『外見』って重要です 制服のある職場とか楽そうでイイです
お待たせしました
時間が空くと文章にも力が無くなるように感じます
ネタ切れもあるでしょうが…
もう何だか投げやりになって『太古の森』と名付けたこの森は、その名の通りかというと全然そんな事はなかった。生き物たちは今までとそう変わっていない。虫、鳥、トカゲ、ネズミ、猿、何処にでもいそうな奴等ばかりだ。
只、特徴を挙げるなら巨木と恐竜の存在だ。幹は両手を広げて足りない程に太く、枝振りは高くて森の天井は遥か上、真っ直ぐと育った登り難そうな大樹。恐竜達はそんな森の王者という訳でもなく、鹿の代わり、イタチの代わり、狼の代わりだ。もちろん他にもデカい生き物はいる、猪とか熊とか。そんな只の大自然の中に恐竜達は埋没していた。
そもそも、何故恐竜達がデカいのかといえば、デカくなる必要となれる環境があったからだ。勿論小さな恐竜もいた。しかし時代はデカさと硬さと筋肉だった。そんな艶やかな鱗を見せびらかす恐竜達に、時代を先取りされ流行に乗り遅れた我々毛むくじゃら達は、恥ずかしくて小さく隅っこで隠れていたわけだ。
しかし、地上に舞い降りたスターの流行革命にデカいだけの筋肉禿げダルマ達はついていく事が出来なかった。食う物も着るものもなく、職にあぶれて廃業だ。その様を、その頃羽毛を生やし始め鳥になりかけていた小さな恐竜達はピピピッとザマァし、モフモフ達は毛皮に包まれワイン片手にほくそ笑んだ。毛の勝利だ。
それが地球に於ける進化の推論の主流、勿論俺の意訳だ。
異世界の生物達と地球の生物史を比較するのもナンセンスだが、この世界も概ねそんな感じで進化しているのだろう。魔力があるから飢えには強いし力も強大だが、デカければ飢えやすいし弱りやすい。大体いい感じのサイズに納まっている。
しかし、恐竜と哺乳類との違いはやはりある。
「ジ〇ラシックパークか!!」
悪態吐きたくもなる相手は、言葉の通り恐竜だ、ナンたらラプトルとか言う奴だ。しかし、小さい、狼モドキと同じくらいだ。それでも長く逞しい尻尾の分、大きく見える。そして前肢がすごく発達している、もう腕と言っていい。身体の割に頭がデカく、大きく裂けた口には鋭い牙が並んでいる、噛まれたら食い千切られそうだ。何より生意気にも毛が生えている。
「ギュアーー!!」
「ぐわっち!?」
得意技はダイビングキッスだ。押し倒すのも構わず、血潮の吹き出る熱い抱擁と頭丸呑みの情熱的な口付けを迫って来る。愛が重すぎるので俺はすかさず回避を選ぶ。
こいつは筋肉の塊だ。鳥が羽ばたきだけで空を飛べるように、鳥に進化したと言われる恐竜は身体の作りが哺乳類とは違うのだ、運動能力が高い。その素早い挙動は他の地べたを這う爬虫類とも全く違う。
(…あぁ、この感じ。ゲイバーを思い出す)
昔、友人と一緒に行ったアメリカ旅行。悪ふざけで入ったその店で、とても篤い歓待を受けた…。筋肉が迫って来るぅぅ!?
もう本当に誠に失礼な想像をしながら、次々飛び掛かって来るラプトル達をヒョイっと横に避ける。今俺を囲い襲っているのは3匹だ。狼モドキよりも上背があるので威圧感が凄い。が、それだけだ。前には強いが横には弱い。
人間は横移動が得意な生き物だ、これはあまり見かけない特徴だ。大きな重心移動、片足立ち、軸回転、自由な上半身、後は後退移動。これらは二足直立が可能とした人間だけの能力だ、少なくともこれら全てを人間以上に出来る生き物は他にはいない。人間はカバディが出来る生き物だ。
柔軟性、汎用性が人間の長所というのは、何も知能だけの事ではない。鍛え上げれば人間もそれなりにやれる、武器が必要なだけだ。それを兵隊でもない会社員がする事ではないだけだ。
前後左右から振るわれる爪や牙を躱しながら、槍を突き入れる。危なげなく対処出来ているのは魔力に拠る身体強化と感知の能力があるお蔭だ。そうでなければ反射神経の差で戦闘にはついていけない。俺は只の細マッチョ会社員だ。最近は風呂と消毒が新たな趣味に加わった、特技は覗き見だ。
(履歴書に書くには微妙だな…)
はたして日本に帰れたとして再就職先は見つかるのかと、元の生活を懐かしみながらラプトル達を撃退した。
………。
「ふむ…」
ラプトル達を撃退したはいいものの、魔石も無く、どうにもイメージより弱い。いや、身体の大きさからいったら十分以上に強い、魔法があればもっと強かっただろう。
しかし、自分がこいつらよりも強かったとも思わないし、力を落とす時期だからとも思えない。3匹だけの集団なんて、群れとしては少なすぎだ。恐らく『何者か』と一戦やらかした後なのだろう、そして群れは壊滅し敗走した。だから全体的に能力が落ちていた。
魔法で魔力を消費するのは本当に生きるか死ぬかの大勝負だ。失敗すれば強い奴でも一気に弱者に転落してしまう、なんてシビアな世界だろう。そんなお相手がこの森にいるの?
(高い枝振りは枝葉を荒されたくない植物の知恵…)
上へ上へと伸びる木々は、何も日光浴したいだけではない。動き回る動物たちにペキペキ折られるのを嫌うが故の進化でもある。ならばこの森には、この高い天井を必要とする生き物がいるのだろう。それが何を食べているのかは知らないが…草食だったらいいなぁ。仮に肉食であったとしても、ラプトル達を食べた後ならわざわざ追いかけて襲ってくる事もないだろう。
この世界がファンタジーではなく野性の世界でよかったと思うのはこういう所だ。魔物なんていう訳も分からず襲ってくる悪意の奴らよりも、食う寝る遊ぶの野生には生きる以外の目的はない。満たされてさえいれば、余計な干渉はしてこない。食事の後の満腹状態なら、こちらから近付かなければ危険はそうない。
問題は、俺は移動し続けなければならないという事だが…。進む限り、新たな捕食者達は現れる。俺には俺の安全な縄張りなどない。
(翼が欲しい…)
毛も羽も手に入れた恐竜達はなんと欲張りな奴等だろう。これなら絶滅しなければ知性を獲得していたと言われていても納得できる。インテリで筋肉でイケメンならば生きるに困らないだろう、性格もいいなら尚更だ。何処の世界でも変わらない真理だ。
特技が覗き見の俺では、始めからお話にならない。俺に出来るのは事件を目撃してしまう家事代行か、アングラな身辺調査の探偵くらいだ。コソコソ隠れる俺は、上位者には煙たがられる存在だと思えば襲われる自分に嫌に納得してしまう。
そんな連中の機嫌を損ねる前にここから出て行きたいと願いながら、またコソコソと嗅ぎ回る俺は間違いなくこの森の不審者だった。早く胸を張れる職に就きたい…。




