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彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート  作者: 空乃智春
【彼女が『乙女ゲーム』の悪役になる前に/高校編】
9/43

9.かわいい

 オウガは基本的に無愛想だ。

 それに、目つきが悪いからいつだって睨んでいるように見える。

 本当はいい奴なのに、そのせいで誤解されていることを私は少し悔しく思っていた。


 でも、なんというか。

 今日のことで、もしかしてそれだけじゃないのかもしれないと感じた。


「ねぇ、オウガって人見知り激しいほうなの?」

「人見知りか……どうだろうな」

 尋ねれば、オウガは少し考え込むような顔をした。


「そもそも、あまり人に興味を持つってことがなかったな。最初の頃は、関わろうと努力してた気もするが……昔のことすぎて忘れた」

 オウガは、私の作ったカレーライスを口に運ぶ。


 過去に何かあったのかもしれない。

 そう思いはしたけれど、聞いていいのかよくわからなくて。

 結局、何も聞けずに私もカレーライスを黙々と食べ続けた。



 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


「桜河くん、一緒にペア組まない!?」

 次の日の授業の時間。

 英語の時間に「自由にペアを組んでくださいね」と先生に言われ、オウガとサキが私の取り合いをしているところに、柳くんが現れた。


「……?」

 いっぱいいっぱいな感じで、柳くんが声をかけたというのにオウガときたら眉を寄せている。

 その顔は「なんでオレに声をかけるんだコイツは?」といった感じだ。

 もしかしたら、昨日助けたのが柳くんだということすら、覚えていないのかもしれない。


「それがいいね! そしたらあたしがメイコとペアくめるし。行ってこいオウガ!」

「おい、冗談じゃないぞ。なんでオレが知らない奴と組まなくちゃいけないんだ!」

 サキとオウガは、またわいわいと喧嘩している。

 先生がすっかり困り顔でオロオロとしていた。


「よし、柳くん。私と組もう! ほら、行こうか!」

「なっ、メイコ! それはないだろ!」

「そうだ、そうだ!」

 オウガとサキが何か言っていたが、たかが英語の授業のペアだ。

 無視して、私が柳くんとペアを組んだ。


「ごめんね、柳くん。オウガとペア組みたがってたのに」

「ううん。昨日は百瀬さんもありがとう。僕、どうにも断り切れなくてさ」

 謝れば、柳くんが首を横に振る。


「ところで、百瀬さんって桜河くんと仲いいよね。どういう知り合いなの? ずっと気になってたんだけど」

「酔っ払いに絡まれてるところを助けてもらって、それで知り合ったんだ。この国のことよく知らないっていうから、お礼に色々教えてたら仲良くなったの。まさか……同じ高校に入学してくるとは思わなかったけどね」

 そんな会話を挟みながら、互いに英文を読み上げていく。

 私の発音が当たっているかは、正直よくわからない。


「ふーん、じゃあ昨日の僕と同じように、桜河くんに助けられたんだね」

「まぁ……そうなるかな?」

 昨日のオウガは、柳くんを積極的に助けようとしていたわけじゃない。

 私に言われたから仕方なくといった感じだった。

 しかし、オウガへと視線を向ける柳くんの目はキラキラと輝いていて……まるでヒーローに憧れる少年のようだ。


「桜河くんって、格好いいよね。一人で異国にやってきたのに、しっかりしてるっていうか……十五歳って思えないほど、大人びてるっていうか」

 まぁ、実際の年は十五じゃないからね……なんて言えるわけもなく、苦笑いする。

 老けてるというのも、物は言い様で、柳くんには大人びていると映るみたいだ。


「最初はさ、怖い人で近寄りがたいのかなって思ってたんだけど……百瀬さんといるときは、そうでもないし……気になってたんだ」

「私といるときのオウガって、何か変わる?」

「大分違うと思うよ。表情が柔らかいし、桜河くんって人と壁を作ってるけど、百瀬さんに対してだけはそれがないもの」


 壁か。確かにオウガに対して、それを感じたことはない気がする。

 考え込んでいたら、ペアを組む時間が終わった。

 オウガの隣へ戻れば、浮かない顔をしている。


「どうしたのオウガ?」

 サキとペアを組まされたことで、嫌な思いをしたんだろうなと予想しながら声をかける。

「苛々しながら、プリントを書いていたんだが……」

 オウガが私の顔色を窺うように、シャーペンを見せてくる。

 一緒に選びに行って買ったシャーペンが、ボキリと二つに折れていた。

 どうやら力加減を間違ったらしい。


 またかという顔を私がすれば、弱ったような顔になる。

 オウガはかなりの馬鹿力だった。


「それ、折るの何本目?」

「五本目……だったような気がする。悪かった……」

 呆れたように言えば、オウガが俯く。

 反省しているらしい。


 別にオウガのお金で買った物だから、私に謝る必要はまるでないんだけど。

 まるで悪戯を叱られた犬みたいだ。

 ――柳くんは、私といるオウガは表情が柔らかいと言っていたけれど。どちらかというとこれは、情けない顔といったほうがいいかもしれない。


「ぷっ」

「な、なんだメイコ!? なんで笑う!?」

 思わず噴き出せば、オウガが戸惑った声を上げる。


「いや、オウガって結構かわいいところあるよねって思って」

「か、かわいい……? 何言ってるんだお前は」

 言われたことがなかったのか、オウガが戸惑っている。

 その顔が、何だか余計におかしかった。

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本作のその後の話、「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」もよければどうぞ。
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