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38.戸惑っているのは私だけのようです

 次の日は、実家でクリスマスパーティを計画していた。

 オウガと現れた私の姿に、家族は安心したような顔を見せる。

 事故の後、ずっとオウガの家にいたから、姿が見えなくて心配だったんだろう。


 クリスマスパーティは始終なごやかなムードだった。

 義父の史人さんに、編んだセーターを渡す。


「これ、私からのクリスマスプレゼントです……お父さん」

「メイコちゃん……」


 ちゃんとお父さんと言えた。

 史人さんの目からは涙が零れていて、ありがとうと言って受け取ってくれた。

 それをお母さんや弟達が、嬉しそうに眺めている。

 それだけで、パーティを開いてよかったなと思えた。


「オウガ、色々とありがとね」

「あぁ」

 よく頑張ったなというように、オウガが頭を撫でてくれた。

 照れくさくなって、紙袋からマフラーを取り出し、オウガの首に巻き付ける。


「これは……?」

「オウガにはお世話になったから、クリスマスプレゼント。前にあげたマフラー、もう色あせてたでしょ?」

 さわり心地を確かめるように、オウガがマフラーに触れる。


「メイコの……手編みか。わざわざ、作ってくれたのか」

「まぁね。オウガの瞳の色に合わせて、青にしたんだけど、やっぱり似合ってるね」

 出来映えに満足すれば、オウガがくしゃりと顔を歪めて私に抱きついてくる。


「ありがとな、嬉しい……一生大切にする」

「オウガってば、大げさなんだから」

 思わず笑ってしまうほどに、オウガは喜んでくれていた。

 ここまで喜ばれると、作りがいがあるというものだ。


「オウガくんは本当にメイコのことが大好きね」

「はい。メイコのことを愛してます」

 私達の様子を微笑ましそうに見ていた母さんに、オウガが答える。


「ちょ、ちょっとオウガ! なな、なんてことを言ってるの!?」

 真顔でそんなことをいうから、思わず焦る。

「いつも言ってることだろ? なのにどうして今日は……そんなに赤くなってるんだ?」

 オウガがニヤニヤとしながら、からかってくる。


 確かに、オウガはいつだって、そういうことを人目を気にせず口にしていた。

 普段の私なら、適当にあしらっているところだ。

 なのに、ムキになるなんて、まるで……オウガの言葉を本気にしているみたいじゃないか。


「あら? ……もしかして、もしかするのかしら!」

「はい。この間から、メイコとお付き合いをすることになりました」

 目を輝かせた母さんの前で、オウガが私の肩を抱き寄せる。


「じゃあ、オウガお兄ちゃん本当のお兄ちゃんになってくれるの?」

「ふっ、ようやく同士オウガの気持ちが届いたか。我が姉ながら、長かったな」

 やったというように末っ子のタケルがオウガに飛びつき、林太郎が健闘を称えるようにオウガの背を叩く。


「えっ? まだ桜河くんとメイコちゃん、付き合ってなかったの?」

「てっきり、恋人なのかと思っていたが……」

 義兄の大地と史人さんに至っては、私とオウガが恋人同士だと思いこんでいたようだ。

 オウガが恋人ということに戸惑っているのは……本人である私だけのようだった。



 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


 オウガと一緒に初詣に行ったり。

 遊びにいって、ごろごろと部屋ですごしては、ごはんを食べながらおしゃべりをする。

 オウガと一緒のベッドで寝ることにも、すぐ慣れた。

 恋人同士のふれあいみたいなものはなく、ただ寄り添って寝るだけだ。


 オウガと恋人同士になったのはいいものの、あまり今までと何も変わらない。

 ただ、私がアパートから、オウガの家に引っ越してきたかのような感じだ。

 昔から入り浸っているので、目新しさは特になかった。

 

「ねぇオウガ。あまり、今までとしてること変わらないね」

「そうだな」

 オウガは私に触れてくることが多くなったし、私も遠慮なく寄りかかるようになった。

 変わったことといえば、それくらいだ。


「互いの家ですごしたり、二人きりで遊びに行ったりとかは高校のときからしてたからな」

 それって恋人同士がするようなことを、今まで平気でやってたってことなんじゃ……。

 オウガの言葉に、友達というには距離は近すぎたのかもしれないと――気づく。


「もしかして、メイコは……もっと恋人っぽいことをしたいのか?」

 一人用のソファーに座って、本を読んでいたオウガが、眼鏡を外して私を見つめる。

 その瞳に見つめられれば、妙にぞくぞくとして。

 ――墓穴を掘ったような気がした。

 

