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頭がいいからだ



「こら、まてっ! 手を出すな! 危ないだろう」

「ウキャ?」


 燃える薪に触ろうとするモヒカン猿を棒で制する。今、俺は猿たちと轟轟と燃える焚火を囲んでいる。塩を作っているのだ。

 ある程度の量を確保するとなると大変だ。火に直接掛けられる手鍋は2つしかない。ならばと岩を火に掛けそれに鉱泉水をぶっ掛けたり、木の器に溜めた鉱泉水に熱した石を落として沸騰させたり。色々試している。

 岩塩が見つかれば一番いいのだが、それを探す手段も掘る手段も無い。なら確実なところから始めるのが一番だろう。


「おっ! もういいな。ほれ、焼けたぞ。食っていいぞ」

「ウキッ!」


 焚火の側から焼けて湯気を立てるイモを棒で突き出す。サツマイモの様な細長いイモだ。ただし味は、ほんのり甘いジャガイモだ。変な味だ。

 それを目の前に転がり出された猿たちは、触った熱さに驚き、手で転がし、冷ましながら口をハフハフさせて食べだす。なんとも順応性の高い奴等だ。しかしそれは猿たちの逞しさであり、当然の権利だ。このイモは猿たちが掘り出したのだから。


 少しの間、俺はこの場所に留まる事にした。塩の為に、という事もあるが、疲れを癒し冬を耐える為でもある。山脈越えは思った以上に過酷で、身も心も疲れていた。

 そこで湯治とばかりに猿たちと温泉に浸かりながら過ごしていたわけだが、そんな猿たちの生活を観察してみれば色々な発見があった。その一つがこのイモだ。何でも無い雪を掘り、凍った土を掘り、そこから出て来た。気付けばそれは、ある特定の木の側だ。元は自然薯の様なものなのだろうか? 日本とは違う。


 他にも、甘い樹液の木、冬眠中の蛇、食べられる虫のサナギは余計だったが、感知では分からなかった食べ物を教えてくれた。…まあ美味そうに感じなくて挑戦する気の起きないものだ。食材鑑定も万能ではない。毒でなければ何でも食ってきたが、あの桃とヤツ以外にあそこまで激しく反応した食べ物はない。あれは何か特別だったのだろう。


「それはまだ駄目だ。もう少しだ」

「キキッ!」


 そして、安全な寝床だ。猿たちは基本木の上で眠る。俺もハンモックに挑戦したが、やはり木の上は寝るには寒い。しかし近くに猿たちが居れば、警戒は猿たちがしてくれる。安心して眠る事が出来た。猿たちも暖かい。


 最後に火だ。猿たちと過ごしてその反応を観て、あらためて火について考えた。

 俺は極力、暗い中で火を使うことを控えて来た。火は目立つからだ。夜に光るものは月と星だけだ。自然界に光を発するものは少ない、そして火はもっと少ない。火山、山火事、落雷等による自然発火、火という高温の燃焼現象は本当に希だ。火を見ずに一生を過ごす生き物が殆んどだ。故に火の怖さを知らない、目立つという理由だけで寄って来る。火は獣避けにはならない。

 そして火を使おうとする生き物もいない。火は強力な武器だが容易に命を燃やす、環境を壊す。そして一度燃え広がればそれを止められるのは雨しかない。生きる場所を破壊する命はいない。火は点けて消すまでが火の扱いだ。そんな事が出来るのは知恵を得た人間だけだ。それが『地球』の話だ。


「こら、お前もう食っただろうが。他の奴にも分けてやれ」

「キャ?」

 感知で大体分かる。


 俺は魔法があるこの世界でもそれは変わらないと思う。この世界の魔法はどんな仕組みか理解できないが、ゴブリン、トレント、影虎と結構なんでも有りだ。しかし、それはそこまで無軌道ではない、生きる為に必要な力だ。そこに火は必要ない。火は強い、どんな生物よりも強い。火の魔法も火に対する魔法も、そんなものが必要な自然界なんて狂っている。進化する前に世界が灰になる。少なくともそんな化け物は森の中にはいない。

 実にファンタジーらしくない考察だが、この世界の魔法はファンタジーではない。生きる為の力だ、食べなければ使えない鉄砲玉だ。燃えカスと魔力だけで生きられるなら苦労はしない。


「おい! 触るなって言っただろ! 危ねーんだ」

「ウキャキャッ!?」


 火に耐性のある生物は非常に少ない。火に耐えなければいけない環境が無いからだ。だからこそ攻撃手段として優秀だ。俺も是非とも使いたいが同時に危ない。森の殆んど全ては可燃物だ、燃え移ったら自分も丸焦げだ。だから使えない。

 しかし、火の気配があるなら其処に人がいるという事でもある。火は人間にしか使えないのだから。俺はそれを探しに行こうと思う。


「よ~し食え! うまいぞ~。…だからお前はもう食うなっ!!」

「ウキャアッ!!」

 分かってるぞ。


 この先はかなりの危険が予想される。影虎の様に飢えず、力を落とさずに冬を過ごす生物達が居ると思われるからだ。それでも行くなら今しかない。この世界のサイクルは、命の燃える長い長い実りの季節と、耐え忍び芽吹きを待つ長い長い眠りの季節で廻っているのだろう。一年が長く、季節の差が激しいなら、そう予想できる。つまり…


「てめぇ!! だから触んなっつってんだろ!!」

「ッ!? シャーーッ!」

 お前もだ、分かる。

 

 …つまり、冬と春には全ての生物が大きく力を落としているはずだ。耐える力を魔力に頼っているのなら、皆弱っている。そして必死だ。追う者も追われる者も次の季節を目指している。だからこそ俺も――


「やんのかテメェ! こんにゃろがぁ!!」

「ウッキャアーーッ!!」

 ここは風呂ではない。上等だ。


 …え~と。俺も備える、それが塩作りだ。この鉱泉には塩だけでなく沢山のミネラルを含んでいそうだ。人間や猿などの雑食性の生き物には多種多様な栄養素が必要だ。栄養魔法がそれを今迄おぎな――


「くそっ! 髪引っ張んな!? 卑怯だぞ! 弱点を狙うなっ!!」

「ウギーーッ!!」

 なぜ気が付いたっ!? 何て事だ! 頭は無事かっ!?


 ――補っていたなら、それを解消してやれば俺は魔力を蓄えられる。そうすれば今よりも力は増すはずだ。魔法だって使えるかもしれない。恐らくそれが人g


「生意気なっ! 自分たちだけフサフサしやがって!! お前らに俺の気持ちが分かるかっ!!!」

「「「……キ?」」」

 鏡だ、鏡は何処だ? 文明は何処だっ!?


 ――なんだっけ? …え~と、…人間と猿は親戚だ。喧嘩する位には俺たちは仲がいい。



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