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彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート  作者: 空乃智春
【彼女が『乙女ゲーム』の悪役になる前に/高校編】
7/43

7.友達の意味

「はぁ……」

「溜息が多いな。つまらないなら、オレをおいて先に帰っていいんだぞ?」


 放課後の教室。

 机に突っ伏した私に、オウガが気遣わしげな様子を見せる。

 転校生でありこの国にきたばかりのオウガは、勉強についていけていない。

 そのため、放課後に特別授業が組まれていた。


 夕方の教室には、オウガと私。

 担当してくれている先生は、三十分後にくるからと課題を告げて教室を出ていった。

 オウガは私が自分の課題に付き合い、待っていてくれていると勘違いしているらしい。


 それは大いに違う。

 私も同じく居残りさせられているだけだ。


 一学期バイトずくめだった私は、夏休みに補修を組まれていた。

 しかしそれをサボって……夏休みの間はオウガの家で遊んでばかりいたのだ。

 夏休みの課題は友達に見せて……もらうこともできなかったので、真っ白なまま提出した。


 案の定、毎日居残りだ。

 まぁ、どうせ家に帰っても落ち着かないし、オウガの家に行ったところで、結局勉強に付き合わされるだけなのでやることは変わらない。

 隣の席で知り合いということになっている私は、当然のようにオウガの世話係のような存在になっていた。


 オウガに教えなきゃいけない立場から、寝る前に授業の予習復習までしているので、最近の私ときたら勉強ずくめだ。

 高校生になって、こんなに勉強したのは初めてと言っていい。


「オウガってさ。意外と真面目だよね」

「意外ってなんだ。見るからに真面目だろう」

 オウガは心外だというように口にする。

 すでに私は、オウガに対して「さん」付けをやめていた。

 毎日のように一緒にいると、だんだん雑になってくるのも仕方がないことだと思う。


 この国の常識が欠如しているオウガは、私の予想外のところで問題を起こし、そのたびに私がフォローする羽目になっていた。

 そして、顔つきの悪さから、不良に絡まれることも多い。

 この間なんて、上級生に絡まれて、それを返り討ちにして。

 それがあっという間に広まり……オウガは少々皆に怖がられてしまっていたりする。

 オウガが関わるのは、私とちょっかいをかけてくるサキくらいのものだ。


 オウガ、いい奴なんだけどなぁ。

 もったいないなと思う。


「オウガさ、友達ほしいなとか思わないの?」

「なんだ急に」

 いきなりの私の質問に、こっちを見てオウガが眉を寄せた。


「だってオウガ、いつも黙々と勉強してるからさ。私やサキ以外とは話そうとしないし。せっかく日本にきたんだから、楽しまなきゃ損だと思うんだけど」

「別に……友達なんて必要ない。学校は、勉強するところだろ」

 私から目をそらして、オウガがまた課題に取り組み始める。

 その声色は硬く、心を閉ざされたような気がした。


「ふーん、そっか。オウガは友達いらないんだ。じゃあオウガは、私のことも友達とは思ってくれてないんだね?」

「メイコは……友達というか、ほらアレだろアレ」

 わざと拗ねたように口にすれば、オウガが困った顔をする。


「アレって何」

「……」

 自分で言ったくせに、オウガは『アレ』の内容が思いつかないらしい。

 難しい顔をして、机のほうへ目を落とし、いつも使っている電子辞書へと手を伸ばす。

 さすがにそれはないんじゃないだろうか。

 実際の年は離れてるし、出会いが出会いだったから、友達と言われてもしっくりこないのはわかるけど……その態度は傷つく。


「ちょっとオウガ、人の話聞いてる?」

『友達。互いに心を許しあい、対等に交わっている人。一緒に遊びにいったりする相手』

 オウガの背後に回れば、辞書がしゃべり出す。

 てっきり私の質問に答えたくなくて、課題をやりはじめたのかと思ったら、辞書で友達の意味を検索していたようだ。


 機械音声が静かな教室に響く。

 少しの間の後、オウガが振り返った。


「やっぱり、友達……なのかもしれない。メイコがオレに心を許してくれてるなら、だが」

 いつもより眉間に皺が多い。

 むすっとした言い方をしたオウガの頬は、西日のせいなのかほんのりと赤かった。


「そ、そうなんだ……ありがとう」

 真面目に返されると思ってなかったから、こんなときどういう顔をしていいのかわからなかった。

 私の反応に少し不満そうな顔をして、オウガはまた課題に取りかかる。


 友達だと思ってくれてるんだと思ったら、思いがけないほど嬉しくて。

 自分の席に戻って課題と向き合っても、手につかなかった。

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本作のその後の話、「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」もよければどうぞ。
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