34.本日は乙女ゲームの発売日です
「クライアントが二つ上のプランに変更するって言ってた件だけど、もう提案書は制作部に回した? 今日中に仕上がりを見せてほしいって言われてたよね?」
「……あぁ」
声をかけたのに、オウガは難しい顔でパソコンの画面を見ている。
先ほどから作業が進んでいる様子もなく、あきらかに生返事だ。
コツンと頭を叩けば、ようやく我に返ったようだった。
「一体どうしたの? 朝から変だよ。気分が悪いの?」
「大丈夫だ。メイコこそ……気分が悪かったり、調子が悪かったりしないか?」
オウガは何故か私の心配をしてくる。
どうしてそんな不安な顔をしているのか、よくわからない。
「やっぱり何かあったんでしょ。別に言いたくないならいいけど、今日は早く帰ったほうがいいよ。早退するなら私が代わりにやっとくよ?」
アニ●イトには寄れなくなるだろうけど、オウガの体調が悪いならそれどころじゃない。
けど、オウガは申し出を断った。
「心配してくれてありがとな。けど、平気だから」
「そう? 何かあったらすぐ言ってね?」
「……あぁ」
オウガが私の頭を撫でる。
今まで仕事中に、オウガがこうやって頭を撫でてくることはなかった。
その動作がまるで、自分を落ち着かせようとしているように見えた。
……無意識にやってしまっている感じだ。
本当に大丈夫かな……?
オウガはムリしがちだから、気になってしまう。
けど、熱もないみたいだし、体調が悪いわけではないようだ。
オウガに気を取られすぎてもダメだよね。
急いで仕事を片付けなければ、今日も残業になってしまう。
デスクに戻って、私は書類を片付け始めた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
今日はあの『黄昏の王冠』の続編の発売日。
どれだけ待ちに待ったことか。
絶対に今日手に入れてプレイする――その情熱だけで、作業はとてもはかどった。
これで業務のほとんどは、終了だ。
やりきった気分で最後の確認作業にと、リストを照らし合わせる。
一件だけ、まだ終わっていないものがあることに気づいた。
朝にクライアントから変更指示が出ていた、オウガの担当分だ。
「オウガ、朝に言ってたやつまだ出てないみたいなんだけど。もしかして、まだ制作に回してなかったりするの?」
確認すれば、オウガがしまったというような顔をした。
これは……残業決定だ。
「私も手伝うから、さっさと終わらすよ。どこまで終わってるの?」
「まだ、提案書も書いてないんだ……すまない」
相手はお得意様だし、商品のランクを変えてくることのよくあるクライアントだった。
対応は慣れているはずなのに、オウガらしくないミスだ。
「じゃあ私が前に作ったやつを流用して作るから、オウガはクライアントに遅れる旨を連絡して。それが終わったら、制作部に声をかけてきて!」
オウガに指示を出して、仕事を手伝う。
作業を終える頃には、日がすっかり暮れていた。
「よし、どうにかなったね!」
「助かった。ありがとな、メイコ」
ほっとした顔で礼を言って、オウガがクライアントに最終の電話をかける。
もう後は帰宅するだけだし、オウガも大丈夫だろう。
アニ●イトは会社から駅までの間にあるし、走ればギリギリ間に合いそうだ。
用意していた鞄を持って早足で会社を出る。
どうにか滑り込んで、ゲームをゲットすることができた。
「メイコ!」
誰からクリアしようかなぁ。家に帰るまで待ちきれないや。
ちょっとだけと、店の外で少しパッケージを眺めていたら、ふいに名前を呼ばれた。
「あれ、オウガ。どうしたの?」
オウガはここまで走ってきたらしく、髪が乱れていた。
「……よかった、まだ近くにいて。今日はメイコのおかげで助かったからな。一緒にご飯でも食べに行かないか?」
「ごめん、今日はムリ! 予定があるんだ!」
即答で誘いを断る。
オウガには悪いけれど、今日はゲームをすると決まっていた。
「予定ってなんだ」
「予定は予定だよ。おごってくれるなら別の日がいいな!」
後ろ手にゲームを隠しながら言う。
ゲームしたさに誘いを断ったと知られたら、オウガが呆れて、そしていじけるからだ。
「どこかに行くのか? なら……オレもついてく」
「なんでそうなるの!? やっぱりオウガ、今日は少し変だよ!?」
真面目な顔で、オウガはそんなことを言う。
「別に出かける予定はないよ。家に帰ってどうしてもしたいことがあるの!」
「じゃあ、オレもメイコの部屋に行く。もしくはオレの部屋でそれをすればいい」
いつものオウガは引き際をわきまえているのに、今日はしつこい。
一体どうしたんだと戸惑いながらも、振り切るように歩き出そうとした。
交差点へと足を向けた瞬間、いきなり明るい光が目に飛び込んできて。
まばゆい光の向こうには、大きなシルエット。
トラックが突っ込んできていると頭が認識する前に、息の詰まる衝撃と共に体が宙を舞った。
「メイコっ!!」
遠のく意識の中――オウガが、私の名前を呼んだ声がした。
◆◇◆【ここから先は分岐となります】◆◇◆
1.「オウガがメイコを助けられた」と思うなら
→このまま次の話へ(明日7時投稿予定です)
2.「オウガがメイコを助けられなかった」と思うなら
→「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」へ。
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