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彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート  作者: 空乃智春
【彼女が『乙女ゲーム』の悪役になる前に/社会人編】
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30.縮まる差

おうメイコンビ! 先日の件はどうなってる」

「クライアントのところへ訪問する約束をとりつけました」

「こちらが提案書になります」

 私が課長に答えれば、まるで事前に打ち合わせをしていたかのような流れで、オウガが提案書を渡す。


 私とオウガは高校を卒業後、この地域では知名度のある会社に就職した。

 どうにか卒業できた私とは違い、オウガは卒業する頃には学年主席で、大学へ行かないかと先生達から言われていた。

 なのに、それを全部蹴って、この会社に勤めている。

 

 今年の新入社員はたくさんいたはずなのに、秋になった今では半数に減っていた。

 この会社、仕事はやって覚えろとばかりに、育てる過程がすっぽり抜け落ちている。

 言われてから動いていては仕事にならなくて、自分で考えて行動しなければいけなかった。


 私とオウガは二人で一人前。

 会社内では、桜河オウガの苗字と私のメイコという名前から、セットで「おうメイコンビ」と呼ばれることも多い。


 気心の知れたオウガだから、苦手なところは補い合えるし、臨機応変に動ける。

 私が言わなくても、オウガが先を読んで行動してくれるから楽だ。

 他の人と組まされていたら、私も最初の時点で辞めていたと思う。


 ――うちの会社、新入社員が居着かないんだよね。

 入社した当初、上司はそう言って笑っていたけれど、これじゃ当然だ。

 努力した分認められる環境はあるし、やり甲斐のある仕事だからか、社員の年齢層は若い。

 けれど、明らかにオーバーワーク気味な会社だった。


「土日休みで、残業代出るだけまだましだよ?」

 愚痴を言えば、先輩である佐藤さんは笑っていたけど、笑い事じゃない。

 土日休みで高収入。

 それはとても魅力的だけれど、残業と仕事量が半端じゃなかった。



 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


「うぅ……もうダメ……」

「頑張ったな。ほら、ココア飲むだろ?」

 疲れたときに私が甘い物を飲みたくなることを、オウガはよくわかっている。

 残業が終れば、温かいココアを差し入れてくれた。


「明日はようやく休みだ……」

 休み。休日。ホリディ。

 なんて素敵な響きだろう。


「何か予定あるか?」

「まず昼まで寝るでしょ。それから『黄昏の王冠』をやるんだ!」

 尋ねられて元気よく答えれば、またそれかとオウガはげんなりした顔になる。


「前に一度クリアしてるだろうが」

「それがね! 『黄昏の王冠』の続編が来年出るみたいで、またやりたくなっちゃったんだ!」


 私は、前よりもさらに乙女ゲームにはまっていた。

 高校を卒業して一人暮らしなのをいいことに、自分でゲーム機を買い、乙女ゲーム漬けの毎日を送っている。

 これが仕事に疲れた私の、唯一の癒やしと言っていい。


「引きこもってばかりはよくないだろ。折角の週末なんだから、出かけるぞ」

「えー! 別にいいよ。ゲームやりたいし」

 社会人になってからは、オウガが私を外へ連れ出すことが増えていた。

 高校卒業と同時に車の免許を取ったオウガは、私を色んなところへ誘ってくる。


「古今東西ラーメンフェスタのチケットが二枚あったから、誘ってやったのに。行かないなら林太郎を誘うとするか」

「古今東西ラーメンフェスタって、有名ラーメン店が全国から集まって、ちょっとずつ食べられるっていう……あのラーメンフェスタ? もちろん行くよオウガ!!」


 食い意地に釣られれば、オウガがニヤリと笑う。

 どうにもオウガは一枚上手で、私の好みを知り尽くしていた。



 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


「う~美味しい!」

「そりゃよかった」

 ラーメンフェスタは大盛況で、頼んだラーメンは文句なしに美味しかった。

 満足した私に、オウガが笑う。


「オウガのやつも少し味見させて」

「あぁいいぞ」

 交換すれば、よりたくさんの種類が味わえる。

 オウガと二人で色んな種類を食べ比べし、締めはソフトクリームを食べることにした。

 

「それにしても、私達平日も休みも関係なく、ずっと一緒にいるよね。他の友達は休みの日を合わせるのが難しいし、大人ってこんなに忙しいと思わなかったなぁ……」

「まぁ、こんなもんだぞ」


 うなだれる私とは違い、オウガはあっさりしている。

 高校生になる前に、オウガは大人だったから私とはまた感じ方が違うんだろう。


 というか、高校生になる前から大人って色々と間違っている気もするけど……実は高校って年齢制限ないらしいんだよね。

 だから、オウガが戸籍を偽造して、十五歳で登録する必要も特になかったのだ。

 まぁ……今更だけどね!


「勉強嫌いだし、早く自立して大人になりたいと思ってたけどさ。今になると、学生時代のほうがよかった気するんだよね……」

「まぁ、楽しかったからな。けどオレは今の生活に満足してるから、もう一度学生をやりたいとは思わないが」

 うなだれた私に、ふっとオウガは笑みを零す。


「オウガは今に満足してるんだ? というかさ……どうしてこの会社を選んだの? オウガなら大学も行けたし、もっといいところ狙えたのに」

「そんなの、オレにはどうでもいいことだ。メイコと一緒にいられればそれでいい」


 もしかしてと思いながらも、ずっと聞けなかったこと。

 予想どおりの言葉が迷いなく返ってきて、深く溜息を吐く。


「オウガさ、人生棒に振ってるよ? なんで私についてきてるの。仕事っていうのは、未来のビジョンをしっかり描いてだね……」

「メイコが側にいてくれたら、オレの未来はそれで十分なんだが」

 説教しようとすれば、オウガは真顔だった。


 これ本気で言ってるな……。

 まぁ、オウガといると楽だし、そう思ってくれているのは嬉しいんだけど。

 それだと、オウガの為にならない。

 

「あのね、オウガ。私もずっと側にいられるわけじゃないんだよ? 腐れ縁でここまできちゃったけど、私にばっかり構ってないで、オウガもいい年なんだからいい人探さなきゃ」

 オウガが黙りこみ、地雷を踏んでしまったと悟る。


 どうにもオウガは、結婚はとかいい人を探せとか、そう言われるのが嫌いらしい。

 顔の怖さゆえに、女性にふられまくっていたと……いつだったか聞いたことはあった。


「大丈夫だって! 目つきは悪いけど、よく見れば整った顔してるし。性格もいいんだから、きっと中身を見てくれる人が現れるよ! 収入もばっちりで、優良物件なんだしさ!」

 元気づけようと背を叩いたけれど、オウガはむすっとしたままだ。


「オレは、メイコがいいって何度も言ってる」

「だから、実際の年が離れすぎてるでしょうに」

 面白くなさそうな顔をするオウガに、毎度のツッコミを入れる。


「戸籍上は同じ年だろ」

「その戸籍上っていうのがアウトでしょ。色んな意味で。私とオウガが並んでも、年の離れた兄妹にしか見えないでしょうが」

「今はそうでもないだろ。メイコの年がオレに追いついてきてる」

「まぁ……確かにそうかもしれないけど」


 オウガの見た目は、出会った頃から変わらなくて、相変わらず三十代前半くらいにしか見えない。

 でも、私とオウガの見た目の年齢差は……確実に縮まってきていた。

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本作のその後の話、「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」もよければどうぞ。
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