参戦によって攻守を逆転させたことにより、日本の国際的地位は上昇した。熱狂的な歓迎の中、いつしか自衛隊は「軍隊」に非ず「地球防衛軍」としてその地位を確立したのだった。

 以降、日本政府はアメリカ合衆国政府より膨大な最新鋭武器を購入し、軍事大国として、人口の激減した中国に代わり再びアジアに台頭する。宇宙戦争以前は経済不況に陥っていた米国政府は奇跡的な経済回復を実現、日本は徴兵制を伴ったアジア大陸駐留を行い、大東亜共栄圏内に燻る旧中国や旧インドの民族蜂起をテロ行為として鎮圧し、米国とともに共存。空白地域となっていたアラビア地域には、旧宗主国の関連もあり、EU諸国が統治し、治安を維持する。


 後に、宇宙人はハリウッドの特殊メイクと日本の特撮による合成映像であったのではないかと、まことしやかに語られた。


 依然、宇宙人の正体は解明されていない。


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