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現実の推理推論という試みは 沢山の方々の協力で行われています



 自然界に存在する毒物は意外と多い。只、自分たちの生活圏内には見当たらないというだけだ。誰だって『毒のある生活』なんてしたくはない。

 毒の判別法は大きく二種類、感覚と経験だ。何も毒だけではない、『判断』とはその様なものだ。

 見て、嗅いで、触って、食して、体感して毒だと分かる。これは危険だ。最悪死ぬ。この体感を元に、何が毒かが伝えられ研究され分類されたものが人類の経験だ。

 人間は高級な知能で以てして生活から毒を遠ざけ、毒を利用してきたわけだ。それは生きる者にとっては当然の選択だ。

 だから、俺はこの『犬』に問いたい。


「なんでやねん」


 俺の中での狼のイメージは、強く、賢く、格好いいだ。間違っても食事中に倒れるサスペンスの被害者ではない。

 こいつは自分の野性で以て、この俺が可哀そうになる結末を回避できなかったのだろうか? 鼻か? 鼻が短いからか? ゴブリンは毒さえ隠す体臭か!?

 …いけない。落ち着かなければならない。


(……いいやもうどうでも)


 俺はさっさと犬を解体し次の獲物を探すことにする。…しかし傷のない毛皮はうれしかった。


 俺は対狼モドキ戦の装備として、色々と準備をしていた。棘を使ったマキビシ、木の実の皮で作った盾、鋏クワガタの頭が穂先の投げ槍、などだ。

 ラノベ知識とか学生時に勉強した戦史とか会社で叩き込まれた思考法だとかで作戦とかも考えた。ローテクサバゲーだと思えば少し楽しかった。

 が、そうした努力が何だか空回りしているように思えてならない。現実は想定の斜め上でカバディをしている。何が正しいのかどう転ぶのか見当がつかない。カバディのルールを教えて欲しい。


 しかし、そうした準備は確かに俺の力になった。

 今のおれのスタイルは防御からのカウンターだ。犬の毛皮を二重で着込み、木の実の盾で防ぎ身を守っている。攻撃が通らないなら冷静に状況を判断できるし、安全に戦闘の経験を積める。

 あれだけ強敵に思えていた犬はもはや駄犬だ。ゴブリンと同じでしっかり対策と経験を積めば、落ち着いて対処できる。集団相手はたまにヒヤッとするが、まだ何とか出来る。

 何より俺は相手の感情が読める。攻撃のタイミング、恐れ、怯み、驚き、不安。それを感じながら戦うことで、自分の行動が最適化されて行った。


 そうしている内にこの世界に来て二ヶ月が過ぎようとしている。不味い犬肉を噛みしめながら、いいかげんに人類と触れ合いたいと考えていた。人類いないんじゃない?

 ここに来た当初より随分状況が変わってしまった。魚を捕るつもりが犬を狩り、日本に帰るつもりが今は冬越しの準備に追われている。もうここに家でも建てそうな勢いだ。

 だがしかし―――


(―――風呂に…入りたい)


 この想いだけは切実だ。自分の汚れに犬の毛もう説明しなくていいだろう! 髪からだアライタイィ!!

 落ち着いてなんかいられるか! 人類より文明より先に、俺がここで風呂を拓いてやる!!


 ………。


 決意を新たにした俺は、早速準備を始める。風呂の準備じゃない、旅の準備だ。

 ここには水がない。元々水源を目指して進んできたのだ。我ながらよく生きているものだ。結局、雨は一滴も降らない。こんな場所に用はない。

 思わぬ敵に行く手を阻まれていたが、それもクリアした。最近は奴らも少なくなってきた。もう品切れなのだろう。しかし、今から向かうのはそんな奴らが逃げ出してきた…かも知れない場所だ。今の装備じゃ不安がある。


 そこで考えているのは、この森の大型草食獣たちの素材だ。あいつらは硬い皮膚や歯、爪を持っている。

 別に倒そうなんて思ってはいない。生き物なのだ、死骸や骨くらい落ちているだろう。それを探しに川沿いから離れ、奥へと向かう。


 冬も間近になり、『悲痛の森』もだいぶ静かになり始めた。ゴブリンの痛々しい叫びも聞こえてこない。そんな中を、地面に落ちる甲虫の亡骸を集めながら進む。

 いい槍の材料になりそうな倒木もあるのだが、如何せん硬すぎて加工できない。これは草食獣の素材でなんとか加工したい。

 そうやって道々物色しながら進んでいくと、大きな気配をちらほら感じ始める。現在の感知限界は70m程だ。

 感知に反応するのは輪郭光や属性光や意思だ。そんな中に『何も感じない』魔力がある。魔石の反応だ。


(ゴブリンじゃない)


 魔力の強さが違う、とても強い輝きだ。何の亡骸かはこの場所からは見えない。しかし光の輪郭を丁寧にたどれば、それは白骨だと分かった。


(しかしこれは…ナマケモノ?)


 感知した場所には地面に半ば埋もれた骨とボロボロの外殻があった。それらを丁寧に掘り起こし素材を確保する。いいものが手に入ったと、ホクホクと笑みがこぼれる。


(こいつは魔物じゃない…と思っていたけど。それとも魔力が強ければ魔石を持つのか?)


 魔石があれば魔物なんて区分は人間が設定したラノベの世界だ。襲ってきてもこなくても、魔石は有るし俺より強い。意味のない視点だった。しかしこのナマケマジロはゴブリンの様に変な魔法を使っていただろうか?

 手に取る魔石はゴブリンよりも大きい。最初のゴブリンが1cm、ゴブリン君が2cm、ナマケマジロが形が変わって板状の5㎠だ。そしてこの板状魔石は割れた外殻から出てきた。生態によって場所も形も変わるらしい。


(大きさ=魔力量? それは合ってると思う)


 魔力について考える。

 俺の魔力も確かに増減する。だが今のところ、そのタイミングは体力とイコールだ。そしてゴブリンは根性で攻撃を耐えていたのではないし、ゴブリン君は魔力を消費せずに天に召された。ナマケマジロは強くて魔石があっても魔法を使ってはいない…いや見ていない。魔石と魔法は関係ないのか? 魔力を使えない俺では分からない。


(そういえば、魔力ゼロの魔石は見た事ないな)


 次にゴブリンにあったら確かめようと心に決めて、また素材探しを再開する。



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