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正々堂々って 日常会話で使った事ありますか? 私はありません



 俺が足を踏み入れたこの場所を『猿の秘境』と名付けた。その名の通り猿が居たからだが、別に猿だけしか居ないわけではない。

 角兎やカモシカだっているし、デカい鷹やキツネの様なムササビの様なよく分からない奴もいる。そしてこの秘境最強は縞の薄い虎だ、やはりデカい。モフモフだ。

 その中では、この手と尾の長いモヒカン猿は決して強者ではない。


 生態ピラミッドというものがある、大まかに食物連鎖を表したものだ。ピラミッドの頂点は大型の肉食動物で、そこから段々と上の生物の糧とされる生き物へと下がっていく。弱肉強食だ。もちろんそれだけで一つの生態系を表現し切ることは出来ないが、この生態ピラミッドから分かる事は、強く大型な生物程その数が少ないという事だ。

 地球の人類は総数約70億に至ろうとしている。それに対して人類より強いとされる生物は、はたして全て合わせて億に届くだろうか? その答えを俺は知らないが、繁栄しているのは人間の家畜位だろう。糧を自分たちで作れる人類は食物連鎖の外だ。


 つまりだ、強いという理由でのさばっている野性は地球にはいなかった。異世界が如何なっているかは分からない、ドラゴンとかいそうだ。しかし今、この秘境で一番生命を謳歌しているのは間違いなくこの猿たちだ。


 何故なら、すんごく気持ちよさげに冬の温泉を楽しんでいるのだから。


「………」


 猿たちは言葉もない様だ。幸せそうに目を細めて、時々口を大きく開けてあくびをしている。羨ましい限りだ。目の前に広がる絶景の天然露天風呂を占拠する猿たちは、この秘境の勝者と言ってもいいだろう。

 俺のイメージでは猿といえば温泉だ。子供の頃に親に連れられ見に行った、俺より先に湯を楽しんでいた随分とふてぇ奴等だ。


(だがしかし! その楽園に今、最大の危機が訪れようとしているっ!!)


 勿論、猿たちを僻んだ俺ではない。

 俺の感知は、今は凡そ150m。平地ならば見た方が早い距離だが、雑多な地形ではかなり有効だ。その感知が、この秘境最強の生物の接近を捉えた。影虎だ! 自己主張が薄い、影の薄い虎だ。

 猫系の肉食獣が強者とされるのは、身体能力に優れるからだ。加えて攻撃的だ。デカく、力強く、俊敏でしなやかな肉体は、おおよそ捕食者として欠けたる所が無い。

 それが今、木々の中をゆっくりと息を潜めながら猿たちに近付いて来る。


 一方、のんびりしている猿たちにも見張り役くらいは居る。温泉を囲む木や岩の上で数匹固まって座り込んでいる奴等がそれだ。そいつらは何か異様な雰囲気を感じ取ったのか、頻りに頭をキョロキョロしだした。それを見て、くつろいでいた猿たちにも緊張が奔る。静かな楽園がより一層静寂に包まれる。


「………、キャキャキャッ!」


 そんな沈黙に猿たちの警戒の一声が上がった瞬間、事態が動いた。潜んでいた影虎がその獣性を解き放ち、一気に猿たちへ襲い掛かる!

 猿たちはまさしく阿鼻叫喚だ。統率も無く必死に、我先にとキャーキャー叫びながら散り散りに山林へと逃げて行く。しかし、気付くのが遅すぎた。何匹かは影虎に捕まり、その牙で噛み千切られ、その爪で引き裂かれ、その腕で踏み砕かれてしまった。

 猿たちの安息の時は終わり、今は侵略者の時間だ。揺れる水面が血に染まっていく。


(やべーな、アレ。なんまいだ~なんまいだ~)


 そんな光景を、俺は少し離れた岩山の頂上から見つめていた。感知の距離内だ、本当に近くそして高い場所だ。そこからこの惨劇の一部始終を見下ろしていた。猿たちの冥福を祈る。

 猿たちに降りかかった悲劇には同情を禁じ得ない。裸を襲う虎など、士道不覚悟である。せめて褌くらいは履かせてやれと言いたい。


(影虎って名前は改名だ、武士じゃねぇ。あれは変質者だ、虎のマスクを被った)


 影虎改めハイド仮面ヘンタイガーは、只今お食事中だ。ならばとばかりにいそいそと準備を始める。俺は俺の誓いに賭けて、あの強敵に挑まなければならない。


(俺は風呂に入らねばならない! そう女神様に誓ったんだっ!!)


