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彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート  作者: 空乃智春
【彼女が『乙女ゲーム』の悪役になる前に/高校編】
4/43

4.男の部屋に泊まる意味

「今日は助かった。メイコのおかげでどうにかなりそうだ。今日のところはお金を借りておくが、後で必ず返す。遅くまでつき合ってもらって悪かったな」

 色々説明し終えれば、桜河さんがお礼を言って頭を下げてくる。


「ううん。こっちこそ、桜河さんのおかげで助かったから」

「そう言ってもらえると、ありがたいな。家まで送ってく」

 桜河さんが立ち上がったけれど、私はそのままベッドから動く気はなかった。


「その必要はないですよ。今日はここに泊まるつもりですから」

「……男の部屋に泊まるってことがどんなことか、わかってないのか? どうなっても文句は言えないんだぞ?」

 ごろりとベッドに横たわれば、桜河さんが脅すような口調でそんなことを言ってくる。


「わかってます。別にいいですよ、桜河さんの好きにして」

 投げやりな気分でそう言えば、はぁと桜河さんが溜息を吐く。

「子供相手に、そんな気分になるわけないだろう。そんな特殊な趣味はない」

 眉を寄せていう桜河さんは、もっと色っぽくなってから出直してこいとでも言いたげだ。


「だから、私もう十五で子供じゃありません! さっき買い物をしているときにも言いましたよね!」

「あーわかったわかった。そういうことにしといてやる」

 むくれた私を全く相手にせず、桜河さんときたら適当に返事をする。


「やっぱりお前も家出してきたんだな。何があったか聞いてやるから、言ってみろ。同じ家出してきた者同士だ。他の奴ならともかく、オレならわかってやれることがあるはずだ」

 子供をなだめるかのような響き。

 でもそこには、私を気遣う優しさがあった。

 少し泣きそうになって、桜河さんへ背を向ける。


「母さんが……再婚したの」

 たぶん私は誰かに話を聞いてほしかった。

 桜河さんは何も口を挟まずに、最後まで聞いてくれた。


「メイコは両親のことが大好きなんだな。その気持ちは、母親にも伝わってるんじゃないかと……思う」

 私を諭すでもなく桜河さんは呟く。

 何を言っていいのか、迷っているようにも見えた。


 ずっと黙っていたら、私が泣きそうに見えたのが、そっと頭を撫でてくる。

 それは髪に触れるか触れないかの、もどかしいものだった。


「なんで……そんなおそるおそる撫でてくるんですか」

「オレなんかに撫でられるのは、嫌だろうと思ってな。けど……お前を慰める方法が、これくらいしか思いつかなかった」

 起き上がって桜河さんを見れば、その顔に迫力が増していた。何か企んでいるような悪役顔は、もしかしたら困り顔なのかもしれない。


「別に、嫌じゃないです……」

「そうか」

 温かくて大きな手の感触は、お父さんを思い出す。


「……もっと撫でないんですか?」

 つい、おねだりするようにそんなことを言えば、桜河さんの手から少し遠慮が消えた。


「家に居づらいなら、いつだってオレのところに遊びにきていい。しばらくはここにいるから」

「……本当に?」

 ポンポンと軽く、桜河さんが私の頭を叩く。


「あぁ。メイコには他にも色々教えてもらいたいからな。ほら、行くぞ」

 目の前に差し出された桜河さんの手を取る。

 これ以上困らせるのは、よくないなと思った。


 大きな手から伝わる体温は温かくて。

 何だか……とても懐かしかった。 

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本作のその後の話、「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」もよければどうぞ。
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