知る事を恐れてはいけません 叡智の光が貴方の暗闇を祓うでしょう
発見できた素材は満足のいくものだった。
鎧豚の皮、サイ鹿の肩甲骨、機銃キツツキの嘴。鉄の木の枝、サボテンの木の皮、ヤスリの葉。甲虫の鞘翅多数。他色々。魔石はナマケマジロのモノだけだ。
これらで装備を作りたいのだが、はっきり言って素人のお遊びである。俺は真剣だが。
基本は、切る、結ぶ、削るだ。それをするにも大変に力を使う、頑丈だからだ。本当は接着とかもしたいのだが膠がない。今まで使っていたのは血や果汁で健などを煮詰めた代用品だ、接着性は低い。これを貴重な素材に使って無駄にしたくはない。使っている途中で壊れたりしたら危険だ。
そんな理由で出来たのは、皮の貫頭衣、骨の手甲と脛当て、嘴の槍、爪の鉈、だ。一応頑丈に作ったが、加工は最低限だ。それ以上は腕が攣る、時間を掛けよう。
残りの素材は大事に取っておく。これらを加工できれば強力な装備になりそうだ。俺は弱いからな、装備に助けてもらおう。
それでは、風呂を作りに出発だ!!
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川を頼りに奥へ、そして山へ向かって歩いていく。そう、目の前には小高い山が見えている。そんなに険しそうには見えない。山頂は緩やかな曲線を描いている。マグマが噴火してたり、山肌が覗いていて崩れそうといった事もない。普通の山だ。木々が綺麗に生い茂っている。
しかし、それならゴブリン君は何故こちらに来たのだろう?
ちなみに、魔力を使い果たしたゴブリンからは魔石は見つからなかった。いや、本当に砂粒みたいな欠片なら在ったが、それが魔石かどうかは分からない。犬も改めて探してみたが何も見つからない、只の犬だ。
(魔石って魔力使ったら減るの? じゃあ回復したら大きくなんの?)
さらに謎が深まった。
俺の魔力はゴブリンより少し小さい、輝きは同じくらいだ。なんと表現すればいいのか。LED、豆電球、白熱灯、大きさ、発色、輝度、それぞれ色々な照明がある、といえばいいか。
これらが状況によって、また様々に変化する。それを『小さい』から『弱い』とか、『明るい』から『強い』とは単純には感じないのだ。分かるのは有無だけだ。
それが魔石になれば全部固定だ。まるで規格化されたみたいだ。しかし、個体の強さと魔力の強さ、魔石の有無、魔法の存在、全部バラバラだ。条件が分からない。
魔力についてあれやこれやと考察しながら『悲痛の森』を歩くこと数日、途中であまり見たくないものを発見してしまった。ポツリポツリと白い異物が視界にチラつくのだ。動物の骨だ。
お馴染みのゴブリンや犬はいうに及ばず、鹿、猿、蛇、大トカゲ、多分そんな生物の骨だ。そして森で出会いたくない熊、猪、虎? の骨まで見つけてしまった。
こんな有様になった原因はいくつか考えられる。
こいつ等より強い生物に襲われたかで逃げてきて、ここでバトルロワイアルしてしまったのだろう。疫病は考えたくない。俺の居るところまで来なかったことだけは幸運だった。
兎に角、自分達のテリトリーを離れざるを得なかった、そして『悲痛の森』では生きていけなかった。そんな感じだ。
…こんなモノを見てしまったから、俺は魔法の力に頼って如何にかしようと考えていたのだ。
(進みたくな~い。引き返した~い。でも食料がな~い)
犬の肉の燻製は多くない。しかしこの先に獲物が居るか分からない。可能性は魚ぐらいか。
一体この先で何が起こったのか。遠い空に突き出す山からは異常を感じられない。実際に山へ近づくにつれ、森は穏やかに変化していっている。『悲痛の森』の木々達は山までは続かないだろう。
しかし、そんな俺の不安をよそに道程は順調だった。なんの障害もトラブルも無く『悲痛の森』をぬけてしまった。そして、俺は、遂に! 求め続けたものを!! 見つけたのだぁ~~~!!!!
「ううおぉぉ~~~!! やった、やったぞぉ~~~!! フゥ~、まったく梃子摺らせやがってこの野郎~ぅ馬鹿野郎~ぅがぁ!こちとら毎日毎日来る日も来る日もずっと、ず~~っと恋い焦がれてたってんのに澄ました顔して『あら、今日は』ってかぁこんちくしょうがぁ!! 嗚呼、こんにちは。この時を、ずっと待ってました!!」
俺はルパ○ダイブした。
木々を抜けた先は開けた空、そして広大な湖だった。湧水が豊富なのだろう、水は澄み渡り、キラキラとした光を散りばめて、蒼く、蒼く輝いていた。川は結局、地の底を這ったまま。そこへ湖が膨大な恵みを注いでいる。
水鳥達が俺の歓喜の声に驚き、一斉に飛び立って行く。照り付ける太陽の元、季節は今――冬だった。
「アバババババ!!」
落ち着いていられるか!!
震える体で如何にか焚火を用意して、裸になって暖を取る。毛皮を羽織って身体中を手で擦っていく。我ながらバカな事をしてしまった。俺は自分が恥ずかしい。
反省しよう、後悔もしよう。しかし、それでも我慢できなかったんだ!
時が経ち、体の震えも落ち着いてきた。長い枝を用意して焚火のそばに組み上げ服を干す。三か月のサバイバルで結構ボロボロだ。時間の流れを感じ、思い耽ってしまう。
暖かいものが飲みたいなと思い、手鍋を準備する。湖に水を汲みに行き、その光景の美しさにあらためて感動してしまう。日の光と魔力の光で、言い表せないほど幻想的だ。
(ファンタジー万歳!)
ガスバーナーに手鍋を仕掛け、水を沸騰させる。そして、今まで出番のなかったドリップのコーヒーパックを取り出した。久しぶりの味を思い浮かべて笑みが零れてしまう。
お湯がポコポコ沸きだした。珈琲にお湯を注ごうとして…
(…光ってない?)
お湯に魔力の光を感じない。
…湖に向かい、冷たい水を両手で掬い上げる。
キラキラと光る綺麗な水だ。
俺は覚悟を決めて、バシャバシャと手を洗った。
…手は、光っていなかった。
(…もしかして、雑菌ですか?)
世界は生命で満ち溢れていた。




