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日常からの 非日常

初めまして、初投稿です。

勢いだけで書いてしまいました。



 土曜日の午後、俺は今、山道を歩いている。理由は単純に登山が趣味ってだけだ。月に一回の頻度で自然の中に身を浸せば、心も体も浄化される。そんな気がするから社会人になっても続けている唯一のものだ。

 日頃の運動不足の解消もかねて、ペースは速め。体力を落としたくないし腹も出したくない。中高通して大して真面目でもない陸上部員だったが、運動自体は好きだった。その名残だ。

 時々すれ違い、また追い越す人達と挨拶を交わしながら、そして時折立ち止まり、周囲の景色に目を細めながら、今という時間を楽しむ。

 そんな『黄昏てる』自分が、なんだか恰好つけてるみたいで、可笑しく思いながら只々黙々と歩みを進めていく。


 日が傾きだした頃、キャンプ地に着く。と言っても周囲には誰もいない。この辺りの山は、所謂初心者向けの大して深くも高くもない日帰りが基本の場所だ。

 『キャンプ地』と言ったのは、今日登った山と明日登る予定の山の間、ちょうど峰に当る所を勝手に拝借しているだけだ。


 ここで一人、夜空を眺めるのが最高に気持ちがいいのだ。ボッチの様だがしかし、俺はここにボッチになりに来たのだから問題はない。やっぱりこんな『秘密基地』的な場所は、幾つになっても心躍るものだ。

 ここで心を軽くし、自身を振り返り、初心を思い出す。自問自答、色即是空、心頭滅却、あんの部長ぶっ飛ばす! とか色々思いを巡らすと、また活力がわいてくる。

 まあ、誰か愚痴れる相手が居ないわけではないのだが、いや、別にここで「馬鹿野郎~!」とか叫びに来た訳でもなし。たまにするけども。


 ともかく、何が言いたいのかといえば、ここが、この大自然が! 俺の心の『原点』なのだ!! …そんな気がする。都会育ちだけど…。


 そんな独白をしつつも、テントを張り、ガスバーナーで飯を作り、食べたら一人黄昏、満点の夜空の元でシュラフに身を包み眠りにつく。今は春だ、少し肌寒いが問題ない。


「お休みなさい」


 ………

 ……

 …


「…っぐぅ!? …ッガハ!!」


 いきなりの苦しさに目を覚ました。いったい何が起きているのか分からない。とにかく息苦しい…だけじゃない! 身体中が痛いっ!!


「…なん、だ、これ? …どうした、ってんだっ!?」


 訳も分からず、只ひたすらに痛みに耐える。この激痛が一分か、それとも十分か、時間すら分からずに悶え続ける。

 そうして耐えながら、拳を握りしめ苦しい息を整えようとしながら、今のこの状況を考え始めた。


(…ここ、は、テントの中? まだ暗い…いや、明るい? 朝か? シュラフ…に包まってる。怪我…じゃない? 周りは…誰も居ない?)


 痛みの為か、なんだか目がチカチカしている。今のところ、一人でただ悶えているだけで、この痛みの原因は分からない。苦痛が思考の邪魔をして中々考えが纏まらない。


(…まずい、な。助けも何もない。…俺、死ぬの? 死んじゃうの? …ヤバい、会社、連絡、報、連…相)


 そんなバカな事を考えながらも、体を丸め奥歯を噛みしめて、只々痛みに耐え続ける。こんなものは歯医者さんより痛くない…痛くない…痛い。


 そうしてどれほど時間が経っただろうか、あれほど身体中を走り回った痛みが段々と治まっていくのを感じる。深呼吸しながらもシェラフの中から這い出る。もちろん、まだ痛みは続いている。


「…ッフー、…ッフー。…何だってんだ、まったく」


 取り合えず、といった感じで一息つく。脂汗で体中がべとべとだ。自分がどんな状態に陥ったのか全く分からない。確認しなければ拙い事態だが、次の行動にうつる気力が湧かない。しばらくはボーっとしたい、何も考えたくない。


 ………。


(…そろそろ、いいか?)


 暫くの放心で心と体が大分回復してきた、もう痛みも殆んどない。ようやく考える頭が戻って来る。そうしたら腹も減ってきたが、とにかく現状を確認しなければならない。手探りで側にあるはずのLEDランタンを点ける。


(…汗はひどいが、外傷はない。…じゃあ病気か? 何かの発作か? 相変わらず目がチカチカするな)


 ランタンの光に照らされたテントの中に、何やら霞がかった様な、それよりもはっきりとしたダイヤモンドダストの様な、埃が日に照らされた様な、そんな感じの別の何かが目にチラつく。


(…まずは連絡だ。親、会社、病院、…というか今何時だ?)


 今回の休日はもう引き上げだ、と残念に、そして体調に不安を覚えながらもシェラフの枕元にあるスマホを手に取る。ボタンを押して光の灯る液晶画面は…午前3時、圏外。


「………ん?」


 時間はまだいい、結構早い時刻だ。誰もまだ起きてはいまい。しかし、圏外とは…なんぞ? 今時携帯が通じない場所は極々少数、勿論ここはそんな場所じゃない。

 首をかしげながらも、この状況に少し危機感を覚える。このままでは最悪ここでボッチの腐乱死体だ。白骨になるまでには見つけてくれるよね?


「…とにかく下山の準備をしよう。あと飯」


 敢えて声にする事で気持ちを落ち着ける。暗い中での山中行動は危険だ。とにかくすぐに動ける様に態勢を整えておこうと不安を押し殺し動き出す。

 荷物をいったんザックに詰めなおして背負い、ランタンを持って外へ向かう。まずは食事にしよう、元気の出るカレーがいいな。

 そんな事を思いながらテントの入り口の布を捲った。


「…。……。………oh」


 思わず変な声が零れ出た。


 だってね、だって…ねぇ?


 一歩出たら、目の前が、崖っぷちだったんだもの。



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