 オウガは私の隣に座ると、私の耳たぶをくすぐるように、指の腹で撫でてくる。

「ん……」

 触れられるのは気持ちよくて、口から吐息が漏れる。

 その行為に、この数日ですっかり慣らされてしまった私は……オウガが触りやすいよう、無意識に首を傾けてしまっていた。


「メイコ、好きだ」

 オウガが囁く。

 前までは流せていた言葉が、胸の奥を撫でるようにくすぐってくるから不思議だ。

 甘い声を耳に流し込まれれば、オウガ相手なのにドキドキとしてしまう。


 オウガの顔が近づいてきて、ぎゅっと目を閉じる。

 唇をなぞられたかと思えば、頬に手を添えられる。


 キスされるのかな。

 そう思えば、緊張して体が強張る。

 ぎゅっと目を閉じたのに、いつまで経ってもキスはされなくて、そっと目を開けた。


「……風呂に入ってくる」

 オウガは、困ったような顔。

 ポンポンと私の頭を軽く叩いて、そのまま風呂へと行ってしまった。



 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


 事故にあってから、オウガは私にべったりでアパートの部屋に帰そうとはしてくれない。

 着替えをとってきて、一緒にオウガのマンションで過ごしている。


 私から目を離すことを、オウガは極端に怖がっている。

 買い物をするときも一人で行かそうとはしないし、時折私がここにいることを確かめるように触れてくるときがあった。


 あの事故のせいで、オウガに怖い思いをさせてしまったのが原因だろう。

 目を離した瞬間に、私を失ってしまうんじゃないかと、オウガは恐れているみたいだ。

 急に恋人になれと言ってきたのも、おそらくはあの事故がきっかけだった。

 トラウマを与えちゃったんだろうなと思う。

 

 不安を埋めるかのように、今日もオウガはベッドで私を抱きしめてくる。

 足も絡めて、寝ている間に私がどこかへ行くことがないようにしているみたいだった。


「ねぇオウガ、明日から会社だし……もうアパートに戻りたいんだけど」

 腕の中で体勢を変えて、オウガのほうを見る。

 薄明かりの中でも、距離が近いからオウガの顔がはっきりと見えた。


「それは……ダメだ」

「心配しなくても大丈夫だよ。オウガが見てない間に、死んだりしないから」

 私の言葉に、オウガは黙りこむ。


「信じられない。一度、メイコは……オレの目の前で死んだだろ」

「それは、どういう意味?」

 オウガは少し悩むような表情をみせて起き上がると、電気を付けた。


「《シグリル》」

 オウガが唱えれば、その手のひらに小さな雪のウサギが出現する。

「なっ、今どうやったの!?」

「魔法を使った。オレは魔法が使えるんだ、メイコ。あのとき死んだメイコを、回復系最高峰の魔法で蘇生させた」


 目の前のことが信じられない。

 驚く私に、オウガは他にも魔法を使ってみせた。

 どうやら……これは現実らしい。

 でも、オウガが魔法を使って助けてくれたとなると……つじつまの合う部分があった。


「オウガがずっと私に隠してたことって、コレだったんだね」

「まぁ……これもその一つだな」

 私の様子をオウガは窺っている。

 怖がられるとでも思っているんだろう。


「ありがとね、オウガ助けてくれて」

「……あぁ」

 お礼を言えば、ほっとしたようにオウガは表情を和らげる。


「だからって、こんなにべったりはダメだよ。オウガの為によくない。ずっとこの調子だと疲れちゃうよ」

「オレは平気だ」


 ずっと私と一緒にいればいるほどに、オウガは依存していくような様子をみせていた。

 私のことばかりを心配して、そればかりがオウガの中を占めていく。思い詰めていくようにもみえて、放ってはおけなかった。


「私が平気じゃないの。オウガ、このまま私をずっと閉じ込めておくつもり?」

「……」


 オウガは答えない。

 その無表情は、肯定のようにみえた。

 私の事故は大きな傷をオウガに残していってしまったらしい。


「オウガと私は恋人なんでしょ? 私のことをもう少し信頼してくれてもいいと思うな」

「だが……それは、メイコが本当に望んだことじゃないだろ。例えメイコが死ななくたって、オレが目を離した隙に……他の奴に奪われるかもしれない」


 つまり、オウガは不安でしかたないらしい。

 強引に私を恋人にしたという自覚はあるようだ。


「オウガと恋人になった実感は、確かにないけどさ。でもだからって、オウガの気持ちから逃げたりしないよ。今は恋愛の好きじゃないかもしれないけど……オウガを好きなことは変わりないんだから」

「……わかった」


 今の素直な気持ちを伝えれば、オウガは頷く。

 それから私の首に、ネックレスをかけてくれた。

 桃色の貝殻のような……綺麗な鱗がついたネックレス。

 あまり見たことのない素材で、触れると色がうねるように変わる。


「オレの一族が花嫁に送る、特別な鱗だ。オレが側にいないときも、それを身につけていてほしい」

「そんな大切なものを……私にあげていいの?」

「これはメイコのものだ」

 オウガはきっぱりとそういって、私の肩を掴み、額をくっつけてくる。


「オレの全てはメイコのものだ。例えメイコの心が、オレのものにならなくても」

 切なげな声に、こちらまで苦しくなる。

 同じように想いを返してあげられない私は、何も言うことができなかった。


「……メイコと離れるのは、辛いな」

 アパートの部屋の前まできて、オウガは名残惜しそうな顔をする。


 オウガときたら大げさだ。

 明日もどうせ、会社で会うというのに。

 そんな捨てられた子犬のような顔をされてしまうと、後ろ髪を引かれているかのようだった。


 しかたないなと、オウガを手招きする。

 近づいてきたオウガの頬に、軽くキスをした。


「なっ、なっ……!」

 子供の挨拶のようなキス。

 ただそれだけで、オウガは動揺をみせる。


 少しでも不安が埋まればいいなと思っただけなんだけど……。

 顔を赤くして、こんなかわいい反応をされるとは思ってなかった。


「おやすみ!」

 なんだかこっちも照れてしまって。

 ちょっぴり赤くなった顔を見られないように、急いで部屋へと逃げ込んだ。

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本作のその後の話、「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」もよければどうぞ。
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