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ARが実現すれば オナラにもタグが付くのでしょうか?



(神様、女神様。確かに私は最近、身綺麗に過ごしておりません。しかしこの試練、果たして清潔な生活に繋がるのでしょうか?)


 俺の前後は歯を剥き出して唸るニ勢力。一方は1匹で、もう一方は12匹だが恐らく力は互角だ。今は俺を挟んでお互いに睨み合って動かない。俺も動けない、まな板の鯉状態だ。

 俺はヒロインを探しに来た訳だが、こんなキャットとドッグのファイトなハーレムは御免だ。一体、俺のどんな魅力が彼女達を惹き付けるのか?


「グルルルゥ!」

「ガルルルゥ!」


 ヤツ等は感知の外から一直線にこちらにやって来た。とすればずっと俺を見ていたのではなくて臭いを辿ってきた?


(…やっぱり臭いと? 女神様の導きは正しかったのか!?)


 しかし、事ここに至っては体を洗っても意味はない。ヤツ等からは「美味そう」とか「いい臭い」とか「自分の獲物だ!」といった感じの感情がただもれだ。

 そんな現実逃避はほどほどにして、この状況ホントどうしよう? こんな時の対処法なんて予習にはない。いや、逃げるのは確定だが、どうすればいいか…。

 コイツらは俺を追って来た訳だが、俺が狩りやすい獲物かといえば答えはNOだ。確かに俺は隠れもせずに進んで来たが、痛い目をみせられたコイツらが、何故まだ俺を狙うのか分からない。そこらの慣れた獲物より「美味そう」とか「いい臭い」って何?


(…魚か?)


 そんな答えが閃いた。…イヤイヤイヤ、そんな馬鹿な。だがしかし、…えぇ~、んなアホな。

 と、いうことで答え合わせだ。ザックから魚の干物を取り出してヤツ等の目の前でプラプラさせてみる。


「グルル………。スンスン!」

「ガルル………。ハッハッ!」


 …めっちゃ反応した。ガン見である。干物が動けばヤツ等の首も揃って動く。もう視線が釘付け状態だ。


「………」

「「………」」


 俺達は互いに無言だ。しかし、その目は何より雄弁だ。ヤツ等の目には欲望しかない。俺の目には冷めた呆れしかない。


「…それっ」

「!? ゴルゥッ!?」


 豹に向かって干物を投げる。ヤツはそれはもう見事な反応で干物をジャンピングキャッチした。同時に後ろが殺気立つ。しかし俺は慌てない。ザックから次を取り出して投げる。


「そらそらそらっ!」

「「「!? ガウガウゥッ!?」」」


 奴等はもう干物に夢中だ。俺が丁寧に、丹精籠めて作った干物だ、美味かろう。塩味なんて無くても日干しと陰干しで旨味がでた自慢の逸品だ。大満足だろう。

 俺は調子に乗って投げまくる。


「はぁ~はっはっ! そ~れ取ってこい!!」


 顔は満面の笑みだ。しかし目は笑ってはいない。声と共に投げる干物は全力投球だ。出来るだけ高く、遠く。おかげで奴等は舌と涎を垂らして全力疾走だ。その姿は最早野生ではない。只の猫と犬だ。

 大量の干物を獣共に放出し、残りの干物も地面にドサリと落とす。後は勝手に争い貪ってくれるだろう。俺は軽くなってしまったザックを背負い直し、一目散にその場を逃げ出した。


 ………

 ……

 …


「………はぁ」


 暗くなり始めた森の中で、パチッと弾ける焚火を見つめながら溜息を吐く。考えているのは今回の出来事だ。はっきり言って大失態だ。只今、脳内反省会中である。

 俺はやはり考え違いをしていたのだろう。自然がどうとか野性がどうとか、知識に頼って頭でっかちに思い上がっていた。自分なりにベストを尽くしては来たが、それの及ばない世界は当然ながらある。…それがどんなにバカらしい事でもだ。


 あの猫と犬は御馳走欲しさに俺に挑んできた。俺には理解できない行動だ。だが、野性を完全に理解している人間なんていない。猛獣に襲われる猛獣使いも、動物に育てられる人間の子供もいるんだ。見える世界が違う生き物をこちらの推量で計る事は出来ない。

 そこに絶対の安定を求めたからこその理性であり文明だ。人間は知恵と尽きせぬ欲望で以て自然を切り開いてきたのだ。人間が築いたルールの中に、俺は今、生きてはいない。


 今必要なのは、野性を圧倒出来る俺Tueeなのかもしれない。しかし今すべき事は、ありのままを謙虚に生きる事だ。『人間らしく』生きるには自然は厳し過ぎる。干物なんて食料と歩いていた俺はさぞ美味しそうな獲物だったのだろう。考えが甘かった。俺はカモ葱だ。

 だがしかし―――


(奴等は何も分かっちゃいない。魚の干物は炙るのが一番美味いんだ!)


 非常に食欲をそそる匂いが鼻をくすぐる。身から滲み出てきた脂がパチッと音を立てて弾ける。只の干物よりも数倍旨そうだ。その味を期待すれば思わず口の端が吊り上がってしまう。


(ふっ、野性に火は使えまい。この味はお前達には味わえない文明の味だ。)


 試合には負けたが勝負には勝った。人間の勝利は生存ではない、贅沢だ。心を満たすものがあれば人は誰よりも勝者だ。具体的には、ザックのサバイバルシートに包んで仕舞ってある干物分、俺は勝者だ。これでは匂いも辿れまい。


「はぁ~はっはっ!!」


 酒が無いのが残念だ、これでは勝利に酔えない。ここは文明じゃない。


「…アオ~~~ン!!」

「………」


 負け犬の遠吠え、ではない。遠吠えってなんだっけ? 仲間を呼ぶ声で合っていただろうか。毒は分からなかったくせに、まったく都合のイイ鼻だ。

 俺は素早く火に土をかけ、干物を咥えてその場を離れた。



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