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それでも俺は 立ち向かう



 修行と探索の一週間を終え、いよいよ川の上流へと向かう。

 

 修行の結果、ある程度感じる魔力をカテゴライズ出来るようになった。植物、虫、動物などだ。さらに細かく区別しようとすれば、しっかり集中する必要がある。

 そして、感知距離も若干伸びた。30m前後だ。あまり変わらないかもしれないが、視線の通らない所に何か居ると分かるだけでも随分ましだろう。

 あとは自分の魔力を隠せるようになれればいう事なしだ。そこは修行しながら行こうと思う。


 探索の結果は、思ったよりも『毒の楽園』が広いという事だ。ここはその最奥に当るのだろう。他の生物にはあまり旨みのある場所ではないから俺は安全に暮らせたのだ。


 だが、とうとう桃モドキが熟して落ち始めた。ずっとここには居られない。これから冬になるのか? 辛い…。

 それなら寒くなる前に雨くらい降って欲しい。今ならまだ水浴び出来る気温だ。そうすれば飲み水だって確保できるし、何より体を洗いたい! しかしまあ二週間だ、こんな時もある。いずれ降るだろうが…運が悪い。


 兎も角、川に沿って歩き出す。川を挟む崖沿いには桃モドキがまばらに続いている。食料はまだしばらく大丈夫だろう。俺は魚を得る為に、そして水浴びを夢見て奥へ奥へと進んで行く。



 ・

 ・

 ・



 12日、それが『毒の楽園』の端までかかった時間だ。…長かった。

 俺もこの原生林を歩くのにもだいぶ慣れたが、それでも迂回や上り下りを繰り返す道行は距離を稼げない。そしてどれ程の距離を移動できたのかも、地理すらも曖昧だ。

 どこぞの冒険家のような事をしながら、やっとこの場所までたどり着いた。


 今目の前に広がるのは、これまでとは少し違う別の森だ。原生林から深い森位には落ち着いているし、ずばり、生態系が違う。毒の生物たちがまばらになり、また少し変わった生き物が見え始めた。

 サボテンでもないのにトゲトゲしい木、野球にでも使えそうなくらい硬いリンゴ。まんまハサミの様な鋭さを誇るクワガタに、やっぱり歯の生えた鳥、爪も鋭い。ナマケモノがアルマジロみたいな肌をしている。これは怖い。

 襲われたら撃退できるだろうか? 今のところそんな害意は感じないが。とにかく今は情報収集だ。探知と単眼鏡を使い、慎重に、臆病に、こそこそ嗅ぎ回る事から始めよう。


 それから三日間、奥には進まずに周囲の生態の把握に努めた。そうして分かった事が幾つかある。

 まずは植生、ここの植物たちはやたらと硬い、もしくは痛い。岩みたいな樹皮や、刃物のように鋭い葉や棘。そんなもので身を固めている。何度も痛い思いをした。

 次に注意すべきは昆虫だ。こいつ等は揃いも揃って攻撃的だ。何かしらの攻撃部位を持っていて、うかつに近づいたら先制攻撃してくる。そんな奴等を鳥や小動物が掻っ攫い、バリボリ食っている。

 そして時たま姿が見える動物は今のところ問題ない、大型の肉食獣は見当たらない。全部草食か小動物狙いだ。特に注目すべきはここの食べ辛そうな植物群を遠慮無しに嚙み砕いていく大型の草食獣達だ。いかにも防御特化といった硬そうな見た目で暢気に過している。こちらにも興味を示さない。外敵がいないのだろうか?

 恐らくこいつらは『強い』。今まで見た生き物中では魔力の輝きが段違いだからだ。きっと襲われてもどうとでもできるのだろう。羨ましいかぎりだ。


 特にこちらの脅威となりそうな獣も現れず、こんなものかと拍子抜けしているとそいつが現れた。探知に捉えたそいつは隠れもせずに堂々と…。単眼鏡に写るその姿は俺が異世界で初めて見る『魔物』だ。


(…ゴブリンだ!? そしてなんだかボロボロだ…)


 こんな奴が本当にいたのかという驚愕は、その傷だらけの姿で何だか萎んでしまった。背中を丸め棍棒を引きずるその歩みは、とても強そうには見えない。辛そうだ。


(テンプレなのか? やっぱり弱いの? …しかし友達にはなれそうもないな)


 よくある話、実は友好的というやつだ。だが、俺の感知では毒属性の様に嫌な感じを捉えている。弱々しい魔力の光はそれでも周囲に敵意を放っている。そして向かう先はのんびり灌木を貪っているサイみたいな鹿だ。すごく逞しい鹿だ。


(無謀だ!やめろ! …でもいいサンプルか?)


 自分でもすごく失礼でおかしな事を考えているのは分かっているが、思わずというやつだ。バカな事を考えているうちに、ゴブリンはサイ鹿の元へたどり着く。棍棒を振り上げその尻に一撃…した瞬間にサイ鹿の後ろ蹴りが炸裂してぶっ飛んでいく。その先はサボテンの木だ。


(oh…)


 茨の様な棘だ、刺さっても死にはしない。だがとても痛そうだ。


「グギャウゥウガァ~~~!!?」


 見た目通りの叫び声だ。とても痛そうだ。だがそれでも彼(?)は懲りずに戦いを挑んでいく。すごい気力だ。結局三度の挑戦の後、彼は地面に沈んだ。そしてまだ生きている、思いのほかタフだ。これが自分なら一撃だろう、もちろん生きてはいない。


(あんなにフラフラだったのに、防御力高すぎだろう。そして攻撃力なさすぎだ)


 あれだけ必死だったのだ。万全の状態でなかったにしても耐える体力とヘロヘロの棍棒攻撃は、なんだか釣り合っていない。俺でも避けれそうだった。そんなんで生きていけるの?


(襲って来そうなのはゴブリンだけ。それも集団以外ならなんとかなりそうか?)


 たとえゴブリンでも油断はしたくない。したら集団でタコ殴りとかされそうだ。

 だが俺はこの先に進まなければならない。『毒の楽園』にも、この『悲痛の森(今名付けた)』にも俺が食べていけるものは無さそうだ。なら覚悟を決めなければ。困難に立ち向かい、敵を討ち果たし、命を啜る覚悟を。その為の準備はしてきたはずだ。


 まずはあの、ボロボロのゴブリンを…倒す!!



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