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俺は カエル



 寒い環境にも生物はいる。火山にだって適応した進化もある。生命とは実に逞しい。だがこの世界の進化はどうにも解せない。


 先ずは定番のホーンラビット、角兎というやつだ。有名らしいが詳しくはない。メタ的な事をいえば、弱い生物に攻撃部位を付けただけの雑魚敵だ。そう考えると扱いが酷い。

 雪の中で枯草を食んでいたであろう角兎に梟みたいな大型の鳥が襲い掛かった時だ。角兎は梟目掛けて弾丸の様なジャンプを仕掛けてその角で串刺しにしてしまった。これはまあラノベによくある描写だ、吃驚するほどではない。自衛行為なのだろう、こんな進化があってもいい。

 しかし、ジャンプ時に横にピンッと伸ばした耳は翼のつもりなのだろうか? 


 次に見たのは植物だ、真っ白に雪で染まった灌木だ。何の変哲もない雪化粧かとも思ったが、白く冷たいであろうそれをムシャムシャと食べるカモシカみたいな奴を観ているとどうも様子が違った。

 この白の正体は雪ではなくて固まった油だった。この灌木は全身から油脂分を滲みだしてそれで葉や芽を寒さから守っているのだろう。そうまでして雪解けの季節を待たない理由はわからないが、普通ならそんなエネルギーは使わずに、散るもの散らして春まで耐える。

 カモシカもよくこれを食べる気になる、油タップリで胸焼けしそうだ。


 最後は氷漬けのデカい蛙だ、チワワ位ある。カエルの冬眠はある、普通は土の中だが。氷の中でも生きているのは、まあ魔力があるので可能だろう。氷を齧ってまで手を出す奴は普通はいない。

 だが、谷間の途中で見付けた渓流をこいつが氷漬けのまま何匹も流れて行く光景を見て思った。もしかしてこのまま下流の暖かい場所へ行く気なのかと。渡り鳥ならぬ渡り蛙だ。泳いで向かわないのは怠慢なのかエネルギーの節約なのか分からないが、氷が解ける頃にはここよりも過ごしやすい土地だろう。

 そしてまたここに戻って来るの? そうじゃなきゃ只流されるだけの間抜けな事故だ。


(…ここにカエル)


 兎に角、こんなおかしな生き物たちも俺にとっては有難い。全部食えるからだ。…全部、食えるからだ。


 そんな不思議な自然と触れ合いながら、山間の緑と山肌の白とを行ったり来たりして山脈を進んで行く。谷間から尾根へ峠へ、そして谷間へ。その繰り返しだ。夜の寒さには流石に身の危険を感じたが、小さな鎌倉を作ってその中で暖を取り耐えた。

 しかし意外にも一番大変だったのが、アレな話なのだが…排泄行為だった。吹き荒ぶ冬の大気の中では、それをすると体温が下がるのを物凄く感じた。色々凍りそうで危険だった。


 予想もしていなかった残念な危機の潜んでいた雪中行だが、いい結果も出た。期待していた身体強化の件だ。


 俺の今の体型はマッチョ手前の細マッチョだ。この世界に来た時の細身の締まっているだけの身体からしたら随分と逞しくなった。今では見るからにアスリートの様な立派な鍛えられた筋肉を纏っている。それを自覚した時にはボディービルダーみたいについついポージングしてしまった。


(…鏡が欲しい)


 スタイルって気にならない?


 しかし、魔石を飲んでから暫くすると、明らかに体型以上の力を出せた。身体のキレが増し、体力が漲り、装備の重さを軽く感じた。といっても異常な程ではない。アマチュアがプロになった、カレーを一晩寝かせたら美味しくなった程度だ。…なんか例えがイマイチだ。

 要するに、雰囲気だ。見た目以上であって異常ではない。比べれば分かる程度だ。身体を鍛える範囲で十分に実現出来る。


 だが、かなりのお手軽感だ、ドーピングだ。魔石を摂取し続けないと失われる力だが、今はとてもありがたい。ようやく異世界の生き物達と同じラインに立てた気がする、自分の生命力がより強く輝くのを感じる。

 自分の身体の中に魔石が出来たかといえば、そんな存在は感じない。何か魔法を使える様な感覚もない。今の力が溢れる状態はあくまでこの世界の『普通』なのだ。俺は今まで腹減りゴブリンだったわけだ。やはり生命維持の少なくない部分を魔力に頼っていたのだろう、魔力が増せば余剰となった力が溢れてくる。


(という事は、他の生物も万全の状態であればもっと強い可能性がある。…飢えていなければゴブリンももっと強いのか?)


 『普通の森』の動物達は多少の差はあれ基本的には腹ペコだった。トレントの大移動と冬の季節が原因だろう。異世界の生物は飢えにはかなり強いが、能力はその時のコンディションに強く左右されるのかもしれない。そう考えると俺の生存はかなり奇跡的だ、全てが弱っているタイミングで森の中を進めたのだから。


(神様、女神様。私は今後とも清潔に過ごす事を誓います。ですので、どうか以後も変わらず手厚い加護をお与えください…!)


 俺は必死に祈った。強くなったと思ったら周りがもっと強い可能性が出てきた。動物だと思っていた者達が、実は魔石を使い切った魔物でしたとかなら洒落にならない。このまま冬が過ぎ去れば周りは猛獣だらけになってしまう。飢えた野獣だ、怪物の巣窟だ。もしかすれば魔法をバンバン使いまくるのかもしれない。その想像に恐怖した。


 俺はより一層、足を速めた。


(あぁ、お守り、ゴブリン君の魔石は何処だ?)


 俺の前に初めて立ちはだかった君を、弱いだなんて思った事は無い。だから俺を守っておくれ。



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