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彼女が『乙女ゲームの悪役』になる前に+オウガIFルート  作者: 空乃智春
【彼女が『乙女ゲーム』の悪役になる前に/高校編】
28/43

28.宣戦布告2

「……オウガ、高橋くんを脅したりした?」

「脅してはいない。彼氏なら彼女を大切にしろと、当たり前のことを言ってやったまでだ。その名前を聞くだけで……腹が立つ」

 屋上に戻って尋ねれば、オウガが苛々としたように答える。


 これ、絶対に高橋くんを脅したなと確信する。

 オウガは今までにない凶悪面をしていた。


「ちょっとオウガ! なんで勝手なことしてるの! 私、ふられたんだけど!」

 大切にしろと高橋くんに言ってくれたのは嬉しいけど、それとこれとは話しが別だ。


「そうか……別れたのか!」

「どうして嬉しそうなの! ちゃんと、反省してる!?」

「いや全く。あの程度で諦めるなんて、所詮本気じゃなかったってことだ。オレ以上にメイコを好きで、大切に出来る奴じゃないと認めない。まぁ、そんな奴いないと思うけどな」

 オウガはくくっと上機嫌に笑いながら、目を細めて私の頭を撫でてくる。


「どうしてオウガのお許しが必要なのよ。それだと、一生私に彼氏ができないじゃない!」

「そんなことはないだろ。オレを彼氏にすればいい」

「……へ?」

 ツッコミに対して、さらりと返されたセリフに言葉を失う。

 オウガは真顔で何を言ってるのか。

 

「好きだメイコ。大切にするし、オレの全てをかけて幸せにしてみせる。だからオレの花嫁になってくれ」

 ぎゅっと私の両手を、その大きな手のひらに閉じ込めて。

 まっすぐ目を見つめて……オウガはそう言った。


「ははっ、オウガったら!」

 いきなりのプロポーズ。

 さすがに驚いたけれど、笑いがこみ上げてくる。


 滅多にないオウガの冗談。

 結婚してもいいと思うくらいには、私を気に入っているんだと伝えたいらしい。

 オウガにとって、これが最上級の好意の示し方なんだろう。


 こんなに好かれていたなんて思わなかった。

 少々行き過ぎな突き抜けた友情の示しかたに、くすぐったい気持ちになる。

 そんな執着が嬉しいなと思ってしまうあたり、私も何だかんだでオウガが大好きだ。


「ありがとうねオウガ。私もオウガのこと大好きだよ!」

「メイコ……!」

 好意には好意を。

 まっさらな気持ちを伝えれば、オウガの顔が明るくなる。


「うん、仲直りしよう! 皆が彼氏作るから焦って、ついサキに流されちゃったけど、オウガと遊んでるほうがずっと楽しかったんだよね! 私に彼氏はまだ早かったみたい!」

「……は?」

 仲直りの握手のつもりで、オウガの手を硬くにぎりかえす。

 先ほどまでの嬉しそうな表情から一転、オウガは困惑した顔になった。

 

「しばらく彼氏はこりごり! ねぇオウガ、久しぶりにカラオケ行こうよ。高橋くんの前ではいい子ぶってたから、ストレスが溜まってるんだよね!」

「……オレの話しをちゃんと聞いてたか? オレは今、メイコに告白したと思うんだが」

 思いっきり伸びをすれば、オウガが眉間に皺を寄せる。


「うん、聞いてたよ。だから私もオウガのこと好きだよって返したじゃない」

 好意をもう一度言葉にするのは、どうにも照れくさくて。

 少しぶっきらぼうな口調で答えれば、オウガは黙りこむ。

 もしかして、言葉がわかりにくかったんだろうか。


「私も、オウガのこと一番の友達だって……親友だって思ってるから」

 親友という言葉はどうにも慣れない。

 オウガは戸惑った顔をしていた。私が初めての友達だと言っていたから……まだ、親友という響きがしっくりこないのかもしれない。

 どうにも恥ずかしくなってきて、強引にオウガの手を取る。


「ほら行くよ、オウガ!」

「えっ、いや……ちょっと待てってメイコ!」

 この後はオウガとカラオケに行って、夕飯を一緒に食べてゲームをして。

 やっぱり気の合う友達……親友と遊ぶのは、この上なく楽しいんだと再確認した。


「やっぱり、オウガと遊ぶのが一番楽しいね!」

 夜道を送ってもらいながら、オウガと会話する。

 ただ一緒に歩くだけなのに、そんなことすらも特別に思える。


「オレもメイコといるのが一番楽しいが……そうじゃなくてだな……」

「そうじゃなくて?」

 聞き返せば、オウガは私の顔をみて盛大な溜息を吐いた。

 それから乱暴に、私の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「なんでもない。焦らないことにする。諦める気は一切ないからな!」

「一体、何のことを言ってるの?」

 なぜオウガは怒った顔をしているのか。

 わからなくて首を傾げれば、さらにご機嫌を損ねたようで眉間に皺が増えた。


「そのうち、嫌でもわからせてやる!」

 オウガが不機嫌になった理由は、よくわからなかったけれど。

 前よりも距離がぐっと近くなったような、そんな気がした。



 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


「今日もメイコの料理は美味しいな。オレの花嫁になってくれないか」

「はいはい。これくらい普通だからね? そんなに気に入ったなら、私の分も少し分けてあげる」

「あぁ、ありがとう……って、違う。メイコ、ちゃんとオレの言葉を聞いてるのか!?」

 高橋くんと別れ、オウガとの友情を確かめあった後から、オウガは変わった。


 私への好意を隠さなくなったというか、人前でも冗談をいうようになった。

 眼光の鋭さは相変わらないけど、以前よりも明るくなって、表情も豊かになった。

 ノリツッコミだってこのとおりだ。

 取っつきやすくなったと、クラスの皆からも言われている。


「……メイコは冷たい」

 私が素っ気なくすれば、オウガは分かりやすくいじけた顔をする。

 まるで冬の雪が溶けて、春の野原へなるような……そんな変化。

 それが自分のことのように嬉しい。


「そうだぞ、我が姉よ。同士オウガはそなたの魂の片割れであり、いずれ我の兄となる運命さだめ。その内に秘めたるは我が姉の鋼のような心臓と違い、飴細工のように繊細なのだ」

「そうだよお姉ちゃん。オウガ兄ちゃんに嫌われちゃうよ?」

 オウガの家に一緒に遊びに来ていた林太郎とタケルが、私に注意をしてくる。


「何度も言うけど、オウガはただの友達で、恋人でも何でもないんだからね?」

「時間の問題だ。我が姉をここまでフォローできるのは、同士オウガ以外にいない。というか、余計に同士オウガが落ち込んだではないか。我が姉は本当に恋心というものがわかっていない……」

 私に対して、林太郎がやれやれと肩をすくめる。


 なぜ小学生の林太郎に、恋心について語られないといけないのか。

 オウガを慕う林太郎は、私とオウガがくっつけばいいと心から思っているようだ。

 人見知りで女の子どころか、同級生にだって話しかけられない林太郎にだけは、そんなことを言われたくなかった。

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本作のその後の話、「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」もよければどうぞ。
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