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『忍ぶ』という行為は客観性が無いと主張できません 自己アピール出来ない忍者って大変なお仕事ですね



「…ハァ~。潮時か。」


 目に映る光景に思わずため息が零れる。

 あれだけ見事に茂っていた山の緑が、今はポツポツとまばらに寂しく散見されるだけ。まるで朝に剃り残したヒゲの様だ。これは何も昨日今日で禿げたのではない。

 最初は小さな空白だった。それが所々に飛び火して、広がって、つながって。河童達はドーナツ化現象を経て衛星軌道への離脱を図り、もはや過疎化は加速するばかりだ。これを回復するには長い時間を掛けるか植樹するしかないだろう。

 俺は悲しみの眼差しで、その推移を思い出していた。せめて自分のモノは労わって遣りたいと父親と祖父の顔を思い浮かべつつ、文明を目指す決意を新たにする。


(今じゃない。未来の事を考えるんだ。)


 俺は魔法の可能性に期待した。…山の話だ。


 ここから旅立つために荷物をまとめる。持って行ける物は多くはない。身体は鍛えたが装備も重くなり、食料と水も持ち歩くからだ。毒液も、もう残り僅かだ。幾つか日本からの持ち物も置いていく。頼るものが失くなっていく。少し寂しくなった。


(今まで、ありがとう。世話になった)


 最後に、鋭い冷たさを湛える湖畔の風景とそこにポツンと寄り添う風呂を目に焼き付ける。


「…さいなら」


 俺はその場を後にした。


 ………

 ……

 …


 進む方向は山だ。今まで頼りにしていた大地の亀裂はもう必要ない。あれには水や食料の期待は出来ない。進む先にも希望はない。ならばせめて自分のいる場所を確認したい。山の頂上を目指して歩く。


 足を進める『普通の森』は特徴が無い。只の木、枯れた草、隠れるリス、鳥の囀り。今は冬だから動物の気配は小さい、寒さを耐えているのだろう。

 少し色褪せて見えるのは仕方がない。俺にとってはありがたいのだが、雪化粧をされていない冬の山林というのは侘しい。何だか無常だ。

 そこに時たま――

 ――ピキ、パキ、ポキとか、

 ―――ミシ、メシ、キシとか、

 ――――ズーン、ドーン、バーンとか、

 そんな音が響いている。木が泣いている音だ。その度に鳥達が騒がしく飛び立っていく。広い範囲、森全体がきっとこんな感じだ。

 森が喰われている…といった状況だ。みんな逃げだすわけだ。その犯人たちに俺は突っ込んでいかなければならない。


(…憂鬱だ)


 偵察して奴等の事は分かっている。

 力強い太い体躯に見上げるような高さ。亀の様な歩みだが恐らく数は数百、ともすれば数千にものぼる。まさしく壁や山が迫って来る様だった。そして命の輝きは強すぎて、まるで周りを焼き尽くす太陽だ。

 そんな奴等がこちらに好意の欠片もなく木々をなぎ倒しながら近付いて来る…敵う訳がない。


(……絶望的だな)


 おまけにそいつらは魔法を使うのだ。ゴブ魔法みたいなチンケな訳の分からない魔法ではない、正真正銘の魔法だ。風で生き物達を吹き飛ばし、地面を裂いて飲み込み、血煙を操り啜っている。

 初めて見る神秘に、感動よりも怖気しか湧かない。


(………死にたくない)


 それに、挑まなければ、ならない。

 この世界は正に弱肉強食だ。そんな事は分かっていた。

 それなのに俺は、必死にと言いながら、結構暢気にやってきた。

 その代償が、この現実なのだ。

 

(奴等からは…逃げられない。逃げ場はないんだっ!)


 そうは思ってもこの現実を跳ね返す力が、俺には無い。

 現実を見れば見るほどにネガティブな思考に陥っていく。

 暗く沈む俺の心を表すかのように空が曇ってゆく。進む歩みが鈍ってしまう。


(…俺には、無理だ…)


 近付いて来る轟音。迫りくる威容。ゆっくりと、見せ付けるようにその圧倒的な気配が姿を現す。

 俺はそれを見上げ、遂に足が止まってしまった。


 俺は虫けらだ。こいつ等の前では、俺は塵芥に過ぎない。


 ―――俺は、無力だ。


(俺はここで、土に還る)


 許しを請うように跪く。それでも足りないと蹲る。


 そして俺は目を伏せて、命の光を閉ざした。


 ………

 ……

 …


 ―――と、いう流れで、俺は隠形する事に成功したわけだ。

 …分かっている、とても虚しい。でも気配の隠し方が、これしか開発出来なかったんだ!!


 命の光を隠そうと思ったら、生きる行為を慎まなければならなかった。息を殺し、鼓動を抑え、心を空にする…だけじゃなく気力を消し去ったら上手くいった。

 これにはかなりの努力を要した。だって頑張れば頑張るほどに、生きる気力が湧いてきてしまうのだ。逆に成功しても上手くなっても、気持ちを上げずに精神を殺さなくてはいけない。ひたすらマイナス思考だ。自分を罵り続けた。コツを掴む頃には軽く鬱だ。


 ちなみに、俺が隠形してから立ち上がるまで一週間ほど経っている。

 岩場の上で体を丸めた俺の、その横を通り過ぎて行ったのは大量のトレント達だ。

 動く木だ。顔はない。冬の寒さの中、アイツ等だけが青々とした緑の葉を揺らしていた。こいつは俺が、俺以外で初めて出会った命を感じる能力を持つヤツだ。顔無いしね。

 実力や生態は言った通りだ。進む先にある生物達を薙ぎ払って喰らっていく。山の緑は大部分がアイツ等だったのだ。気付いた時にはもう周囲は包囲されていた。


 その事実に、俺は自ら必死に絶望することで立ち向かった。


「それがこの俺の、隠形魔法だ!!」


 俺は胸を張った。だってそう言わないと説明できない。なんだよこの方法!?



この話、もう少し流れを何とかしたい

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