27.宣戦布告1
「ここ数日、メイコに避けられてから……ずっと苛々してた。メイコのことだから、何か理由があるんだろうって、話してくれるまで待つつもりだった」
オウガは、私の目を見つめたまま、ゆっくりと語り出す。
「けど……自分でも思ってた以上に、メイコと話せないのが辛くて。メイコに話しかけようとしたら、サキのやつが……メイコは、もうオレと関わりたくないんだって言ってきた。オレが嫌になって、避けてることに早く気づけって言われた」
サキときたら、何ていうデタラメをオウガに言ってくれてるのか。
出会った当初から、犬猿の仲の二人だけれど……オウガにこんなことを吹き込むのはさすがに酷い。
「メイコが仲良くしてくれるから、忘れてたんだ。自分が嫌われて、恐れられる存在だってことをな」
オウガは自嘲した。
「もっと仲良くなりたいと望むと……相手は離れていく。オレをを怒らせるのが怖いから、優しくしてくれてたんだと、後になって気づくんだ。メイコも今までの奴らと同じだった。それだけの話で……しかたないって思おうとしたんだ」
私へとオウガが一歩、距離を詰める。
「けど……ムリだった。メイコだけは他の奴と違うって、心が叫んでたんだ。嫌われたわけじゃないってほっとする前に、彼氏ができたって聞いて……それどころじゃなくなったけどな」
さらに一歩、オウガが近づく。
息をのむような威圧感。
思わず後ずさりすれば、柵に背中が当たるところまで追い詰められた。
「メイコ」
「な、何……?」
オウガの両手が私の体を挟むように、柵へと押しつけられる。
まるで猛獣の檻に放り込まれて、囚われたような気分になった。
慣れている私でも怯んでしまう迫力が、今のオウガにはあった。
「あんなやつより、オレのほうがずっとメイコを好きだ。メイコのことを好きでもないやつに渡す気はない」
宣戦布告みたいなことをいうオウガは、ふっきれた顔をしていた。
それだけ言うと、身に纏う空気を軟化させた。
「大体、なんだあの男は。メイコが目の前で男に連れさらわれたのに、追ってもこない。会計もメイコ一人にやらせて、置き去りにして歩いて……なんでアレと付き合ってるんだ」
柵から手を離して、オウガが腕を組む。
眉間に皺を寄せ、呆れたような口調。
いつものオウガがそこにいて、そのことにほっとする。
体に力が入りすぎていたと今になって気づいた。
「オウガ、まるで娘を嫁にやらん!っていうお父さんみたい」
「おと……人が告白してるのに、お前なぁ……」
思わず笑ってしまえば、オウガが気の抜けたような顔をする。
それがおかしくて、さらに声を上げて笑えば、オウガもつられたように表情を崩した。
「というか、オウガ先に帰ったはずなのに……どうして私がお会計をしたって知ってるの?」
「あ……えっと……それは、だな……」
気になったことを尋ねれば、オウガがしまったというような顔になる。
私のことが気になって、帰ったふりをして様子を見守っていたらしい。
心配してくれてたんだなと思うと、嬉しくなる。
そのとき、私の携帯電話がぶるりとポケットの中で震えた。
オウガに断ってから、携帯電話の画面を確認すれば、高橋くんからメールが入っていた。
今日もファミレスに呼び出しかな?
そう思ったのに、そこには「別れよう」の一言だけ書いてある。
あれ……私、ふる前にふられた?
いやまぁ、いいんだけど。
わかりましたと返信しようとして、こういうのはやっぱりメールよりも、直接電話するべきだよねと思い直す。
「オウガ、少し待ってて!」
屋上にオウガを残して、階段を下る。
人気のない空き教室へと入ってから、電話をかけた。
「もしもし、高橋くん? 私です。朝倉ですけど……別れようって、どういうことですか?」
『そのままの意味だけど』
ただ用件を伝えるかのような平坦な声で、高橋くんは呟く。
『昨日あの後、朝倉さんの友達に声をかけられたんだけどさ。遊びで付き合って、朝倉さんを悲しませたら殺すって脅された。正直、面倒だなって。俺、そこまでして朝倉さんと付き合いたくないし』
「はぁ……」
『そういうわけだから』
曖昧に返事をすれば、言いたいことだけ言って高橋くんは電話を切ってしまった。