 その為には、あの変質者は邪魔だ。あんな奴が近くに居るのではおちおち裸にもなれない。この世の極楽を満喫する為にも、この場からご退場頂こう。握る拳に力を籠める。


 目標はここから斜め下方、下70m、奥50mだ。そこにまずは投げ槍を投擲する。木を削っただけの棒を重力が誘うままに力一杯投げつけていく。


「ッ!? ゴルゥゥ…!」


 命中を期待してはいなかったが、殆んどの槍は大きく目標を外す。初弾で異変に気付いた虎仮面はしかし、周囲は湯煙に包まれていて見通しは悪い。しかもおれは湯気の昇る先に居る。もう暫くは見つかるまいと、感知を頼りにどんどん投擲していく。幾つかは命中しそうになるも、虎仮面は寸でのところで避けてしまう。


「ッ! …ゴルアァッ!!」


 近くに落ち始めた槍に、とうとう虎仮面は襲撃者の居場所を察知した。湯煙の先で殺意が膨れ上がるのを感じる。見えないはずの怒りの視線が俺を貫いた。


「…っ、来やがれ! この変態野郎っ!!」

「グルアァ~~~ッ!!」


 果たしてその咆哮は身の程知らずへの武威の発露か、それとも俺の失礼な挑発に怒髪天を突いたのか。虎仮面の命の光が爆発するのを感じた。そのプレッシャーは『普通の森』にいた熊坊やや猫の比ではない。


(っ!? 魔法か!?)


 そう身構えた瞬間に、虎の姿が掻き消えた。が、感知で居場所は捉えている。そう感じる位には驚異的なスピードでこちらに向かって突っ込んで来た。岩山の下に広がる林の中にまるで道でもあるかのように、雪を巻き上げながら瞬く間に走破したのだ。そしてその勢いのままに、俺のいる岩山を駆け上がる。


(…マズッ!? 次っ!)


 思わず止まってしまった手を再び動かす。こちらを睨んで駆け登ってくる虎を狙って岩や大きな雪玉を落とす。この岩山は垂直とは言わないまでも、崖と言っていい程切り立っている。その岩肌をジグザグに飛び、駆ける虎はその攻撃をスイスイ避ける。さすがに稲妻の様にとはいかなかったが、駆けるスピードはかなりのものだ。

 しかし、頂上に近付けば落下物は避けにくくなる。俺の頭ほどもある岩がとうとう奴を捉えたかと、その予測を裏切り、虎は空中に身を投げ出した。そして驚く間も落ち着く間も、ヤツは与えてはくれない。


「グルァ!!」


 そのまま落ちるといった手前で、ヤツは何もない空を蹴った! まさかの空中二段ジャンプだ、魔法って何でも有りかっ!?


「んなアホなっ!?」


 悪態を突くもヤツはもう目の前だ。直接戦闘では流石に勝ち目はない。俺は最後の望みを託して一際大きな雪玉を崖の下へ蹴り出した。


「頼むっ!?」


 天にも祈るその瞬間から、極限の精神が生んだスローの世界だ。


 ゆっくりと転げて行く雪玉。

 その行方も確かめられず勢い後ろへ下がる俺。


 吐く息が霞となって消える。


 崖の端から雪玉が空を掴む。掴めず落ちていく。

 その横に、ヤツの大きな足が掛かった。


 俺の心臓が大きな音を鳴らす。


 空へ消える希望、現れる憤怒の化身。

 その顔は、まさに悪鬼だ。牙を剥き出し、顰めた眉間の下の瞳は憎悪で燃え上がっている。


 突き刺さる視線が、殺意が、俺の思考を焼き焦がす。

 

 その全身が、抑え込まれた感情を吐き出そうと、俺の前に飛び出そうとしている。

 恐怖が俺の熱を奪う。手が足が喉が、凍り付いてしまったかのように動かない。


 今だ、こいつだ、引き裂いてやるっ! ヤツはそんな叫びを俺に叩き付けようとして…


「ッゴ!? ルルルアアアァァァァ~~~…………」


 そのまま網に絡め捕られて崖の下へと落ちて行った。


「………。………、?」


 想定外ではない、作戦通りだ。只、あまりに心臓に悪い光景に叫びも上げられずに固まってしまった。顔の引きつりが取れないまま、慎重に奴が落ちて行った先を確かめる。感知ではまだ微妙に生きている。

 上から覗く崖下には、雪に埋まる沢山の落下物、そして網に雁字搦めにされ横たわる虎仮面。その網の先は長いロープで繋がれ、少し離れた所にある雪の塊に続いている。網は始めから雪玉に繋げていたのだ。

 そうやって登って来た襲撃者を雪玉に引っ張られる網で捕らえ、崖下へ諸共落とす作戦だった。

 しかし、雪が緩衝材となってしまった様だ。それでも70mを受け身も取れずに落ちて、まだ息があるとは頑丈なヤツだ。しっかり止めを刺しておこう。


「影虎、討ち取ったりっ!!」


 ヘンタイガーはやっぱり可哀想かなぁ…と。セリフも決まらないし。



明日から全体の加筆修正を行いたいと思います

ですので少し更新お休みです


雨についての表記をすっかり忘れていた事に気が付きました

メタ的な事を言えば雨が降ったら主人公も魔力の真実に気付いてしまうからでしたが…

それについて言及しないのは…いや、手落ちでした


他にも色々ありますけどね、どうやって安全に野営してるかとか

勢いだけですっ飛ばしてしまった部分をもう少し丁寧に描いてみようかと・・・

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