3.ホテルへ行くことにしました
ぼかしてはいますが軽いR15があります。タグもつけたしました。
まず閉店間際の店に乗り込んで、私のお金で桜河さんの服を買った。
どこか中華風っぽい着物と袴は、どうしても目立ちすぎるからだ。
宝石を換金する場所を尋ねられて、質屋を教えたけれど、すでに店は閉まっていたので換金はできなかった。
買い物をする場所としてスーパーへ案内すれば、買い方がよくわからないようだったので、それも私が教えてあげる。
桜河さんは、色々とカルチャーショックを受けているみたいだった。
でも、これが当たり前として暮らしてきた私には、桜河さんがどの部分に強い衝撃を受けているのかがよくわからない。
全財産を下ろしてきたから、財布の中はとても潤っている。
好きなお菓子もたくさん買って、贅沢に買い物をしてから桜河さんと夜の街を歩いた。
こうやって自分のためにものを買うなんて、いつぶりだろう。
アイスを桜河さんに手渡し、それを舐めながら開放感に浸る。
何だか不良になった気分だった。
さっきまでウジウジしていたのに、楽しい気分になってくるから不思議なものだ。
ホテルの手続きまで私がやってから、桜河さんの部屋へ乗り込む。
この国のことを説明してあげながら、ベッドに二人で買ってきた総菜を並べて、それを摘まんで食べた。
修学旅行の夜みたいで、なんだか楽しい。
「しかし、この世界には変なものがいっぱいあるな……あの薄い板は一体なんだ?」
「アレはテレビだよ。このリモコンのボタンを押すと、番組が見られるの」
ボタンを押して操作すれば……子供は見ちゃダメな映像が流れ出す。
画面の中の男女はまだ服を着ていたけれど、今にも何かはじまりそうな雰囲気だ。
有料チャンネルも見られるプランにしていたから、映画でも見ようかな思っただけなのに……うっかり間違えて、アダルトなチャンネルにしてしまったようだ。
「なんだこれは……!」
「わっ!? あっ、いやこれはその……!! 違うの、ボタンちょっと間違っちゃって! 決してえっちな番組を見たかったわけじゃなくて!」
すぐにテレビを消そうとしたけれど、焦ってうまくいかない。
「なんで、箱の中に人間が入ってるんだ!?」
うろたえていたら、桜河さんが驚きの声を上げた。
「えっ、驚くのそっちなの!?」
「おい人前でそういうことをするのは、すぐにやめろ。子供の前ですることじゃないだろう!」
ついツッコむ私の前で、桜河さんときたら、テレビの中の人に向かって話しかけている。
「ちっ、聞こえてないのか! どこから引きずり出せばいいんだ、こいつらは……」
「桜河さん、そこどいて! リモコンのスイッチが効かないから! というか、テレビ持ち上げちゃダメだって!」
リモコンのボタンを必死に押してテレビを消そうとしたけれど、桜河さんが邪魔になって操作が効かない。
「興味があるのはわからんでもないが、こういうのはもっと大人になってから、自然とだな……」
「いや、そういうアレじゃないから!」
何を勘違いしたのか、桜河さんが私に説教を始めようとすれば、テレビの中の女優さんがひときわ大きなあられもない声をあげる。
桜河さんの眉間に皺が寄り、これはまずいなと危機感を覚える。
女優さんはすでに半裸だ。
桜河さんは私の制止も聞かず、テレビを掴んで持ち上げ、上下に振り出した。
「いい加減にしろよ、お前ら!そういうことは人のいないところでやれ!」
「ダメだって桜河さん、テレビを振っちゃダメ! それ中に本当に人が入ってるわけじゃないからね!?」
桜河さんときたら、結構な力持ちだ。
大きなテレビだから相当重いはずなのに、軽々と振ってみせる。
お願いですからやめてと、その腰にしがみついた。
「出てこないな……たたき割って、引きずりだしてやろうか」
「お願いだから、それだけはやめようよ! 私が悪かったから! テレビ壊れちゃうっ!!」
ホテルのテレビを壊すなんて、とんでもない!
必死になって説得すれは、ようやく桜河さんはテレビを元の場所に戻してくれた。
直接本体のボタンを押してテレビの電源を落とせば、桜河さんがテレビの裏を覗き込む。
「なんだ、消えたぞ!? あいつら、どこへ行った!?」
「そんなところに、誰もいませんからね!? 私も悪かったけど……桜河さんは、常識というもの知らなさすぎです!!」
桜河さんは日本を知らないというか、世間一般の常識がかなり欠如しているみたいだ。
この後、テレビというものについて、しっかりとレクチャーしておいた。