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偏在する と言えばカッコイイ



 文明を目指すといっても、あの雪山の向こうに在るとは限らない。エルフも獣人もいるとは限らない。人間さえも見たことはない。

 ならば、百聞は一見に如かずだ。俺の知識より、ラノベ知識より、大自然の軌跡よりも、まずは目で見て確かめよう。

 異世界のあらゆるモノが俺を惑わそうと現れる中、俺は俺の目だけを信じている。だからどうか行かせてくれと、俺は懇願する。

 

「…嗚呼、ゴブリンよ。君は何故、立ち塞がるのか?」


 森の動物は見通しの良い所には出で来ない、腹が減っていなければ。外に獲物が見えれば襲って来もするだろう。

 しかし、しかしだゴブリンよ! 俺はお前ら何食分?



 ・

 ・

 ・


 

 雪山までは道が出来ているとはいっても、その道は荒れているし距離もそれなりにはある。

 食料は有限だ。俺は移動しながら狩りを出来るほどの狩人ではない。鍛えたのは自衛手段であって、狩猟技術ではないのだ。

 臨死体験を経て習熟した隠密魔法は、移動時にもそれなりに使えるようにはなった。しかし姿が見えなくなるわけではないからコソコソと獲物に近づく何て出来はしないし、敵からも隠れきれない。

 感知の能力は今のところ俺とトレントくらいしか使えないようだが、俺の場合は強敵を避ける為にしか使えない。

 そんな俺の食料調達は『やられたら殺り返す』だ。弱い俺には命懸けだ。


 ならばとかなりの急ぎ足でトレントの道を進んでいた。今進むトレントの道の幅は100m位だろう、それなら道の中央から俺の感知で両サイドの森の中までばっちり見える。そして森の中から俺は見えない。

 だから安全だと、そう思っていたらばっちり待ち伏せされていた。


 前方のゴブリン達は約10匹、それが両サイドの森の中に隠れている。少なくとも奴らはそのつもりだろう。

 奴らは別に俺個人を狙っているのではない。恐らくここを超えて進むヤツを待ち構えているのだ。

 しかしだ、森の中からゴブリン10匹の背中は丸見えだ。そこにひょいと出て来る獲物は俺みたいに道の真ん中を進む奴しかいない。何故奴等はこんな作戦を思いついたのか…。


 兎に角だ、俺にとってはゴブリンの作戦はばっちりはまってしまっている。最初から獲物を待っていたゴブリンに、俺はロックオンされてしまっている。

 ゴブリンはタフだ。そいつ等との集団戦はかなり拙い、しかも挟み撃ち。

 だが距離はある。俺が一度に相手にしたことのあるゴブリンは4匹までだが、5匹相手に出来ないとは感じなかった。両サイドの内の片方をサクッと素早く片付ければやれない数ではない。

 出来れば安全策を採って逃げたい。しかしそれでは前に進めない。


(行くぞ!!)


 そう決めるや否や、右前方へ全速力で駆けだす。時間はかけられない。

 ゴブリン達はまさか俺の方から突っ込んで来るとは思わなかったのか、慌てた様子で森から出て来る。後ろからもギャーギャーと喚きながら追いかけて来るゴブリンを感じる。


(ゴブリン、破れたり!)


 俺はゴブリンの策の失敗と自分の策の成功を確信し、ニヤリと笑う。


 が、


「「「ギュガァーー!!」」」


 ゴブリンは なかまを よんだ!


「「「ギュガァーー!!」」」


 おかわりだ!!


「………は?」


 俺が森に近付いた時、さらなるゴブリンの存在を感知してしまった。

 仲間の叫びに呼応して、次々と応やの声が上がる。そして俺が進むはずだった道に、ゴブリン達がドタバタと走り込んで来る。その数大体50匹。


「―――バカな…」


 その光景を見つめ、俺はこう思った。…バカな。そんな馬鹿な話。


(俺ってそんな太ってるかな? 喰いで…ある?)


 いくら何でも50匹で食える程、俺に肉はない。いや…一匹1kgあるか?

 しかしそんな俺の疑問を余所に、隊列もなしに好き勝手に喚きながら突撃するゴブリンの目は本気だった。本気で獲物一匹の為に大集団で待ち伏せしていた! ゴブリンってそんなに狩り大変なの?

 

「「「「「ゴォアアアーーー!!」」」」」


 それは兎も角、ここからさっさと逃げなければならない。いくら何でも50匹は無理過ぎる。あまりに衝撃的だったゴブリンの食料事情には涙を禁じ得ないが、俺も餌になるつもりはない。

 俺は瞬時に決断を下す。上等だ! やってやんよ!! 目を吊り上げてゴブリンの集団へ突っ込む!


「うおぉぉぉーーーー!!」


 ノリだ、ついノリで突撃を選んでしまった。だが言い訳はある。後ろに逃げるのは簡単だが、こんな連中、付き合うのはここで終わりにしたい。狙うは正面突破だ!

 目の前に迫るゴブリンに向けて盾を掲げ、叫びに力を込めてブチかます!!


「邪魔だぁ!!」

「グギャッ!?」


 盾に弾き飛ばされるゴブリン。だが止めはささない。一匹一匹に構っていたらあっという間に囲まれてしまう。密度の薄い場所へ勢いそのままに駆け出す。

 ゴブリンは力は強いが矮小で鈍足だ。囲みに穴はいくらでもある。


「おぉぅらぁ!!」


 どんどんと集まって来るゴブリンに盾を、槍を、肩を肘を、ひたすらに叩き付ける。何度かゴブリンの棍棒をもらいはするが、自分の作った防具を信じてひたすら耐える。

 まるでアメフトのランニングバックだ。だが俺はヒーローじゃない。悪質なプレイで罵声をもらうヒールだ。それでも退場なんかしてやらない。


「ぅぅぅらあ!!」


 こんな腹ペコどもに負けてやれるか! 俺はおやつじゃない!!


「ぐぅおおおお!!」


 右から左から飛び掛かるゴブリン達を弾き飛ばし、躱し、振り切って、俺はとうとう包囲網を抜け出した。


「―――俺の、勝ちだ!!」


 俺は奴らに勝利を宣言する。もうお前等がおれに追いつく術はない。勝ち誇った笑顔で逃げを打つ。困難を突破した今、気分は晴れやかだ。


 ………。


 しかし、そこからがまた拙かった。ゴブリンは体力もタフだった。あとはマンモスと原始人の追い駆けっこだ。後ろを振り返ればゴブリンがいる…嫌なフレーズだ。走る、休む、追いつかれるを繰り返して、もうクタクタだ。

 結局、三時のおやつ争奪戦は午後6時まで終わらなかった。


(…おお、ゴブリンよ。お前は何故、生きている?)


 その方法、教えてください。



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