8.スーパーでお買い物
「今日もまた、オレの家に寄るのか」
「うん。だってオウガ、私がいないと夕食買って済ますでしょ。それは体によくないと思うんだよね」
課題を終えたところで、オウガと二人で近くのスーパーへ行く。
オウガの部屋には立派なキッチンがあるけれど、本人は全く自炊をしない。
作れないわけじゃないみたいだけど、買って食べたほうが楽とのことだ。
オウガの家に上がり込んで夕飯を作り、それを食べてから私は家に帰る。
我ながらずうずうしいとは思うけれど、あの家で新しい家族と食卓を囲むのは気まずかった。
「まぁ、オレは助かるから大歓迎なんだけどな。メイコがこんなに料理上手だとは思ってなかったから、驚いてはいるが」
たぶんオウガは、私がオウガの家で夕食を作る本当の理由に気づいている。
そこには触れずに、受け入れてくれることを……口には出さないけれど、感謝していた。
「この間まで、主婦してたからね。オウガ、タマネギとにんじんもカゴに入れておいて」
「もしかして、今日はカレーライスか」
「正解。この間作ったの、結構気に入ってたでしょ」
「あぁ、美味しくて自分でも同じ材料で作ってみたんだが……メイコのものと同じ味にはならなかった」
何がいけなかったんだと、オウガは不思議そうな顔になる。
「ふふっ、実は隠し味があるんだよね。同じルーを使っても、カレーライスって家庭で味が結構違うんだよ」
そんな会話をしながら、会計を済ませて外に出る。
ふと、店近くの裏路地に、うちの高校の制服が目に入った。
うちのクラスの柳くんが、上級生の不良に絡まれている。
嫌な場面を見てしまったなぁと思った。
助けに入るのは怖いし、こういうのは見て見ぬふりが一番だ。
そうは思うのだけど……やっぱり放ってはおけない。
たしかあの場所、店の女子トイレの裏側だ。
女子トイレの裏側で変な声がするんですとか、トイレの中で店員さんを呼ぶフリでもすれば……きっとどうにかなるかもしれない。
「オウガ、ちょっと荷物持ってて」
「まさかとは思うが、助けにいくつもりか。金銭を要求されるくらい、男の世界ではよくあることだろう」
オウガが呆れたような声を出す。
「よくあることなのかは知らないけど、放っておけないでしょ。クラスメイトだし」
「はぁ……わかった。じゃあ、オレがどうにかしてくる」
私に荷物を押しつけ、オウガは直接不良達のところへ歩いていく。
「ちょっとオウガ! 危ないから! こういうのは店員さんとか、他の大人にお願いして……」
大丈夫だからというように、オウガが振り返りもせずに私へ手で合図をする。
オウガが不良達に話しかける。
遠すぎて内容まではわからないが、すぐに不良達は退散していった。
「これでいいんだろ」
「……何を話してきたの?」
面倒臭そうに口にしたオウガに尋ねる。
「こいつはオレのクラスメイトだから、そういうことはよせって言っただけだ。あと、ここはオレがよく買い物をする店だから、近くで目障りなことをするなって伝えた」
ほら行くぞと、オウガが買い物袋を持つ。
「あ、あの……!」
声をかけられて振り向けば、不良に絡まれていた柳くんがいた。
ひょろりとした優しげな男の子といった印象の子だ。
「ありがとう、桜河くん」
「礼ならメイコに言え。メイコが助けろって言ったから、助けただけだ」
お礼を言う柳くんに、興味なさそうな態度でオウガは先を歩いていく。
そのシャツをぐっと掴んだ。
「なんだメイコ。まだ何かあるのか。オレはお腹がすいたから、さっさとメイコの作ったカレーを食べたいんだが」
「柳くんがお礼を言ってるんだから、そんな態度はないでしょ?」
注意すれば、渋々というようにオウガが柳くんの方へ体を向けた。
「どういたしまして。これでいいか?」
物凄く投げやりに、オウガは言う。
まだ私は納得してなかったけれど……その場はそれで立ち去ることにした。




